堀木俊さんによる第2回「これからの価値づくりセミナー」
「これからの地域を支えるデザイン経営」を本気で学ぶ場所として、2023年にスタートした越前鯖江デザイン経営スクール。
2023年11月11日(土)に第2回「これからの価値づくりセミナー」を開催。建築家の堀木俊氏に「冒険」というテーマで講演いただきました。設計活動を「冒険」と捉える堀木さんから、どんなお話が聞けるのでしょうか。
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まずは堀木さんの自己紹介から。隈研吾建築都市設計事務所に所属しながら、個人事業「mapa(material and pattern arrangement)」としても活動中の堀木さんは、「ある素材をあるパターンに当てはめてマネジメントする行為」が得意なのだそう。
続いて、堀木さんが手がけてきたプロジェクトのうち、石川県の小松マテーレ(2015)、富山県のヘルジアンウッド(2017)などの事例を紹介いただきました。北陸のプロジェクトを担当していたことをきっかけに、2020年に富山県に移住されたという話に会場が驚く場面も。
堀木さんを象徴するキーワードは、徹底的なリサーチと素材。リサーチの大切さに気づいたきっかけは、スイス留学中に取り組んだアテネを題材にした設計課題。まったく知識のないアテネについて知るために、半年かけて文献を読み漁ったり、まちなかを歩き回ったり、似た課題を持つ地域を調べたり。歴史・経済・環境問題・移民問題などさまざまな角度からリサーチすることで、社会を変えられると実感できる提案ができたのだといいます。
また、次の3つのプロジェクトを通して、リサーチと素材にこだわることの大切さを紹介いただきました。
①群馬県の富岡市庁舎プロポーザル
現地の図書館で古地図や土地台帳を読み漁り、都市構造を把握。徹底的にリサーチすることで、その地域でしかできない建築を提案できた事例。
②富山県立山町の「Kura」
酒蔵の設計プロジェクト。「その土地の材料を使ってその土地らしい素材を作りたい」という堀木さんの思いから、隣接する田で収穫された米・もみ殻・土を混ぜ込んだ和紙を使用。富山県内の和紙の製法や産地の課題をリサーチし、堀木さん自身で40種類の和紙を漉いたというエピソードが印象的。
③千葉県白子町の「シラコノイエ」
文化財に登録されている住宅の改修プロジェクト。予算に限りがあるなかで、富山の和紙職人を招いた紙漉きワークショップや左官・壁紙貼りのワークショップを開催。みんなで壁紙を貼っているうちにだれがクライアントか建築家かわからない立場がフラットな状態に。時間やお金に制限があっても「無理」と言わずに、できる方法を模索する堀木さんの姿勢が伝わってくる事例です。
最後に、「冒険」というテーマについて。冒険とは、「危険をおかすこと」「成功のたしかでないことをあえてすること」という意味。堀木さんは建築プロジェクトを冒険として捉え、中断することも蛇行して進むこともあると考えています。
「最近は映える建築をつくることが目的になっているように思います。私はその地域にいる人々と材料と共に、そこでしか作れない建物をつくっていきたいです」
また、堀木さんは建築設計が船の設計に似ていると考えているのだそう。「船は大きさや用途によって違う働きをします。建築家の役割は、クライアントが目的地に向かうための適切なスペックの船を設計することではないでしょうか」
質問タイムでは、講師陣や受講者から次々と質問やコメントが飛び出し、大盛況のうちに終了したセミナーでした。次回もお楽しみに!
(文:ふるかわともか)