【データから考える】学習塾・予備校業界は衰退しているのか?
予備校の古参「ニチガク」が破産したことで、学習塾・予備校業界が危ないという論調があります。昨年の倒産件数も最大を記録したこともあり、業界の崩壊を主張する人も。
本当に学習塾・予備校業界は衰退しているの?
ただ、本当に学習塾・予備校業界は危ないのでしょうか。
矢野経済研究所によると、ここ数年、学習塾・予備校業界の市場規模は横ばいです。少子化と言われ、市場はシュリンクすると言われていましたが、結果は1人あたりの単価が上がり、市場規模は変わりませんでした。
また、「特定サービス産業動態調査」によると、2021年から大幅に売上・受講生数を増やしており、業界全体ではシュリンク、衰退とは言えません。
業界のビジネスモデルが変化した
ただし、内訳が激変しており、業界が成長しているから各企業も成長しているとは言い難い状況です。東進やマナビスのような映像授業や東京個別指導学院や明光義塾といった個別指導が台頭し、スタディサプリやスマイルゼミなどのデジタル教材、武田塾のような授業をしない塾と、これまでの集団授業から大きく変わっています。
また、ターミナル駅の駅前にビル一棟をかまえる代ゼミ・河合塾スタイルから、地元駅や進学校そばにテナントを借りるスタイルへ変化してきました。
この点でニチガクの経営戦略は古かったといえるでしょう。ターミナル駅である新宿に展開し、授業スタイルも集団授業で、時代の潮流に乗れなかった企業が倒産した、ある意味、当たり前の結果です。
問題は講師にも生徒にも知らせずに、冬期・直前講習申し込み後に(明らかに計画)倒産したことです。これは脱毛サロンなど前金型のビジネスモデルで散見される状況です。また別の機会で語りたいと思います。
ユーザーのニーズを捉えた大手・ベンチャーがシェア拡大
10年近く前に学習塾・予備校業界の再編が起こり、既存企業の優勝劣敗が明確になっていました。現在、倒産しているのは、その流れに乗れなかった中小企業でしょう。
今後、倒産するとしたら、従来型の集団授業を実施している企業になります。
なぜなら、ユーザー側のニーズを満たしていないからです。生徒の学力は二極化しており、自律学習できる優秀層が通う映像授業や武田塾のような塾・予備校と、学習習慣がない子が通う個別指導に分かれます。一方で従来型の集団授業がカバーする平均値の生徒が減っています。
よりユーザーのニーズに合致したサービスが伸びるのは必然でしょう。今後、中小の学習塾・予備校が倒産するケースも出てきますが、少なくともデータからは業界が衰退しているから倒産が増えているのではなく、事業モデルを変えられない古い体質の企業が倒産している、というほうが正しいといえます。
上記のニュースから、「学習塾・予備校業界は(衰退が始まっていて)ヤバい」と考えるのは間違いとおわかりいただけましたでしょうか。
不安を煽ることでPVを稼ぐメディアのあり方に疑問
さて、ここからは個人的見解ですが、メディアでこのようなミスリードを誘うような記事が増えているように感じています。
別の機会に書きたいと思いますが、転職でも同様の状況です。確かに転職希望者数は増加しているものの、転職者数自体は過去10年以上、大きな変化はありません。にも関わらず、一部の状況を取り出して「転職時代」「転職が当たり前」と煽るような記事が存在します。
転職サービスに属するものとして、転職が当たり前の時代になるのは歓迎ですが、転職は必須ではありません。新卒で入社した会社が転職なら、それはそれで幸せなことです。
新卒の3年内離職率も取り上げましたが、ここ数年で上昇した事実はありません。なのに、「今の若者は転職が当たり前」という論調はおかしい。きちんとデータの裏を取って、世の中の論調を見ていくことが、現代を生きる私達には求められています。
※2025年1月12日追記
倒産件数の増加は教育産業だけでなく、人材関連サービス業などでも起こっています。特に教育産業と人材関連サービス業は、少数の大手が寡占状態で、そのほかは10数名規模の小さな企業ばかりの偏りのある業界です。それを踏まえると、コロナ禍によるゼロゼロ融資で延命措置を受けていた零細企業がついに倒れた、というほうが納得感があります。
一つの業界だけをミクロ視点で見ると、確かに倒産件数が増え、業界の将来が危ういように見えますが、業界を超えたマクロな視点でみると、また違う世界が現れます。
何事もマクロとミクロ両方から見ることが大切です。