【逆噴射小説大賞2023】自作を振り返る
逆噴射小説大賞とは、長編(あるいは短編かショートショートか)小説の冒頭(という体)で800文字の小説をぶつけ合う祭典である。
今年は久しぶりの参戦ということで普段以上に気合を入れたところ、どちらもスキの数が過去の作品を大幅に超え、更にはいくつかの記事にピックアップされた。光栄なことである。
逆噴射小説大賞2023の締切日10/31も、ひと月あまり過ぎ、改めて投稿した2作品を見返してみると、あーすれば良かったとか、こうすれば良かったとか、いろいろと思うところが出てきてしまった。
こういうとき、他の参加者はどうしているのだろうとちょっと調べてみるとライナーノーツという形で自作の解説や反省を行っているらしい。カッコイイ!
ということで、それを真似てライナーノーツ代わりにこの記事を進めていく。大体が反省点を述べていくだけなのでその点はご了承いただきたい。人間は良い点よりも悪い点を探すのが得意なのだ。
だからこそ良い点を見つけてピックアップしてくれたり感想を述べてくれる人は偉大という話でもある。ありがとうございます。
まず2作共通の反省点として、noteの機能で800文字を判断してしまったというのがある。
今まで逆噴射小説に参戦していたときはちゃんと(マイクロソフトの)Wordのようなテキストエディタで文字数を管理して可能な限り詰めていた(はず)が、今年に限ってnoteの文字数だけで判断してしまったのは良くなかった。
これの何が良くないかというと、noteは全角スペースも1文字として換算するので、小説で行われているいわゆる字下げ(インデントのこと)も1文字扱いなのだ。
つまり、note上で字下げを行いながら30行書くと文頭の空白が積もり積もって30文字分として換算されているのである。これにより物語を800文字に詰め込めていなかった。
字下げを文字数に換算しないWordで確認したところ、2作とも770文字ちょっとだった。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」という有名な一文が句点含めて20文字であることを考えると、情景なり情報を1つ、あるいは2つ詰め込める量の文字数をロストしていたことになる。
バカ! アホ! ウカツ!
逆噴射小説大賞は空白は800文字に換算されないルールなので、noteのみで文字数を見る場合は字下げをしないで書いてあとから字下げをした方が良さそうだ。……まあ、そんなことするよりWordみたいなちゃんとしたテキストエディタで書いて貼りつけたほうが文字書きは大体癖になっている字下げを気にしなくて良いと思います。
特に、後述するが「呪孵し」は尻切れトンボ気味だったのでこのミスは大きい。
ここからは投稿した2作を個別に語る。まずは「呪孵し」から。
呪孵しと読む。
元のタイトルは「呪孵」だったが、パッと見たときに読み方の想像がつかないのは良くないと思って送り仮名を追加した(結局作中で括弧書きでフリガナを振ったが。だって読めないし)。
内容としては、腹の中で石から呪いを孵化させ、その呪いを以て対象を呪殺する女と、その呪術を女に相伝した母(=先代)と付き合いのあった初老の男性の話。
読み返してみると、序盤が長い。普通の小説を書く分には呪術を行使し、呪殺するまでのシーンは大事だが、これは逆噴射小説大賞だ。スピード感と納得する描写を両立させなくてはならない。
そして書いている最中は石を飲むまでが序盤で、呪殺シーンがサビという感覚だったが、改めて読むとシームレスに呪殺しているので、呪殺が終わって階下に降りるまでが序に見える。そのため、サビが薄く、終わりもちょっと寸詰まりだ。
更に言うと最初に書いた時点では最後の反撃の手立てを匂わせるシーンすら入っておらず、報酬の宝石が呪われているという男の報告の時点で終わっていた。
さすがにこれは当時読み返して、引き弱くない? となったため色々削って継ぎ足し、どうにか最低限の形になった……と思う。先述したが、もし30文字近く空いているということに気づいていれば、もう少し呪術バトルの予感を展開できたりしたと思うので悔しい点である。
