ハイヒールの音色
生まれて初めてのハイヒールやブーツは、歩き方がよく分からなくて照れ臭さと嬉しさが混ざっていた。
夜中にお腹が空いたからと、あまり治安の良くない地域で1人コンビニに走らされる事はほぼ毎日だった。
それでも、一瞬一人で居られる時間が嬉しくてホッとした。こっそり小さなぬいぐるみを袖に忍ばせて、二人で会話しながら歩いた事もあった。
君はよく頑張ってるよ、大丈夫だよ。
泣きながらそうだよねと返事をした。勿論そこには私しか居ないけど、私にとっては唯一の友人だった。
しかし後日、ぬいぐるみと会話している事がバレて、「気持ちが悪い、気違い、私の頭もおかしくするつもりか?」そう叫びながらその子や他の子達もカッターでバラバラにされてしまった。次は私なんだと、その光景を見ていた。
私の代わりにバラバラになった友人達をこっそり集めてしまっておいた。10年近く経ってから、お焚き上げに出せた時は嬉しかったな。
私に対して、気違いだの頭がおかしいだのこの世の罵詈雑言を全てぶつけて来たそいつは、私のせいでおかしくなったフリをよくしていたが、物を投げつける時も自分の大切な物は絶対に壊さなかったし、カッターを振り回して落としてしまった時、太ももを少し掠っただけで大層痛がっていた。
アドレナリンが出ていない証拠だった。冷静なのだ。私をコントロールするためにフリをしているだけなのだ。
こんな小芝居で私をどうにか出来ると思っている浅はかさと、大した怪我でもないのにピーピー吠える目の前の汚物に笑いそうになるが、そんな事をしたら何をされるかわからないから、新しい靴が欲しいとか考えていた。
踵のソールがボロボロで釘が出ていて、歩くとカツカツ音がして五月蝿いと怒られる。
2,000円もしない靴を履き潰して新しい靴も買えずにいるのに、目の前の汚物は2万円の靴を私の金で買うのだ。
底の薄くなった靴は冷たい。私は毎日、寒さと飢えに苦しんでいた。
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