日本語教員試験2024体験記(「日本語教師クエスト」編)
この記事は、「日本語教員試験体験記」の第7回です。
前回までの記事は、noteのマガジンにまとめていますので、合わせてお楽しみ下さい。
「日本語教員試験(または日本語教育能力検定試験)のために学んだ知識は、日本語教師の現場で役に立つ。ただし、『その、役に立つ日』がいつやって来るかは、今は分からない。」という話を今回はしていきます。①これから日本語教師を目指す方、②現職で経験浅め〜中堅の方、③教務主任のように他の教師を指導するマネジメントの立場にある方等、立場によってご意見は様々でしょうが、私は②の立場から考えて書いていますので、1つの考え方として読み流してください。
突然の比喩「日本語教師という仕事」をRPGゲーム、ドラゴンクエスト」に例える
日本語教師の成長の過程と、人生の目的の達成を語るにあたって、ドラゴンクエストに例えてはどうか?と、不謹慎にも日本語教員試験本番の前日に考えていました。なぜならあまりに勉強にエネルギーを使ったため、試験前日にドラクエIVをやってしまったからです。前の記事で書きましたが、試験の選択肢がドラクエのコマンドに見えて、マークしながらゲームのコントローラーを押す感覚になっていたのです。
私は、いわゆる氷河期世代の男でして、小学校低学年のころから中学生にかけてドラクエ1、2、3、4、5・・・とやってきた者であります。日本語教師の平均年齢は低くないので、ゲームでたとえられてもわからないという不満もあるでしょうが、一応きちんと「導入」してから話を進めますので、「ドラクエおじさんの戯言」に少しばかりお付き合いください。
導入「ドラゴンクエスト」とは
ドラゴンクエストというゲームが存在することは、たとえドンピシャの世代ではなくても、子どもが学校をサボって並んで買っていた(ドラクエIII)という社会現象を記憶している方は多いでしょう。逆に当時生まれていなかった世代の方でも、数々のリメイクが発売され、現在もドラクエIIIのリメイク版が発売され、Youtubeなどの動画サイトでは実況動画で大いに賑わっているところですので、なんとなくわかる方もいらっしゃるかもしれません。
なぜたのゲームではなくて、ドラゴンクエストをひっぱってくるのかというと、これがRPG(ローププレイング)ゲームの元祖だといわれているからです。授業でもロールプレイをやりますが、先生と学生、店員とお客様というように役割を決めて話すように、ゲームの中では「勇者」「戦士」「僧侶」「魔法使い」などという職業の役割があって、協力して魔王をやっつけにいく物語になっています。
ドラクエシリーズに共通な概念として「レベル」があります。これは、街の周辺で敵を倒すと「経験値」をもらえて、これが積み上がるほどレベルが上がります。一定のレベルで「呪文・特技」を覚えていきます。ドラクエシリーズのナンバリング(1・2・3・4・5・6・・)と進むにつれて、見つける「呪文・特技」の幅も増えていきました。経験値を積むだけでなく、「転職」をすることで、様々な職業の能力を組み合わせることができて、楽しみが多様化しました。また、道具という意味で「アイテム」も重要な概念です。
あくまでも、ゲームの目標は大魔王的な「ラスボス(最後の敵)」をやっつけることにありますが、討伐してしまうとエンディングとなってしまうので、ゲームの楽しみはラスボス撃破だけでなく、「中ボス(物語の途中に現れるそこそこ強い敵)」を倒すなど、そこに至るまでの過程にあるとも言えます。
勉強はそこそこに、ドラクエばかりやってきた少年。40代、50代のドラクエ出身者の方とは、共通言語が多いので、話がはずみます。大学の時、科目登録の参考にする雑誌が学生出版サークルから発売されていて、「◯◯教授の授業はラリホー(相手を眠らせる呪文)」という比喩が成り立っていました。よく、オジサン世代は野球でたとえすぎ、なんていう若い世代の批判を目にするようになっていて、ドラクエの比喩が必ずしもこのnoteの読者の皆様に適切かどうかはわかりませんが、一応このように「導入」したということで、続きへ進みます。ドラクエ用語でたとえた用語は、【比喩】で区別していくことにします。
日本語教員試験勉強の知識が現場で役に立った場面