この作品には呪殺を生業とする女と、その女の母と縁があった古物商らしき男が出てくるが、会話シーンが少ないのも欠点。せっかく2人いるのだから呪殺シーンを削って、もう少し会話をさせたほうが良かった。
特にピックアップしてもらった際、呪殺が日常的なプロ感がクールというような感想を貰ったことで気づいたが、主人公の女のパーソナリティがやや曖昧である。
感想の通り、罪悪感などない、あるいは呪殺が日常であるキャラなのだが、もう少し会話を作ってそういうことを匂わせれば良かった。ピックアップしてくれた方々がわずかな描写から行間を読む能力に長けていただけで、それに甘えてはいけない。
800文字という都合上、必要ないと判断したものは削り、それでキャラの名前や外見描写を削った(初老の男性に小娘と言わせて匂わせはしているが)のだから、キャラの精神や哲学は強く匂わせる、あるいはちゃんと描写すべきだった。
総じて反省点の多い一作だが、捻りだした呪術を褒められたのは非常に嬉しかったし、その部分はこの作品の長所と言って差し支えないだろう。
続けて2作目。「埼玉湾に沈む」。
逆噴射小説大賞を企画しているダイハードテイルズは、ニンジャスレイヤー(以下忍殺)という作品で有名だ。
忍殺ではネオサイタマなる、東京を吸収し、東京湾を埋め立てたであろう埼玉が舞台として登場する。
「埼玉湾に沈む」はそれとは逆に、東京がなくなったら海なし県の埼玉も海に隣接するじゃん、という考えを採用した一作だ。
東京に面している海が東京湾と呼ばれるのだから、東京がクレーターとなればそこに海水が流入し、埼玉に面して新たな湾となる。すなわち埼玉湾! という安直な考えからつけたタイトルだが、やはり人目を引くらしく、「呪孵し」よりビュー数が多い。タイトルは大事。
内容としては、埼玉湾から釣り上げたものから何かを得ようとしている男、灰谷が、釣り上げたものから偶然、前例のないものを見つけてしまった話。
読み直して、冒頭で埼玉湾の詳細を書いてしまったため、せっかくのタイトルのインパクトが薄れてしまったと感じた。
執筆時には埼玉湾は常識! という世界観のために説明が必要だと思っていたが、釣りあげたものとの闘いが肝なのだから説明せずとも良かったように思う。
最後の引きもやや弱く、敵対者、あるいは獲物たる釣り上げたものが本になったからなんだというのか。読者に投げっぱなしすぎである。
冒頭の埼玉湾の詳細を消し、最後の本をるるぶのような東京を紹介した雑誌か何かにして主人公がそれを一瞥したあとに、埼玉湾に東京を象徴するもの(東京タワーなりスカイツリーなり都庁なり)が沈んでいる描写をしたほうが、埼玉湾というインパクトを維持したまま東京がもうないことを読者に理解してもらえた気がしてならない。こちらも実際の文字数は770文字前後なのでそういった描写を入れる余裕はおそらくあったし。
「呪孵し」が書き足りない作品なら、「埼玉湾に沈む」は書き直したい作品と言える。
一方で、ものを釣りあげるまで、ものを釣り上げたあと、ものを処理したあと、という序破急のような流れがしっかりとできているのが個人的な評価点。序が長く、終わりが寸詰まり気味の「呪孵し」と比較してそれぞれのシーンが適切な長さだと思う。
あとシンプルに埼玉湾のアイデアが好き(埼玉湾というネタ自体は昔からあるが、なぜそうなったのかという部分については一応オリジナルのため)。
それだけに引きの弱さとタイトルのインパクトが活かしきれなかったことが悔しい。
以上で自作の反省を終わる。改めて書き出してみると思ったより書きたいことが溢れてそれなりの量になってしまった。
それはつまり、それだけ今年の逆噴射小説大賞に気合を入れていたことの裏返しでもある(それまでが手を抜いていたわけではないが)。
もしかして今回もまた一次すら通過できないのではないか……という不安に襲われたときもあったが、感想を書いてくれている方々の記事にピックアップされたことで、通過できなくても、それまでの作品よりは一歩進んだから良いか、と次第に思えるようになった。
改めて感想やピックアップをしてくれた方には感謝である。
そして久しぶりでも、やはり思いついた世界を800文字に凝縮する作業は楽しかったので、来年もまた参加したい。