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何度もいうが、SI業界(SESも含む)は構造変化をするべきだ

先日、あるIT人材企業(SES)が派遣した技術者の経歴が偽りだったというニュースがありました。

多重請負構造のSI業界のなかで、割とよくあると言われていたことです。ですが今回、事件化されたのは珍しいと言えます。なぜ発覚し、事件化したのかは他に任せるとして、多重請負・経歴詐称がまかり通ってしまっているのが、SI業界の現状です。

あらかじめ言っておくと、真面目にやっているSIerやSESもあるので、すべてのIT企業がこうである、というわけではありません。むしろ、少数派でしょう。

しかしながら、SESという業態が引き起こした事態でもあります。冒頭の企業は請負・SESともに事業としていましたが、どちらも客先常駐で実態はSESでしょう。

個人的な意見として、請負(受託)案件にもかかわらず客先常駐という働き方は、本来あるべき業務の主体性を損なっていると考えます。

株式会社アクシアの代表・米村氏は「SESは消滅すべき」と語っています。

私の主張は、そこまで過激ではないですが、SESは技術者派遣に含めるべきだと考えています。

というのも、現状ではSESは多くが準委任契約という形で、技術力提供というビジネスモデルです。つまり、派遣法をすり抜けてしまっている。しかし、この構造は偽装請負を誘発しやすいビジネスモデルです。派遣ビジネスは人さえいればビジネスになり、あとは人月単価を上げることで利益を得ています。ともなれば、今回のように技術力を詐称し、単価を上げようとする力が強くなります。

今回の問題は、そもそもSESというビジネスモデルの問題です。違法な行為が行われる重力が強いので、法のもとに管理すべきではないでしょうか。

■問題が発生する3つの理由

なぜ、このような問題が起こるのか。一言で言えば、SI業界が多重請負構造だからです。なぜ、多重請負構造になるのかといえば、主に3つの問題があります。

(1)そもそも、システム開発がフルスクラッチ・フルカスタマイズ
(2)既存システムの運用・保守に労力がかかりすぎる
(3)プライムSIerがSESを雇用の調整弁として使っている

一言で言えば、「無駄な開発をお手盛りでやっているから」なのですが……一つずつ説明したいと思います。

■システム開発がフルスクラッチ・フルカスタマイズだから

世界(主に欧米)と日本のシステム開発では、大きく異なる点があります。れがフルスクラッチ開発、フルカスタマイズ開発が多いということです。フルスクラッチ開発とは、既存のシステムを利用するのではなく、ゼロからシステムを組み上げていく開発を指します。

エンドユーザーである事業会社は、自分たちの業務を「特殊だから」「現状の業務フローをシステム化したい」という理由から、パッケージソフトの業務系システムを既存のまま使いたがりませんでした。業務に合わせたシステム開発なので、ゼロからつくるか、既存システムであっても大幅なカスタマイズが求められます。結果、多くの人員を必要とします。そのため、1社あるいは2~3社だけでは人員が足りません。

例えば、みずほ銀行の基幹システム「みのり」は、計35万人月という膨大な人員を必要としました。

しかし本来、業務系システムの開発は業務内容・業務フローの見直しと同時に行われます。あるいは、優秀な業務系システムのフローに合わせるのが、欧米のシステム導入です。Salesforceなどが良い例ではないでしょうか。

開発に人手が必要になるので、とにかく猫も杓子もとなります。それをビジネスチャンスと、ほぼ未経験のようなエンジニアを詐称してねじ込む企業が出てくるわけです。

■既存システムの運用・保守に労力がかかりすぎる

上記のように、フルスクラッチ・フルカスタマイズされたシステムに加え、そのシステムを機能追加し続けて複雑なシステムになっているため、運用にも人手がかかっています。

しかし、運用・保守そのものはコストでしかないため、経験はあまり問われません。これもまた、多少、経歴を詐称しても問題がなく、違法に単価をあげる原因となります。

プライムSIerがSESを雇用の調整弁として使っている

欧米の場合、自社に開発者を抱えているので、業務系システムもエンドユーザー自身が開発します。日本でも本来、情報システム部は開発する部署のはずです。そうでなくても、ベンダーをコントロールするPMとしての役割を担います。

ですが、現状ではベンダー(SIer)に丸投げしていることも多く、エンドユーザーがプロジェクトをコントロールできていない場合がよくあります。そのため、要件の段階で決めきれないため、適切な人員構成やスケジュールを見込めず、開発が進むにつれ問題が発生し、スポットで人員を必要しがちです。

そこで登場するのが、冒頭のSESです。SIerは遅れている開発に短期間で投入できるので、人員調整の役割を果たしています。喫緊の課題なので、SESから紹介されるエンジニアの技術力を精査せずに投入してしまう。そのため、経歴偽装を見逃してしまうわけです。

■今回の問題は、構造的な問題

以上のように、独自のシステムを、多重請負構造で開発しているために、起こるべくして起こった事件と言えます。このような事件は、この構造では今後も起こるでしょう。だからこそ、構造変化が求められます。

特に、DXにおいてエンドユーザーが自社で開発をし始めた今、構造改革をする絶好の機会です。

この事件はIT業界の氷山の一角に過ぎません。ぜひとも、SIer・SESの方々は、この事件を他山の石とせず、正しいあり方に変革をしていただきたいと願っています。

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似非教授
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