写真展「風和らぐ」被写体インタビュー/龍崎翔子さん(ホテルプロデューサー)
来年1月10日から開催の三浦えりの写真展「風和らぐ」
龍崎翔子さんの展示予定の写真を先行公開します
龍崎翔子(りゅうざきしょうこ)さん
ホテルプロデューサー
L&G GLOBAL BUSINESS, Inc.代表/ホテルプロデューサー。1996年生まれ。2015年にL&G社を設立。「ソーシャルホテル」をコンセプトに掲げ北海道・富良野の「petit-hotel #MELON 富良野」や京都・東九条「HOTEL SHE, KYOTO」をプロデュース。2017年9月には大阪・弁天町でアナログカルチャーをモチーフにした「HOTEL SHE, OSAKA」を、2017年12月には湯河原でCHILLな温泉旅館「THE RYOKAN TOKYO」を手がける。2018年5月に北海道・層雲峡で廃業した温泉旅館を再生した「HOTEL KUMOI」をオープン。
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「令和を生きる女性」、誰だろうと想像したときに真っ先に私の頭の中で浮かんだのが龍崎さんでした。そして、いろいろな世代にお話しを聞く中で上がった名前も龍崎さんでした。今、みんなが気になる女の子。この子を自分のカメラで写真に残しておきたい!最初は本当に純粋にそう思いました。
でも、彼女のインタビューや発信を読んでいると、一つだけ気になる点がありました。彗星の如く現れたホテル業界を変えていく天才。そんな持ち上げ方をされてはいるけれど(もちろんめちゃくちゃ素晴らしい人なんです!)、彼女の言葉には「私はこう思う」というただただ主観であるメッセージが多かったこと。そして、彼女がつくったホテルたちも「ぼくたちはこんな人を待っているよ。」と龍崎さんと同じように声を掛けているように思えたんです。「私はこう思う。あなたはどう思う?」と相手に考える余白を与えてくれる。そして、「もし同じ渇きを持っているなら、一緒に行こうよ。」と手を差し伸べてくれる。これって、とても優しい距離感だなと思ったし、龍崎さんも彼女がつくるホテルもそんな存在なんだなと思いました。
だから、そんな彼女の優しさを写真で撮れればと思い撮影しました。みんなにも伝わると良いな。
これから始まるインタビューにも彼女の優しさや、今に至る背景などたくさんお話ししていただきました。ぜひ、読んでください。
「自分はこれを選ぶ」という納得感を、すごく気にしています
三浦:今回は、経営者というより龍崎さんの人柄について色々伺いたいなと思っています。
龍崎:よろしくお願いします。
三浦:龍崎さんの過去のインタビュー記事を読んでいると、【何かを選ぶときは、直感やバイブスで選んでいる】と話されているのが印象的でした。私自身も、龍崎さんを見ていて「直感で選ぶ力」がすごいなって思っていて。今って、SNSの普及によって選択肢がどんどん増えてますよね。だからこそ、「何を選べばいいかわからない」って悩んでいる女の子が多いなって。龍崎さんは、「選ぶ力」をどうやって養ってきたんですか?
龍崎:母の教育スタンスだと思います。小さいころから、お祭りの露店で景品を選ぶときに「3つの中だったらどれがいい?」という風に必ず私に選ばせてくれていました。母は、私を自立した女性に育てたかったみたいで。「自分で選ぶ体験を積み重ねることができるように育てた」って、母が言ってました。
あと、学生の頃からお手本通りのものを作る事に満足できないタイプだったんです。図工の授業とかで、先生がお手本を作るとみんなそれをマネするんですけど、私の場合は「先生のお手本とは違うものを作りたい」という気持ちがあって。
たぶん、この2つが重なり合って、何かを選ばないといけないときに「お手本通りの選択をして本当にいいのか?」って、立ち止まって考えるようになったと思います。
例えば、成人式のときに自分が振袖を着るイメージを持ったことがなくて。「振袖じゃなくてチャイナドレスとか着たい」という想いがありつつ、「成人を迎えるに当たって、なんで自分は振袖を着ないといけないんだろう?」ということをすごく深く考えるようになって、結果的に成人式に行かないという選択をしました。
三浦:成人式、行かなかったんですね!
