見出し画像

14「節制」✵川のほとりのモラトリアム

前のカード「死」では、一旦「終わり」を迎えました。

「終わり」となったのは、物語の中に流れる一筋の川の流れであり、物語を流れる大きな河が途絶えたわけではありません。
ハデスの背後にあった川(ギリシャ神話の冥界にある大河「ステュクス」や忘却の川「レテ」、エジプトの「ナイル川」)の水は、次の「節制」へとつながっていきます。
物語に息づく生命は、まだ枯れていないのです。

川のほとりで

次にたどり着いたのは、穏やかな川のほとり。
「死神」に流れていた川の先でしょうか。
落ち着いた空の色や透き通るような水面からも、どことなく静けさや神聖さが漂います。

・片足を水(無意識)に浸し、片足は地面(現実)につけている人物
・川面(過去)から右(未来)に向かって立ちのぼる架け橋のような虹
・カップからカップへと移し替えられる液体

違う要素と要素をつなぎあわせることが強調されているように、これまでのステージと次のステージを架け橋となる場面です。

あちらとこちらの狭間にある緩衝地点

ある意味、新しい転機までのモラトリアム(準備期間や猶予期間)のようで、ここ(「節制」)での行動によって今後の行方が決まるとも言えるでしょう。

12「吊るされた男」も「天と地の狭間」の交点にある仲介者でしたが、手足を縛られた「吊るされた男」よりも、能動的に活動内容を選び、行動する自由がありそうです。

ここでは、将来への触媒となるものを生み出さなければいけません。
そのために必要な材料である万物の要素ー四大元素が全て揃っているのは、そうしたことからなのでしょう。

(ウェイト版と同じく)人物の衣服には四角(四大元素と安定の4を象徴)、その中にある炎の飾り(を表す)、水辺の横に転がっていたり人物が足を載せている石(を表す)、大きく広げられた翼(を表す)、水面(を表す)

四大元素だけでなく、背景の山に日が昇ることで、物事を成し遂げようとする意志や生命の力も秘められていることがわかります。

自分の意志で、未来につながる行動をとっていくのです。

そんな場面で、天使のような人物が神妙な面持ちで、二つのカップのようなものを手にしています。
ウエイト版で描かれたカップは、オリジナルカードでは砂(?)時計に変わります。

ウエイト版「節制」
Pamela Colman Smith, Public domain, via Wikimedia Commons

現実世界ではなく、天の高貴なものであることを表す黄金の砂時計。
これまで重ねてきた(これから重ねていく)「時」を意味すると同時に、「時を重ねていくもの」の器(=生命や人生)をも意図しています。
ちなみに、砂時計を彩るブドウの意匠は、このタロットが始まったときからの旅の目的を表すシンボルです。

その砂時計の間で、重力の法則などお構いなしに、流れるように移し替えられていく液体は何なのでしょうか?

「死神」(のカード)から生まれ変わった魂のエッセンスを、新たなる人生に移し替えているのでしょうか。
はたまた、「恋人」(のカード)から成長したオリーブの木(画面右手)を、無事に結実するための秘伝の特効薬や肥料を混ぜ合わせているのでしょうか。

いずれにせよ、この結果が次の展開を大きく左右する、神聖な作業に違いありません。
液体の配合に寸分の狂いもなく、そして一滴たりともこぼさない。
最良の結果を得るために、慎重さや落ち着き、絶妙な配分やバランス、節度や冷静さが求められるでしょう。

次は、この人物についての解説に進みましょう。

二人の天使

結論から言うと、「虹の女神イリス」でもあり「大天使ミカエル」としても描いています。まずは、ギリシャ神話の「虹の女神イリス」をご紹介しましょう。

虹の女神イリス

イリスは、ホメロスに「足の速い」「風の足をもつ」「金色の翼」と形容され、ゼウスやヘラの使者として、天と地を結ぶ伝令神の役割を担った女神です。

また、女神レトが、ヘラの いつもの 意地悪で9日9晩陣痛に苦しんでいた際には、ヘラの目を盗んでお産の女神エイレイテュイアを連れてきました。
イリスのおかげで、レトは無事にオリュンポスの輝ける双子の神、太陽神アポロンと月の女神アルテミスを出産することがきたのです(カードの背景右にあるオリーブは、太陽神アポロンの聖木でもあります)。

