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Food|日本にとってお米と同じくらい関わりが深い栗
突然ですがみなさん、栗のことを考えたことがありますか?
収穫時期は9月から10月ですので、時期にはまだ早いというのもありますが、そもそも今まで生きて来て、栗のことを考えてみたことってあまりないと思うんです。
かくいう僕も同じ。それは、栗林を見たり、毬の栗を触ったり、栗の収穫などもしたことあるし、季節になれば栗の渋皮煮や栗ご飯なども食べたことはあっても、日本人はいつから栗を食べているのかなんてことを考えることってそうないんだと思うんです。
そんななか、先日、東京・外苑前のイノベーティブレストラン「JULIA」の本橋健一郎さんとnaoシェフが中心になって企画した「茨城生産地ツアー」に参加した先の「小田喜商店」で、「え、栗っておもしろんだけど」という話を聞くことができたのでまとめてみようと思います。
世界に4種類しか現存しない原種の一つニホングリ
茨城県は、栗の生産量日本一。なかでも県中部の笠間市はブランド栗「笠間栗」の産地として知らており、「笠間栗使用」なんていうスイーツや料理を目にしたことがあるかと思います。その笠間で、市内の契約農家から栗を買い高いクオリティの栗の加工品を販売する「小田喜商店」で話を聞くチャンスがありました。
代表の小田喜保彦さんは開口一番「”和栗”という言葉はない」といいます。「え、和栗っていままで言ってたよ」と思うわけですけど、よく話をきくと”和栗”という言葉は、もともと日本で栽培されていた栗を、海外産の栗と区別するためにつけられたものだというのです。西洋画、洋画に対しての日本画、西洋料理が入ってきたことに対する和食みたいなことですよね。
本来、日本にずっと昔から続いてきたものの名前を、外のモノを入れることで名前を変えてしまった明治の西洋化の弊害です。
ブナ科クリ属の落葉果樹であるクリ(栗)の品種で見ると、世界には4種類の栗しかありません。
チュウゴクグリC.mollissima Blume.(英名Chinese chestnut)
中国原産。渋皮がはがれやすく、焼き栗で食べやすい。日本での栽培はクリタマバチの被害が多く、栽培がむずかしい(中国では天敵のチュウゴクオナガコバチによって被害にまでならない)。天津甘栗あるいは甘栗は、このチュウゴクグリで作られています。ある種のGI商品ですね。
ヨーロッパグリC.sativa Mill.(英名European chestnut)
南ヨーロッパから小アジアの原産。主として地中海沿岸諸国で栽培されています。マロングラッセなどお菓子屋や焼き栗に使われます。こちらも胴枯病に弱いので日本での栽培はむずかしいといいます。
アメリカグリC.dentata Borkh.(英名American chestnut)
アメリカの東部地域原産。19世紀末に東洋から侵入した胴枯病のまんえんで大きな被害を受けていて、ほとんどが枯れてしまったといいます。果実よりもタンニン製造の原料や建材としての利用が目的だったとのこと。
ニホングリ Castanea crenata Sieb.et Zucc.(英名Japanese chestnut)
日本原産。朝鮮半島南部にも分布している。北海道中部から九州の南端までの山野に自生するシバグリ(柴栗)は栽培グリの原生種です。
ということで、世界に4つしかない原種のうち一つにニホングリがあるわけですから、もっと誇ってもいいのではないかというのです。
日本の農耕はじめは、米ではなく栗だった?
さらに小田喜さんは、日本の農耕の始まりは、米ではなく栗ではないかともいます。
これまで日本の農耕文化は、弥生時代に稲作から始まったとされる説が主流で、僕も教科書でそう習いました。今は、縄文土器に残された食べ物のカスなどを採取してDNA鑑定などをしてみると、アズキやダイズの豆類や、アワ・キピなどの穀類が、縄文後期には栽培されていたことを指摘できる結果が出てきているそうです。
その一つに栗も挙げることができます。先日「北海道・北東北の縄文遺跡群」としてユネスコの世界遺産に指定された縄文時代の遺跡、青森県三内丸山遺跡からは、建物の支柱として使われた栗の木の柱と大粒の栗が出土しています。
現在は、栗の産地としては知られていない青森県ですが、縄文時代は、いまよりも2℃ほど気温が高く、ちょうど現在の茨城県と同じような気候だったそうです。栗が育ちやすい環境で、たくさん自生していたのでしょう。それを食住生活に生かしていたのが三内丸山遺跡に暮らしていた(定住していた)日本人の姿だったと想像ができます。
ただ、これだけでは栗が”栽培”されていたと考える理由にはなりません。小田喜さんは、以下の点を栗を栽培した根拠にあげています。
その1 静岡大学農学部教授佐藤洋一郎氏のDNA分析により、野生種では見られないDNAパーターンの一致があった。
その2 現在の山を見ても、山栗が自然に林をつっくているところは無い。生態学的に見ると栗は弱者なので、自然に栗の純林ができるということはないので、人為的に育てられた林と考えられると言う。
その3 山にある芝栗は、実生栗で実生栗から大粒の栗は取れない。現在は、接木で、良種を選抜し栗畑を作っています。大粒の栗が出土したことから、ひょっとしたら、接木の技術をもっていたかも。
その4 1500年もの間、栗林があったこと。長き間、栗を栽培していれば、土地はやせてしまう。肥料をあたえなければ、長期間、栗林を維持することは無理。
――小田喜商店サイト「日本栗のはじまり」より流用
現在のところは完全な農耕文化ではなく、”プレ農耕”という位置づけだそうですが、日本と栗は、稲作以前からの付き合いがあると考えると、栗との向き合い方がかなり変わってくると思いませんか?
