お行儀よくなったラムにもっと強いスメルを!
ラムは高級肉でおいしい。そんな声をよく聞くようになって、ラム好きとしてはうれしいものです。東京に住んでいると、スーパーの肉売り場でもよく見かけるようになったし、居酒屋やファミレスのメニューにもあります。ラムとかジンギスカン専門店もよくみかけます。
ひと昔前なら「ラムの匂いが苦手」なんていう人も多かったですが、最近では加工・保存・流通が驚くほどよくなって、「ラムなのにくさくない!」という驚く場面にしょっちゅう出くわします。日本の牛や豚に比べて、ラムは赤身主体ということもあって肉の味が強く感じられるし、脂っぽくないのでさっぱりと食べられるのも時代に合っているのかなと思います。
牛・豚・鶏が日本の家庭の三大ミートだとすれば、新しい第4のテーブルミートとしてラムは十分に期待できるでしょうし、じっさいラム以外にその座を狙える肉は、今のところ思い浮かびません(あえて挙げるなら、鴨か)。
ラム業界の人たちはそのあたりを十分に承知していて、その課題として大きいのは「くさいから苦手」というのがあるはずですから、「ラムなのにくさくない!」というイメージで刷新ができているのは、地道な取り組みの成果なのだろうなと思っています。
しかしながら、一方で「匂いがないラムに何の魅力があるんだろう?」と、ぼやきたくなる、僕のような古参のラム好きもいるんじゃないかなと思ったりもします。
けっしてメジャーとはいえないラムを好んで食べているアングラ感がたまらなかったあの頃のラム料理、そんなものをどこかで追い求めている人も多いのではないでしょうか。
洗練されたラムもいいけどさ、もっとワイルドに、かじりつくようなラムも、ラムなんだぜと。
そんな古参ラムファンにおすすめしたいのが、ラムを愛する関澤波留人さんと福田浩二さんの2人が結成した「SHEEP FREAKS(シープ・フリークス)」です。
関澤さんは、麻布十番などで店舗を展開するジンギスカン専門店「羊SUNRISE」の創業者です。
そして、福田さんは、田町の「プルマン東京」のエグゼクティブシェフを務めるオーストラリア料理人。どちらもオーストラリア産ラム肉を愛する食のプロ集団「Lambassador(ラムバサダー)」のメンバーでもあります。
ラムバサダーでは、MLA(豪州食肉家畜生産者事業団)が任命するラム普及のアンバサダーとしての役目があり、どちらかといえば「くさくないラム」を伝えていくのが役目であると思います。一方のSHEEP FREAKSは、そのある意味での縛りを解き放って、「ラムはくさい? その匂いごと食べさせてやるぜ!」というような、プリミティブなラムの魅力を強烈に伝えていこうとしています。
商業的になってつまらなくなった音楽シーンにあらわれた「クラッシュ」や「ニルヴァーナ」といったオルタナティブ(もうひとつの選択、代替手段)なパンクやグランジのバンドが登場した瞬間を、SHEEP FREAKSの誕生から連想するのは、僕だけでないはずです。
そんなインディーズでオルタナティブ・ラムの旗手ともいえるSHEEP FREAKSのお披露目イベントが、浅草・合羽橋にある調理器具専門店「釜浅商店」の1年前に完成した本館の最上階イベントスペースで行われるということで、取材してきました!