そして、イリスはゼウスの命で冥界の川「ステュクス」の水を汲んでくる役割もありました。
オリンポスの神々がゼウスに誓いを立てる際は、その水を飲まなければいけないのです。
誓言に背けば、仮死状態に陥った後オリンポスを追放され、10 年目にやっと罪を許されます。
そのため、ステュクスの水には猛毒が含まれているとか、神々さえも支配する特別な力が宿っているとされる、などの説があるよう。
描かれている液体が、これから神々に飲ませようとする「ステュクスの水」だと考えると、まさに取扱注意のアイテムのイメージが湧いてきます。

このように、イリスは、伝令として物事を結び付ける媒介であり、その後の輝かしい栄光(反対に苦痛や悲劇も)をもたらす影の立役者や実行役という役割を担った女神であると言えるでしょう。

大天使ミカエル

一方で、両性具有(どちらの性も行き来する)の天使、大天使ミカエルとしても重ねられます。※「正義」でも登場

「正義」のカード

「正義」「節制」は、共に枢要徳(プラトンが説いた人の四つの美徳)であり、どちらも大天使ミカエルだという説があります(諸説あり)。
大天使ミカエルは、キリスト教の「最後の審判」のときに人間の魂を計るとされているので、「正義」のカードが象徴するバランスや公正さに重きを置くのは、「節制」にも受け継がれているでしょう。

また、「正義」の天使が硬質な鎧をまとい、翼を硬くたたんでいるのに対して、「節制」ではやわらかなローブをまとい、翼を大きく広げています。
冷静に判断し、適切な折り合いを見極めようとする姿勢はどちらも同じようですが、断固とした厳しい姿勢を示す「正義」と異なり、「節制」には「これから」の可能性を育てようとする柔らかさがあります。

そう考えると、カード背景にある太陽へと続く道は、より明るい明日へといざなうためのように思えるのです。


こうしたことから、「節制」で描かれているのは、

「(終わってしまった)これまで」と「(新しく始まる)これから」を「調和」させる行動を意識する。
心を鎮めて集中し、バランスをとる。
そのために必要なものは、全て揃っている。

ことの大切さだと言えます。

そうすることができれば、カードの川岸に描かれたオリーブにも立派な実がなることでしょう。

「節制」によって何を生み出したいのかも、私たちに委ねられています。

「節制」の警告

「節制」の後には「悪魔」のカードが続きます。
大天使ミカエルは、神に反逆した堕天使ルシファーとの戦いに勝利し、地の底に追いやった戦士でもあります。

Luca Giordano『堕天使を深淵に落とすミカエル』, Public domain, via Wikimedia Commons

神への反乱を武力で押さえつける大天使ミカエルと、ゼウスへの背信には罰を与える水をもたらす虹の女神イリス。
画面で重ねられた二人は全く異なる人物でありながら、「神聖なもの」や「大切にすべきもの」を軽視した場合には「罰」をもたらすという似た側面を持っています。

こう考えると、「悪魔」「塔」とカードが続いていくのも納得がいきます。
「悪魔」に取り込まれないよう、「節制」のカードが警告してくれているところもあるのではないでしょうか。

とはいえ、頭ではわかっていても、本能が求めることを止められないことは、多々ありますよね……。
まぁそれが人間ですやん。

次のカードは 案外楽しそうな「悪魔」に取り込まれた世界、一緒に覗いてみましょうね♡

物語は、まだまだ続きます。

※当サイトの内容、テキスト、画像等の無断転載・引用・複製・改変等の二次利用は固く禁じます。

いいなと思ったら応援しよう!