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BUMPのHAPPYはなぜ神曲なのか?
このコラムでは、BUMP OF CHICKENの「HAPPY」の深さと素晴らしさを「対比表現」の観点から解説します。
おさらい
前々回で、意味を深くするためには命題密度を高めるとよいことを説明しました。命題密度は「対比」によって上げることができます。ただし、闇雲にたくさん使えばいいのではありません。他の言葉と密な関係性を作ることが重要です。なぜなら、関係の薄い対比表現は命題密度の向上に結びつかないからです。
さらに前回で、対比表現には「意味」と「位置」の対比があることを紹介しました。
HAPPYの対比表現の一覧
まずは解説のために、この曲中に現れる対比表現を図にしました。
全11組あります(※1)。実線は曲中に明示的に使われている単語、点線は明示的に使われていないが類推可能な単語です。例えば「弱い⇔強い」の組は、〈心は強くならないまま〉というを言い換えると「心は弱いまま」と言えるため採用しています。
※1:もっと微妙な表現で対比表現がある箇所もあるのですが、判断に迷ったので今回は省きました。省いたところは2つあり「守る」と「手を握る・手をとる」が現れるフレーズの部分です。
今回は、特にAメロおよびサビの歌詞に現れる、①~③の言葉のクラスタに注目していきます。
クラスタ①
クラスタ①は分かりやすいです。まず「少年⇔少女」が男女の対比となっており、それらをまとめると子どもになります。さらに「子ども⇔大人」が反対の意味になっています。
少年はまだ生きているけど、落書きのようなそして教わらなかった夢と共に大人になります。けれど大人になっても心は弱いままなのです。
クラスタ②
クラスタ②は次のサビのフレーズにて対比が描かれています。
終わらせる勇気があるなら 続きを選ぶ恐怖にも勝てる
……
続きを進む恐怖の途中 続きがくれる勇気にも出会う
2つの意味の対比に加えて、さらに「恐怖⇔勇気」は位置の対比も併せ持っています。コンボ技です。
クラスタ③
クラスタ③は〈悲しみは消えるというなら 喜びだってそういうものだろう〉というフレーズで、悲しみと喜びという反対の対義語を、どちらも消えるものとしてイコールで結んでいます。その上で最後のサビのフレーズにて〈消えない悲しみがあるなら 生き続ける意味だってあるだろう〉とすることで、「消えない悲しみがあるなら、消えない喜びもあるはずだ。だからそれが生き続ける意味になる」と暗示的に言っているのです。カッコいい……。
クラスタを結びつける1つのキーワード
対比表現がバラバラにあるだけでは、意味は深くなりません。しかしこの曲では3つのクラスタがたった1つの単語で結びつきます。その言葉は「生きる」です。これは計3ヶ所で使われています。
少年はまだ生きていて 命の値段を測っている
……
少女はまだ生きていて 本当の事だけ探している
……
消えない悲しみがあるなら 生き続ける意味だってあるだろう
「少年・少女」「消えない・悲しみ」「続く」がそれぞれのクラスタとの接続点になっています。
まとめ
BUMP OF CHIKENの「HAPPY」は命題密度が高い、深い意味を持つ曲です。なぜなら多くの対比表現の組を持ち、かつその対比同士が密接に関連しているからです。
つまりHAPPYは神曲!!!!!
おわりに
私はバンプの曲の中でも、HAPPYが1、2を争うくらい好きです。好きなものの好きなところやその理由がちゃーんと分かっていることは、素敵なことです。なので、今回はできる限りそのすごさを言語化することにしました。
正直、これを書いて、図を作っている途中にも新しいつながりを見つけました。まだこの曲の深みを見通せてない証です。しかし、まだまだ発見があることは喜ばしいことです。
HAPPYについては対比表現以外にも語れることがあります。好きですから!しかし今回はここまでです。よろしければ、スキを押していただけましたら幸いです。