日本語教員試験は令和6年、2024年が第一回ですから、知識といってもほどんどが日本語教育能力検定試験対策で学んだ知識ということになります。言語、社会、心理、教育と分野は様々ですが、初学者の第一の【中ボス】は、「口腔断面図を初めとする音声の問題」でしょう。
春に授業が始まり、ネパール出身の新入生の学生がわたしの名前を覚えてくれるましたが、「まちゅお先生!」となります。可愛いですが、「まつお先生」だよと教えなければなりません。「つ(無声歯茎破擦音)」であるところを、「ち(無声歯茎硬口蓋破擦音)」と間違えてるよ!と、教員用の言葉で説明する訳にはいきません。
TPR(全身反応教授法)とか、VT法(ヴェルボ・トナル法)だったか、いろいろあるなぁ、なんだっけ・・?と悩みながらも、自分で手を使ってみて、歯茎や歯茎硬口蓋の位置をなんとなく示しながら、ここで「つ」だよと、適切な発音に導くわけです。
ここで、日本語の先生の試験のための知識があるかないかは、指導の出発点して大きな違いになるわけで、知識としてはあってよかったと思うのです。検定試験に合格していても、だんだん忘れて知識が曖昧になると、授業や指導の場面で自信を持てなくて音声の指導を避けて通ろうとなってしまうのです。ここはベテランの先生の強み、ここが間違っているということを一瞬で解析できるでしょうから、学生への指導の質がとても高くなります。
「試験の知識」が現場で役に立つ時
「日本語教師たるもの、教壇に立つ前に、教科書の文型、文法知識、例文は網羅して、手引、教案は完璧にしておかなければならない。」という先輩・上司先生がいるかもしれません。至極ごもっともではあるのですが、実際はそう簡単なものではないんです。
常勤ならともかく、非常勤で日本語教師デビューしたとしましょう。教科書は「みんなの日本語」です。自分が担当するのは、L18の文型導入。経験豊かな先生だったら、みん日の第何課はこれということが、体に染み付いていますが、新任だとなにをどうやっていいか分からない。日本語教師の最初の洗礼が、まさに第一回目のデビュー授業でしょうから、どう準備して、どう授業に臨むのか、不安でたまらないことでしょう。
いざ教壇に立つと、模擬授業と現実が全く違うという現実に、驚愕します。クラスの学習進度(レベル)、出身地域、性差、世代など様々な要素で、授業のやり方などまったくもって現場により異なります。採用面接のときの、むすっとした教務主任や校長の前でやった模擬授業など、まったくもって現実とは違います。模擬授業は模擬授業で目的が違いますから仕方ないですけどね。
養成講座ではどうなのでしょうか。模擬授業があると聞いています。教案を書いて、そのとおりにやって、先生のコメントを貰うそうです。私は検定のみのコネ採用で、学校の抜き差しならない事情の中、あれよあれよと日本語教師としてデビュー。コロナ明けの混乱時期にあって、やんちゃボーイズに「声の大きさ」だけを頼りにしていた時期は、「文型」も「文法」もあったもんじゃありませんでした。
自分の学習履歴を活かしつつ、日本語教育能力検定の勉強して合格し、「日本語の文法理論派気取り」で日本語教師になったのに、なってみたら一旦すべて日本語の知識を忘れ去ったかのような当初二年間。その後、授業経験をコツコツ積み上げる中で、やっとこさ一周はしたぞという感覚です。
一周した、といっても、深さはまだ足りません。日本語学校のおいては、日々分担して授業をするので、前の先生は第18課の何ページまで、今日私は◯ページやって、次の先生へ引き継ぎ、というケースが多く、1年やったとて「みんなの日本語」の全課を経験できるわけではありません。ここが、非常勤として始める先生方にとっては、経験が積み上がっていく実感がなかなかないという悩みの1つではないでしょうか。
最初の「日本語教師たるもの論」に戻ると、理想は授業に使うテキスト全てについて知識の準備をしておかなければならないということになりますが、現実無理なんです。できれば苦労しない。どれだけサービス残業しても無理でしょうし、実際経験しなければ授業ネタとして「習得」できません。
