エッセイ:汽水記 第1回/「ホムペの遠浅」
秋と冬のあいだの肌寒い日、乾燥した教室の片隅でカチカチカチ、とケータイの下スクロールボタンをただひたすら連打する。制服のスカートの股の上、糊のゆるんだ襞のあいだに埋めるようにしてケータイを隠し持つ。小さな画面に浮かび上がっているのは声も知らないどこか遠くの人間の、それでいて自分の心にいちばん近い人間の書いた長い長い日記で、そこに紡がれた彼ら彼女らの何気ない日々の光景を、わたしはまるですがりつくようにしてむさぼり読む。深くうつむいたわたしの頭上ではクラスカーストの高い生徒たち