編集者が企画するときに、心に留めておきたい3つのこと
編集者と名乗ってはや8年。さすがにこれだけやるといろんなノウハウを人に伝えられるようにある程度体系化できてきたなぁと思っています。
そうやって蓄積されてきたものたちを、すこしずつnoteに綴っていけたらな。そんな気持ちで、私が編集をするときに心がけていること、よく質問されていることを今日から不定期更新していきます。
WEBなどの編集もやっていますが、あくまで「情報誌出身の編集者」の企画の作りかた、と思って読んで頂けると嬉しいです。例えば…エッセイ的な書籍の編集なんかはまた全然違うんじゃないかなぁと思います。
今回お伝えしたいのは、企画編集をしていくときに心に留めておきたい3つのこと。これをちゃんと意識している企画は、読者に寄り添っていて優しく、親切だなぁと感じることが多い、そんな企画のコツです。
1. なによりもまず最初にストーリーを考える
「企画編集」っていうと、とても難しいことのように思えるし、何から手を付けたら良いか分からない!となる新人を何人も見てきました。
そんな子たちにいつも問うのは
「誰かにこの話をするとしたら、どんな順番で、何を伝える?」
ということ。
企画編集なんて仰々しい名前がつくから緊張しちゃうけれど、要するに誰かにオススメしたい、伝えたいことがある。それを言葉で直接伝えるんじゃなくって紙やWEBという別の形に乗せて伝えてあげる、それだけのこと。
たとえば、春におすすめのお菓子の企画。もし誰かにこの企画で紹介するお菓子たちのことを、直接話して伝えられるなら…どうする?と考える。
「春にふさわしいとっておきのお菓子があってね」
「●●と✗✗と▲▲の3つが、色がとっても春めいていて素敵なんです」
「お菓子が作られた背景も素敵でね…。〜〜〜なんですよ」
「この商品が購入できるWEBサイトも紹介しておくので、ぜひ買ってみて」
みたいに、話す順番ができるはず。まずはこれを箇条書きにできれば、上出来。これさえあれば、WEBも雑誌も作れます。
2. 「ゴール」を決めて、独りよがりにならない
ストーリーができたら「読者視点」をチェックします。何かを伝えたい時、人は無意識のうちに「自分が伝えたいこと」になりがちです。
わざわざ読みたいと思ってもらえる内容になっているか?企画をしていく途中で少しでも気をゆるめると、すぐ独りよがりになっちゃうので、都度チェックしておきたいポイント。
じゃあ「読者視点」って何なの?というと…大きくふたつあります。
a 困っている何かが解決する
b それを知ることでもっと楽しくなる
初心者でも手を付けやすいのはa。困ってることを想像して、その答えをギブしてあげれば企画が成立します。
bはトレンドや世間の空気感、インサイトを加味して絶妙なバランスで作っていかなといけないので、やや難易度が高いですが、編集者として生きていくならぜひ挑戦したい楽しい領域です。この話は、また今度いつか。
3. たったひとりの「誰か」をちゃんと想像する
企画は広く多くの人に届けるけれども、作るときは誰かひとりだけを想像して作る必要があります。そうしないと…すぐ罠に陥ってしまうのです。
大体最初に陥る罠は、これもふたつ。
・自分の理想の偶像を作り上げてしまう
・みんなにウケたいと思って誰にも刺さらない
お菓子の企画でまた説明すると…
・自分の理想の偶像を作り上げてしまう
たとえば「スイーツと季節ものが好き。春になると雑誌のスイーツをチェックして、気になるものさえあれば高くても通販できなくっても、買いに走る。過去には九州の山奥の一軒家まで春限定スイーツを買いにいったことがある。」みたいな人物を作り上げてしまうこと。
とりあえず春のお菓子特集をすれば絶対読んでくれるし、通販できないお菓子も可愛かったら取り上げられる。企画にめちゃくちゃ都合の良いユーザーが出来上がってしまうのです。そんなやつおらんわ!っていうツッコミがすかさず入ります。
・みんなにウケたいと思って誰にも刺さらない
これは優しい人が特に陥りがちな罠です。
「春のスイーツ…桜もあるし、いちごもあるし、よもぎ餅も、柏餅もはいるかも。でもフレーバーのお菓子苦手な人もいるかもだから…桜マドレーヌと一緒に普通のマドレーヌも紹介しよう!あとケーキ…は、家族で食べる人はホールケーキを紹介して、一人暮らしの以下略」
のように気遣いを全方位エンドレスに広げて、結果企画の枠がぼやぼやに。
この罠たちの解決方は、ターゲットを一人に絞って考えること。
もちろん企画自体は広く色んな人に届けるべきだし、マーケットサイズを狙える企画に仕立て上げていくべきです。なので「こういう人、いるいる!」ってなる人物像に絞ります。お菓子の企画なら
ターゲット
「都内在住の一人暮らしで、スイーツ好き。期間限定商品に弱く、コンビニの限定フレーバーを買いがち。雑誌やWEBでたまたま見かけたスイーツを購入することがある。スイーツは自分へのご褒美で月1〜2回ほど買っていて、1回あたり300〜600円程度」
提案してあげると良さそうなこと
・春スイーツの中でも特に人気な桜やいちごのスイーツを紹介
・WEB注文できるお取り寄せや、帰りの駅で購入できると良さそう
・サイズはカップケーキくらいの、ひとりで食べ切れるサイズ
・単価は300〜600円
・手軽なコンビニスイーツにはない「わざわざ取り寄せたい」「買うために立ち寄りたい」美味しさの理由やコスパの良さがある商品を探す
みたいな感じ。ターゲットは、1度作ったら「こういう人、知り合いにいる?」を自分に問い直しながら完成させていきます。知り合いにドンピシャな人がいたらズバリその人を思い浮かべながら考えるとすごく楽です。
顔が見えない誰かを想う想像力を持ち続けること
雑誌やWEBに載せる情報は、読み手の顔が見えません。
でも、顔が見えなくても誰かが自分の作った記事に大切な時間を割いてくれている。100人が1分読んでくれたら、世界の100分ぶんの時間があなたに使われている。
どんな人が読んでくれてるだろう。どんな気持になってくれただろう。そういう想像力を忘れない力って何よりも大切で、難しい編集者としての大切なスキルです。
企画編集する仕事は、相手にプレゼントをそっと手渡すようなものだと、私は思うのです。大切な誰かに渡すプレゼントは、どうやったら喜んでくれるか考えるし、本当に使えるか、好みにあうかヤキモキする…そんな心の距離感でつくられる企画は、読んでいてとても楽しいはず。
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