上の写真は小田喜さんがお持ちになっていた栗の顔のような土偶(のレプリカ)。1枚目は、北海道唯一の国宝で縄文後期の土偶とされる《中空土偶》風(函館)、2枚目は青森県八戸市の国宝《合掌土偶》風。どちらも顔が栗っぽいです。
こうした縄文土器からも栗が身近にある暮らしが連想させられます。
栗といってもさまざまな品種がある
スーパーではただ単に「栗」(または、クリ)として販売されているだけですが、早生(わせ、早くできる品種)、中生(なかて、中盤にできる品種)、晩生(おくて、遅くにできる品種)と、品種がそれぞれあります。
単一品種もあれば、マーケットや産地の特性を見ながら、いくつかの品種を組み合わせて栽培期間を長くしたりする方法もあります(これは栗だけではなく農業一般の話)。
栗の品種をいくつか紹介します。
早生
丹沢(たんざわ) 早生の代表品種。甘さ控えめ香り高い。甘露煮、渋皮煮、ペーストなどの加工向き
国見(くにみ) 果が大きい。糖化すると甘さが増すので、ゆで栗、栗ご飯など
ぽろたん 切れ目を入れて加熱することで渋皮まで剥くことができる画期的な新品種。ペーストなど加工向き、新しい品種
大峰(おおみね) ホクホクした食感があって、蒸し栗やペーストなど加工向き
中生
筑波(つくば) 香り高く貯蔵性がある。渋皮が剥きやすい。中生の代表品種。ゆで栗、渋皮煮など
銀寄(ぎんよせ) 甘味、香り、テクスチャーよく、渋皮も剥きやすい。渋皮煮やゆで栗など
晩生
石鎚(いしづち) 甘味、香り、テクスチャーよく、渋皮が薄く煮崩れしにくい。晩生の代表品種。渋皮煮や加工向け、貯蔵もできる
岸根(がんね) 栗の最後を締め括る品種。渋皮煮や加工向け、貯蔵もできる
一口に栗といってもこれだけ(これ以上に)品種があります。ぽろたんと丹沢くらいは聞いたことがなかった僕には驚きです。栗って、奥深い。
身近にある栗、いろいろ
「大きな栗の木の下で~」だったり「猿蟹合戦」のように、栗が登場する民謡や民話は多いことに気付きます。これも、日本における栗との関係を示しているように思います。「猿蟹合戦」に稲が出てきてもいいわけですが、栗なわけですから。
ほかにも、最近では《鬼滅の刃》の登場人物の一人、栗花落(つゆり)カナヲにも栗の字が使われていますね。
「栗花落」「墜栗花」「五月七日」いづれも「つゆり」「つゆ」と読みます。奈良時代 淳仁天皇(在位七五八―七六四年)が、「栗花落」姓を与えたということです。
――小田喜商店ブログ「6月11日 梅雨と「栗花落」」より流用
栗の花が堕ちる時期がちょうど雨が多くなる「つゆ」だったことから「栗花落」や「墜栗花」「五月七日」と漢字を当てていました。ちなみに「梅雨」が当てられるようになったのは江戸時代になってからだそうです。
このように栗ってかなり日本の生活のなかに入り込んでいて面白いですよね。日本の文化のなかで縄文時代から受け継がれている文化なわけなのですが、栗を代表する在来の食材なはずなのですが、日本の食を象徴する食材だとは捉えられていないのはちょっと残念に思います。
しかしながら、これだけ日本の食に入り込んでいることを考えると、日本の食材との相性はとてもいいんじゃないかと思います。私たちが食べてきたものを記憶していくためにも、栗の料理や栗の文化を知ってもらいたいなと思います。
そしてもし、栗を通じて古代の文化に行きついたのであれば、日本が食べられてきたのかを、学んでもらえると、深い食の歴史が知れていいとます。
9月、10月になると栗の旬を迎えます。今のうちから、栗のことを知って栗の旬を迎えてもらいたいなと思います。
そして「ワグリ」ではなく「ニホングリ」という正式名称でぜひ呼んでもらって、日本固有の食材をしっかり認識してもらいたいなと思います。
「小田喜商店」での試食。シュウマイにも栗!
栗のアイスも。
焼き栗も最高でした。これが一番おいしいと僕は思っています。
このポン菓子を作るような、圧力加熱器を使って、焼き栗を作ります。
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明日はFood。
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![江六前一郎|Ichiro Erokumae|Food HEROes代表](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/117668942/profile_3f80d4b7ceb0d6cf04ae817a3f0a87c6.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)