ラムだけのコースで”1頭”を食べきる
この日は、SHEEP FREAKSの2人と、羊SUNRISEの麻布本店の料理長の佐々木力さん(下写真、右端)と、青山一丁目「The Burn」の料理長、米澤文雄さん(右から2人目)が4人が集まって、北海道、オーストラリア、ニュージーランド、ウェールズという産地のラムを使ってコース仕立てに出していくもの。
コース仕立てといっても、1皿1皿ごとにきれいに盛り付ける料理もあれば、中央にドーンと大きな鍋を置いて、そこからとっていくスタイルだったりと、ライブ感あふれるものです。
ちなみに、使われているラムの部材は、すべて異なり、同じ部位は出てきません。コースを通して食べ終わってみると、羊一頭を食べたことにもなるそうで、産地や部位の違いによる味や香りの違いを知ることができたり、そもそも羊ってそんなに多様に調理できるのか!!ということも知れる構成になっています。
なんだか、イメージ戦略として”いかつい”キャラをつけてるSHEEP FREAKSなんだけど、本当はラムがメチャメチャ好きってのがあふれ出てしまっていて、すごい好感もてます。
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まずは、羊のカルパッチョ。佐々木さんの1品。北海道久遠郡せたな町の「小野めん羊牧場」の生後17ヵ月のサフォークという品種のラムで、オーストラリアではラムとマトンの間の時期をさす「フォゲット」ともいいます。
モモとフィレを醤油漬けにしています。やわらかいフィレは、山わさびをつけてするっと香りとうま味を”飲むよう”に食べます。一方の、やや筋があるモモは咀嚼をしていくと甘味がでてきます。その甘味に合わせて、刻んだねぎの辛みや甘味がよくあいます。
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ウェールズ産のランプを使ったラムジャーキーは福田さん、オーストラリア産の肩ロースを使ったラムのパストラミは米澤さん。小野めん羊牧場があるせたな町で、羊を飼う大口義盛さんが育てた「羊飼いのトマト」が添えてあります。
ジャーキーは、甘うまな味付けでクセになる味で、おいしいものには節操ない(もちろんいい意味で)オーストラリアっぽいジャンキーな味付け。パストラミは、しっとりとした肉のうま味を、痺れ系のスパイスで輪郭つけて食べさせる洒落た味付け。
同じシャルキュトリ的な料理を食べ比べると、シェフの個性が見えてきておもしろいですね。
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調理で出たいろいろな部位の端肉を串焼きにしてクミンと塩をふった、神田「味坊」へのオマージュ料理。最後に熱々のオイルにくぐらせて香りを立たせるのは、関澤さんらしい演出です。香りが一気に立つのでおいしくなります。
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ニュージーランド産のスネを作った豆のスープは、福田さんの料理。アメリカ南部で出されるような、メキシコのニュアンスも入ったトマト味のスープ
です。
スネだけでなく、羊の乳のチーズを作るときにでたホエイ(乳清)を加えています。ひよこ豆などの豆のほか、つぶつぶとした食感が楽しいスペルト小麦などを、長時間煮込んだ、うま味爆発のスープです。
イベントの開始前からテラスの炭台で米澤さんが焼き続けていた小野めん羊牧場のラムのウデの丸焼きがついに登場します。
低温でなかまで火入れをしておいたものを、釜浅商店に持ち込んで、表面だけをじっくりと2時間炭火で焼いています。
肩から腕にかけての肉で、いろいろな筋肉が骨のまわりに行き交っていて、たべてみるとそれぞれ味の強さややわらかさなどが違って、ラムがあたりまえですが生き物であることを実感します。
とくに骨の周りの肉は、サクッとした歯切れの良さがあっておいしかったなぁ。
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SHEEP FREAKSのシグニチャーラム「SHEEPCROWN(シープクラウン)」です。
オーストラリア産のラムラック(骨付きロース)を3ピースつなげて王冠のように組んだものを、じっくり炭火で焼いていきます。このビジュアル、最高ですよね。ビジュアルセンスが、すごくSHEEP FREAKSらしい。
焚火料理としてある料理ですが、料理の説明としては「ラムの炭焼き」なので、「やる意味あるの?」という疑問も起きるところですが、SHEEP FREAKSにとっては、それはあまり意味がなくて、カッコいいよねというのが大事なのです(たぶん、笑)。
ちなみに今回は、釜浅商店のキッチンスペースのお披露目という意味合いもあったので、お祝いとしてSHEEPCROWNを作ったとのこと。
仕上がったラムは、切り出されてラムチョップになります。
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コースも終盤、〆といえばカレーですよね。福田シェフが、スネ肉やホエイなどを使ったカレーを使りました。これは、羊SUNRISEの神楽坂店でも人気の〆のカレーだそうです。
ご飯は、釜浅商店の飯釜で炊いているので、そりゃあ、もう、おいしいですよ。釜で炊いたご飯をお櫃に入れてから、器に盛ります。釜浅商店の熊澤大介社長によると「お櫃は、最後にご飯を仕上げる調理道具」だそうです。
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そしてダブルの〆メニューは、ラムのバラ、ホエイを使ったカルボナーラ「ラムボナーラ」です。
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最後にラムの形をした最中にアイスクリームを入れた「ラム最中」で終了です。
ご覧の通り、ラムを行儀よく、おいしさを感じながら食べるというよりもむしろ、ラムでサプライズを起こす、固定概念を打ち壊す、常識にとらわれるなといったメッセージを発信することこそがSHEEP FREAKSの目指す姿なのだということを感じさせる時間でした。
ラムを食べなれた古参ラム好きにはたまらない食事会だったし、まだそれほど価値を知らない人にとっては、たんにラムを食べることを通して、生き物を育てている人、育てている場所、肉を食べるとはどういうことかみたいなことまで考えさせられるので、食のドキュメンタリー的な要素もあって楽しめたんではないかなと思っています。
関澤さんと福田さんのユニット「SHEEP FREAKS」にこれからも注目です。