22歳の料理人に感じた王道の力
2019年、自分のなかでは、7年間やってきた料理雑誌を7月で離れたことが大きくて。料理の仕事の予定もなかったので、それまで雑誌をやるなかで(勝手に)感じていた「しがらみ」がないなかで、何をしようかなって考えたんです。
雑誌をやっていると取材をするトップシェフのみなさんとお会いして、いろいろお話しすることはあっても、実際の読者である次の世代をになう若い料理人さんに会うことは、ほとんどないなぁと。
雑誌の本質は「未来の提案」であるのに、その未来を作る人たちを見れていなかったことは、本を作りながらの矛盾でした。
自分が見たり、聞いたことを、どんなことでもいいので伝えることができないか。そんなことを考えから、Easy going やHINODEといったイベントをやったり、West End やANTCICADAといった若い料理人たちのポップアップイベントにも参加していました。
それぞれが、いろいろな目標を持って、料理を一生懸命作りながら、自分らしさを模索する姿に、このままいろいろなことに挑戦しながら、料理を極めていこうとする若い料理人が増えれば、いま以上に料理人の生きる選択肢が増えて、働き方にも多様性が生まれくるように感じました。
なにより、若い料理人が活動・発信するにあたって、それを支える彼らの上の世代の料理人や、飲食業界内外の方の支援などがなければできないわけで。そういった未来に投資していこうとする流れは、2020年も続いていくと思うし、続けていかないといけない、とも思っています。
今年最後に行ったポップアップイベント
「崎 楓真より『現代の聖夜 三太九郎からの贈り物』へ」というタイトルで、お気づきの方は、熱心な料理業界人だと思います。
崎さんは、35歳以下の料理人のコンペティション「RED U–35」の2017年のゴールドエッグ(ファイナリスト)の一人で、当時は、史上最年少10代のゴールドエッグとして話題になりました。
京都の三つ星の日本料理店「嵐山吉兆」で働いていましたが、2019年に退職し、来年から東京で個人の専属料理人をしながら、崎さん個人の活動をしていくそうです。
崎さんとは、Facebookで繋がりがあって、2019年10月の大阪観光局が主催した「デリシャス・ジャーニーズ 2019」のプログラム、サステナブルセミナーなどに参加してくれたこともあって、東京にやることを知って、ちょっと興味あってどうしようかなーって思ってたところに、森枝幹さんからも推しの連絡もらって即ポチり。
話は、変わるんですが、こういう、推しの連絡って聞くんですよね。なんだかんだ、最後は、個人間のやりとりで行く動機になるんで、最初期にイベントやる時は、絶対やらないといけないものです。あまりおもてに出ないことなのですが、そういう泥くさいことを、キチンとやっているあたり、森枝さんさすがです!。
世界のクリスマスメニューを再構築
この日は、世界各国のクリスマス料理を分解・再構築したメニューが並ぶ構成。日本料理をどうクリスマスの文脈にのせていくか、という実験的な試みです。ペアリングアルコール込み15000円。これはWest Endとほぼ同じ価格。
クリスマスプリンの再構築
プリンに使う乳脂を牛脂に変えて
日本風プリン=茶碗蒸しに。百合根が良い
八寸のクリスマス
中央の手羽先、皮が極薄く焼きめが
ついていて中華っぽい食感。
中のもち麦の餡とのコントラストが好きだった
シュトレンの再構築
坦々ワンタンの味わいだが
シュトレンの生地の小麦をワンタンの皮に
イチジクやドライフルーツを使っているので
要素としてはシュトレン
おでん
日本の冬の風物詩。シュトレンの再構築は、
辛みが強かったのでそれを洗い流してください
とのことで、その通り極淡い出汁
クリスマスチキンの再構築
日本の鴨を照り焼きに。
ここでも非凡さをみせる皮目の火入れ。
鴨のフォンのソースで
ねぎご飯
ここは再構築系ではないです。
九条ねぎと下仁田ネギの炊き込みご飯。
シャキシャキに繊維の食感を残した
生姜が味と食感をひじょうに良くしていた。
漬物も美味
ゴボウのアイスクリーム
ゴボウを使う意外性と、アイスもチュイルも
ゴボウで押し切れる技術。
コンセプト、味わいとともにすばらしいかった
履歴書ではなく創作物で勝負
個別の料理というより、全体のコースの作り方が洗練されているという印象。何事も、初期は自己アピールに頭がいくあまり、過剰な装飾や情報量過多になってしまうもの。
履歴書でいえば、色々な情報がビッシリ書き込まれている感じです。
僕も面接何度もやってるので、そういう履歴書大好きです。でも一方で、プロダクトを作ると言うことは、時間をかけて、余分なものを削ぎ落として洗練していく必要があり、それには経験と技術が必要なのです。
崎さんのコースは、そこをすでに乗り越えていて、「そうか、まだ22歳だったか」というのを食後に気づくという、完成度の高さがありました。
履歴書と一緒に持参した過去のプロダクトがちゃんと商業レベルに達してる感じ。
会場のあちこちから「渋い」という声が至るところで上がったのも納得。この落とし所をおさえたコース作り。考えてみるとすごいんですよね。RED U-35のゴールドエッグはダテじゃないなって思いました。
料理を極めていく、ある種の王道を感じさせる崎さん。プレゼンテーションは苦手なようでしたが(笑)、それも個性です。真っ直ぐにすこやかな22歳が、たとえば5年で、料理人としてどう進んで行くか楽しみになりました。
あと、「20代の料理人」とか「若手料理人」といって、自分自信が十把一絡げにしていたなーと自分に反省。
個人の時代になって、発信力があることをやることでその人の料理やメッセージなど、ある種のフロンティアスピリットが面白いがられる一方で、保守的な世界というルーツから飛び出していこうとする崎さんのような料理人もいるわけです。
そういった人にとっては、今の雰囲気は少し分が悪い。しかし、真に多様性ある業界を目指すのであれば、そういう人たちをどう応援するかも考えなきゃいけないんですよね。
そういう意味ではRED U-35は貴重な大会かもしれませんね。
人それぞれにしっかり向き合っていかないといけないなと思いました。
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