アルプスの町タンドへ その地はリヴィエラまたはコート・ダジュール #7
トラン・デ・メルヴェイユは、100年以上前に建設された、アルプスにあるタンドという町まで登る山岳鉄道です。その沿線は海岸のニースからアルプスを越え、北イタリアへ塩を運ぶ塩街道でした。
2000mを越える山々に囲まれた渓谷沿いに走るので、天気が良ければ車窓から素晴らしいアルプスの山々を眺めることができます。
終点タンドは、標高約1800mであるため、イタリアへ通りやすく、時の領主が手中におさめようとした町でした。
Niceをでると列車は山あいの町にはいり、いくつも渓谷をループ状に通って高度をあげていきます。ニースでは、半袖でも暑いくらいだったのに、タンドに着いた時には、肌寒いくらいでした。
旧市街の石づくりの町は、15~16世紀に建てられた家が現存しています。ベアトリス通りという名前の通りが残っていました。これはベリーニのオペラ、『テンダ(タンド)』のモデルとなった女性の名前でした。古い中世の街並みにはいろんな歴史が詰まっているようです。壁の傷跡も、その頃のものかもしれません。かつての共同洗濯場や水飲み場の蛇口から、今でも水が流れ、騒音のない通りに響いていました。高い山々に囲まれたロワイヤ谷は昔から水が豊富なのだそうです。
古い入り組んだ町の路地には猫ちゃん。どこかの家で飼われているようで、のどの下を撫でてあげると気持ちよさそうに目を細め、伸びをしました。
どうも、飼い主さんがご飯を持ってきてくれるのを待っていたようです。
その少し先では、ゴールデンのマーニー君に会いました。マーニー君もひとなつっこく、
挨拶してくれます。1日に数本走る列車に乗ってやってくる観光客以外に、よそ者はやってこず、治安がよいのでしょう。猫も犬もリードもなく、気ままに過ごしていました。
頂上の時計台から駅に戻るとき、道に迷い、通りがかりの人に手振りで駅にいきたいと尋ねると、足元を指さします。道にタイルが敷かれていて、それをたどっていけば町の中心にでられ、駅へ行かれるとのことでした。
「なるほど!」
単なる装飾ではなかったのです。
帰りの電車の時間よりだいぶ早く駅前まで戻りました。水と、チョコレートやクッキーなどのお菓子、そんなものを買いたいと探しましたが、それらしき店が見当たりません。小学生くらいの女の子と歩いている女性に尋ねると。
「一軒あるんだけど、そこは3時にならないと開かないの。ほかにもう、一軒だけあるわ。洗剤とか、お菓子とか、水やジュースも売ってるけど、とても値段が高いの。それでよければ、この通りを教会のほうに戻ったところにあるわよ。」
この村では、日用品を買う店の数が少なく、しかも営業時間が限られていました。かつては栄えながら、古い町並みとともに時代から取り残されたタンドには、一昔前の素朴さと、ゆったりした時間が流れていました。
駅前広場の木々はすでに色が変わり始めていました。南仏に来たときはまだ暑かったのに、1週間の間に季節は進んでいました。そろそろ旅行も終わりに近づいてきたなあと思いながら、ホームへ向かいました。