私は若い頃、某有名家電量販店でアルバイトをしたことがありますが、マネージャーが「商品知識も十分でなく、他のフロアの売り場案内もでできないうちに売り場に立つな!」とよく怒っていた記憶がありますが、派遣された者としては、「フロアマップも渡されていないし、そもそも他のフロアには行ってはならいないルールなのに、どうやって覚えるの?」と悲しくなったものです。私はこれを「売り場理論」と言っていますが、デビュー前に全てを準備をやり尽くしておくのは建前にすぎないので、現実にはやりながら、だましだまし覚えていくしかないということは、①新任の先生方には安心してという意味で伝えたいですし、③や②の先輩先生には、①の先生方のスタートを助けるのは当然の役目であって、「日本語教師たるもの論」でいじめてたら、だれも応募してくれなくなるぞと、ここだけの話で警鐘を鳴らしたいですね。
冒頭書いたのはこういうことです。日本語教師個人としては、まず先生になるという点では試験合格のため、実際に教壇に立つためには授業のための十分な準備をするように務めたほうがいいが、試験の知識がいつ役に立つかは、その日が来るまでわからないということです。「試験の知識が役に立たないと」は言ってません。いつ、どう役に立つかは、自分と周りの人にかかっているということです。
コツコツと【レベル上げ】、組み合わせて【特技の習得】、先人の知恵で【戦い方】を知る
長くなっていますが、いよいよドラクエの例えを使います。ゲームを進めて行くと、【中ボス】との戦いに負けて、先に進めないということがあります。そういうときは【レベル上げ】だけをコツコツやって、体力を上げ、【呪文・特技】をたくさん覚えます。しかし、レベルが相当に上がったとしても、【効率的なムーブ(戦い方)】をしらないと、負けてしまったり、無駄な動きをしていることに気づかないことがあります。
自分より経験のあるドラクエの遊び手の友達が、あのモンスターを倒すには、この【呪文・特技】が有効だよと教えてくれて、あっさり倒すことができるようになったりします。攻略に必須な【アイテム】の場所がどこにあるのかを、インターネットがない時代は友達の家に電話して聞いたものです。自分自信で知識を入れて置くおことはまさに【レベル上げ】で、効率的に攻略するためのムーブを詳しい人に聞くことは、日本語学校という職場においては詳しい先輩先生に聞くということと重なります。
また、ドラクエは様々な楽しみ方があるので、一周するだけではなく、何度もやり込んで楽しむ方が少なくありません。私は【ドラクエIV】が好きなのでいまだにときどき気分転換で楽しみますが、小学校の時とはまた違った脳内の景色の中、プレイしています。日本語教師という物語では、最終的には「学習者が日本語を使ってできることを増やす」という1つの目標がありますが、日本語学校でいえば、専門学校や大学に送り出せばひとまず役目は終わるので、【最終章】を目指す戦いではなくて、【第一章】や【第二章】の戦いが中心になります。物語全体をデザインするのは、国の仕事かもしれませんが、日本語教師個人はおかれた立場の中で、コツコツと【レベルアップ】し、【呪文・特技・アイテム】を増やし、先輩の知恵を借りながら【中ボスを倒す】ことが、私の仕事ということになります。
「結局、どうするんすね?」
私のビジネスパートナーの言葉を借りました。「どうすればいいんでしょうか」が口癖で「どうするんすね」となります。仕事の細々な問題、おおきな問題を議論しているときにこと言葉が出てくると、そうだ、なんとかする方法を編み出さなくては!という気持ちになるのです。
長くなってきたので具体的な方法についてはまた次回以降に譲ることにします。学習者に対する行動中心アプローチを語る前に、自分自身に行動中心アプローチのCan-do目標をどう設定していくか、ということを考えています。私は日本語教育の専門家でもないし、誰かに知識を授けるほどのレベルにありません。しかし、いち「プレーヤー」として、このようにやってみたというような報告を共有することは、日本語教師として志をを持つ先生方と、様々な知恵の共有ができるのではないかと思っています。知識の教授は偉大な先生方にまかせるしかありませんが、具体的な救いが欲しい初学者・独学者にとっては「演習の共有(可視化)」がニーズなのではないかと。
まとめ
本日は、2024年11月24日です。これで試験後、毎日一本ずつ記事を書きました。試験についての体験記から展開して、また様々な発信ができればと思っていますが、何を書くかは現場で思いついたことの出たとこ勝負です。Xのフォロワーさんとのやり取りからヒントをいただきつつ、楽しんで書いてまいります。
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