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これは必然的な Kishi-wazurai

朝晩たっぷりと冷やされた、つんけんしたような澄んだ空気のなかに、ぼんやりとしたぬくもりの日差しが降り注ぐ秋の陽気が好きだ。歩き出して向かい風が吹けば晒された肌がひんやりするし、立ち止まって日差しを浴びていると身体はぼーっと熱くなる。

「Koi-wazurai」を聴いた。

言い訳するわけではないんだけれども、夏の終わりは個人的に忙しかった。それはもう大変に。仕事も、プライベートも。気持ちが常にざわざわしていて、よくあの時期をフラットな状態で乗り越えたなと思い返して自分に恐れおののく。

それもこれもキンプリさんたちがいてくれたおかげ、と言いたいところだけど正直まあそうも言い切れなくて、というのも、気持ちに余裕がないときにはあまりオタクごとに気を向けられない性分なので、率直に言えば「なんできみたちはこんなときに新曲出すの!?こんなにプロモーションするの!?この番宣祭りと雑誌祭りはいったいなに!?!?」という気分ではあった。八つ当たりしていた。本当にすみません。

まあ、そんなひとときもゆるやかに過ぎ、いまやっと心して「Koi-wazurai」に身を落ち着ける時期が来た。
何度も聴いた。リピートして聴いた。

なんて天才的な曲なんだ。


これまでゆるっとサビを聴いていた限り、キャッチ―ではあるけれどそこまで好みな曲調ではなく、サビの歌詞をさっと流し見した程度では惹かれる要素もなかったので、「ハマるかなあ、この歌」とむしろ心配していた。
でもメロを何度も聴いているうちに、この曲の真髄はメロにこそあるんじゃないか、とふと思った。


ロジカルなHead シニカルなHeart
方程式の答えは何処へ

うまくいかない恋愛を、難しく考えすぎてごちゃごちゃになり、頭を抱えちゃう平野紫耀

今日もプライドってベクトルが
ミスリードする 二人の未来

仲良くいたいだけなのに、自分のプライドの高さに邪魔されてふたりの今後を嘆く神宮寺勇太

特別でいたいくせに
普通じゃないと不安で

特別扱いといつも通りの間でぶらさがって、自信がなく心許なげな髙橋海人

投げた視線そらすなんて
君らしくない

わたしらしさを知っていて平静にこちらを気にかけ見守ってくれている岸優太

奇跡が目をさます頃
月夜にハート 撃ち抜いて

恋愛の最終局面をやけに乙女チックに表現しようとするどや顔の永瀬廉

いつか星の陰で待つ君を
迎えにゆこう

暗いところで隠れていたら腕を伸ばして引っ張り出してくれる…… なんだかんだやっぱりお伽噺のヒーローみたいにしかなれない平野紫耀



ちょっと待って、歌割りが天才すぎる。(ため息)



だれですか、この歌詞にこのメンバー、あの歌詞にあのメンバーを割り振ったひと。頭よすぎですか。IQ200とかですか。あなたの脳みそ、とんでもない宇宙が広がっていませんか。
(でもちなみにいわちには廉くんのパートがいちばんしっくりきて、そのあとの紫耀くんのパートを廉くんに歌ってほしい、などと勝手妄想する)

そんな感じでわたしは「Koi-wazurai」を聴いているうちに順調に思考能力が低下し、判断能力が鈍り、言語能力を失う、果ては呼吸困難に陥り意識朦朧、どれだけわたしをKoi-wazuraわせるんでしょうかこの人たちは、と思ったけれど、わたしのKoi-wazuraiがいよいよ最終形態を迎えてしまう前に、ひとつ言及しておきたいことがある。



「わたしらしさ」を知っている岸優太、ってかなりしんどくない?


岸くんのパートが何度聴いてもとにかくしんどくて、それこそ「うっ!」とハートを撃ち抜かれたような気分になるのですが、それっていったい何が原因なんだろう、と突き詰めたときにこの歌詞が目に留まったのです。

投げた視線そらすなんて
君らしくない

〝君らしくない〟って岸くん言うけど、じゃあ「わたしらしさ」っていったいなに? 岸くん知ってるの? わたしですらまだ気づいていない「わたしらしさ」というものを、「まあおれは知ってるけどね」と言わんばかりにマウントとってくるその感じ、これってとてつもなくしんどくない?

そもそも〝投げた視線そらすなんて〟と岸くんに歌わせる時点でどうかしてる。オタクを殺しに来てる。あの顔を想像しながらその声を聴き、このフレーズを噛み締めていたらそんなの唐突に恋がはじまるに決まっている。
岸くんに〝視線〟を〝投げ〟るんですよ、お前はどんだけ高飛車だよ、おこがましすぎるんだよ………でもわたしはその視線をそらしてしまう。恥ずかしいからね。岸くんのお顔は尊いから、ずっと見つめていられるわけがないからね。

……〝そらすなんて〟?

そらす、なんて。それってつまり、岸くんはわたしが〝視線〟を〝投げ〟たところも〝そら〟したところも、最初から最後までずっと見ていたってこと? 岸くんが? わたしのことを? わたしは岸くんにずっと見つめられっぱなしだったの?

これってもうほんととてつもなくしんどくない?

さりげなく岸くんを見つめて、やっぱり恥ずかしくなったからってそっぽを向いて。その一部始終を知っている岸くんは、つまり、ずっとわたしのことを見つめていて。そのうえでわたしの行為を〝なんて〟って言う。その副詞はあまりに拗ねがちだし、「ちぇっ」と唇を尖らせる岸くんを思い描いてKoi-wazuraわないはずがないし、そもそも岸くんがそんな些細で麗しいフレーズを発することでその意味の尊さはどんどん増していく。どちらさまですか、岸くんに〝なんて〟の三文字を言わせた方は?

そこでさらに〝君らしくない〟なんて続けるもんだから、わたしはもうその場から立ち上がれないし岸くんのほうなんてとてもじゃないけれど見られなくなっちゃうよね。そっぽ向いたままだよね。お願いだからこっち見ていないでって思うよね。


そこで唐突にわたしの脳裏を掠めゆく「Naughty Girl」


気まぐれ My girl こっち向いて
からかわないで!

無理! 見られない! こっち向けるわけがない! からかってない! からかってないけど、見られないんだもん! こんな顔見せられないんだもん! 好きだよ! 岸くん! 好きすぎるんだよお!!!… とわたしは膝からぺたりと崩れ落ち、まるですがるような気分になってしまう。ああ、どうしよう。わたしは路頭に迷った。いったいわたしは何にすがったらいいんだ。

ふと顔をあげた。そして、思わず目を細める。目の前にあったのは、白く眩しい日差しだった……
つんとそっぽを向いたような冷たさの空気を、じわじわと照らしてくれる穏やかな秋の日差し。そこにはもう、頭を抱えた紫耀くんも、神宮寺くんも、不安げな海ちゃんも乙女な廉くんもいない、もちろん、「わたしらしさ」のなんたるかを知って気にかけてくれる岸くんなんてもっといない。

秋の幻だ、と思う。夏の終わり、まだ夏が名残惜しい欠片たちが、秋色の日差しの下で気まぐれに見せてくれた幻だったのだ。わたしは目を閉じる。かすかな秋の匂いが鼻を掠めて、ああ、ついに夏は終わってしまったんだな、と妙なセンチメンタル感を覚えた。かすかなもの寂しさに片足を浸したような気分で、わたしは、秋の匂いを鼻いっぱいに吸い込んだ。

よし、「Koi-wazurai」を聴こう。

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