龍崎:そうなんです。成人式にはいかない、その代わりに、当時自分のお金で買える一張羅じゃないですけど、好きだったブランドの服を買ってパーティーに行くという選択をしました。
成人式のような社会的慣習になってしまっていることとか、みんなが当たり前に受け入れる選択肢を選ぶタイミングのときに、「自分はこれを選ぶ」という納得感はすごく気にしていますね。だから、自分にフィットすると思えばみんなが選んでいる選択肢であっても全然違和感なく選んでるし、「みんなが選んでるけど、自分にはフィットしない気がする…」みたいなときは、立ち止まって違う選択肢を選びたいなと思います。でもいざ選ぼうとしても、「自分にフィットする選択肢がない」ってなるときがあって。その時は、「じゃあ、自分でどうにかしなきゃ」って思いますね。
三浦:ホテルも、そうなんですね。
龍崎:ホテルもそうですね。自分にフィットする選択肢がないなって。
三浦:家族旅行に行くときに、ホテル選びをお母さんから任されていたとインタビュー記事で読みました。
龍崎:ホテルはもう、本当に選択肢がなさすぎて…。私が「泊まりたい!」と思えるホテルは、街中には絶対にないんですよね。街中のホテルって、温泉があるか、朝食が豊富かどうかでしか選びようがなくて。でも、温泉や朝食は私が求めていることではないし、「素敵!」と思えるところに泊まろうとすると郊外に出るしかない。しかも結構高い値段で、1人1泊2万は超えるなみたいな感じで。
三浦:自分の中に選ぶための基準があって、それを大切にしてるってすごいですね。
龍崎:仕事をやり始めてからは、「この選択が、自分にフィットしているのか?」を考える機会が増えましたね。「これ、もっとこうだったらいいのに」って、今まで以上に思うようになりました。
高校生までって、自分で選ぶものって結構限られる気がしていて。服と、聴く音楽と…くらいしか自分で選ぶことってないんですよね。でも、社会に出たら身の回りのありとあらゆることを全部自分で決めて選び取ってかないとけない。そのときに、なんかこう「違う」と思いつつストレスを感じながら選ぶことに対して、すごく不快感じゃないですけど、ちょっと違うなって思う気持ちを結構感じています。
「自分がどうだったら嬉しいか」が、私の判断基準
三浦:話が変わるんですけど、私、将棋を見るのが好きで、強い人って「大局観(たいきょくかん。物事の全体的な状況や成り行きを見極め、自分がどう動けばいいか判断する力)」がずば抜けてるんですよ。龍崎さんの「無数の選択肢の中なら選び取る力」も、直感と言いつつもその裏には色々な思考があるんだろうなって。
龍崎:言語化はできてないんですけど、自分の中になんらかの論理的整合性はありそうな気がします。例えば、「今後、社会がどうなるか」ということに関しての大局観はあまり持っていない気がして。社会をどうしたいとか、世の中の流れを読み解いて先乗りしたいっていう気持ちは、そんなにないんですよね。
それよりもむしろ、「自分がどうだったら嬉しいか」みたいな次元の大局観っていうのがあって。それに関わってくる人、関わって欲しい人には積極的に働きかけて、「あんまり響いてないな」って人は気にしないとか、そういう方が大きいのかなって。あくまで自分が優先って言ったら変なんですけど、1周回って利己的みたいなところがありますね。
自分の感情だったり想いとかって、すごく普遍的なものだと思っていて。みんな同じような教育を受けて、同じような情報をインプットしているので、それって回り回って同じ痛みだったりとかを持っていると思うんです。自分の痛みだったりとか渇きを癒していくことが、結果的にみんなの渇きを癒すことになるんだろうなって。そういう意味で、リアルであることにすごくこだわりがあると思うので、私の中にも大局観はあるかもしれないけど、あるとしてもすごい利己的な大局観だと思います。
選択肢がなかった人たちに対して、新しい提案をしているだけ
三浦:今って、SNSで断言した言葉で発信している人が多いじゃないですか。How to や情報もそうだけど、思想とかでも「こうだ!」って言う人が増えてきているのかなって。確かにその方が伝わり易いんだろうなって思うんですけど、龍崎さんは「〜だと思う」って語尾に使うことが多いなっていう印象が強くて。
龍崎:たしかに、「〜だと思う」ってよく使ってるかも。それは、事実と意見は分けるべきだと思ってるのがひとつと、あとはなんか…私の場合、たぶん事実より「龍崎がこう思ってる」って発信したほうが価値があると思っていて。笑。それが事実じゃなかったとしても、私はそう見てるってことで「〜だと思う」って言ってるのかなって気がしてます。でも、結構「〜だと思う」は無意識で使ってました。
三浦:そうなんですね。でもそれは、逆に余白があるなと思っていて。見てる側に、「龍崎さんはこう思ってるけど、自分はどう思うのか」って考えるきっかけになっていますよね。
龍崎:高校生のときに、学校の活動で模擬裁判っていうのをやったことがあるんです。実際に起きた事件の調書とかを読んで、警察側と弁護側に別れて法廷バトルするっていうのがあって。内容は、少しだけ高校生向けに作り変えられてるんですけど。
模擬裁判をしたときに、世界って多面的に捉えるべきだなって感じました。もし模擬裁判を体験していなかったら、ニュースで流れている情報が真実だと思っていたし、本当に同じ事実に対してこういう見方もできるし、こういう見方もできるし…っていうのを知ったのが大きいのかなって思っていて。
だから、自分の見えてる世界が自分にとっては真実かもしれないけど、あくまでそれは「自分の視野の中の出来事」に過ぎないんですよね。知らず知らずのうちに、自分だけの感覚みたいなものが自分自身に染み付いてしまってる…っていうことが、もしかしたらあるのかもしれないなって気がします。
三浦:私は勝手に、龍崎さんの人柄とホテルがすごいリンクしてるなと思っていて。ホテル自体も「自分もこう思ってるからおいでよ」みたいな感じですよね。
龍崎:さっきの打ち合わせでも、別の方から全く同じことを言われました。「龍崎さんが手掛けるホテルは、本当に好きな人は来たらいいし、好きじゃない人は全然気にしなくて良いよ」みたいな雰囲気が出てるよねって。確かに、来るもの拒まず、去る者追わず的なスタンスはすごいあるなぁって自分でも思っています。なんでかっていうと、私たちが作ってるホテルって「ボクの思う最高のホテル」ではないんですよ。
「究極系のホテルがこれです」って言いたいんじゃなくて、今のホテル業界にはあまりに選択肢がなさ過ぎるから、数ある選択肢のうちの1つとなるようにあえてちょっと極端なものを作っているみたいな要素が大きいんです。自分の商品、作ってるプロダクトが正解だとは決して思ってなくて、誰かのひとつの選択肢としか思っていないから、だから「来るもの拒まず、去る者追わず的なスタンス」って感じていただけるのかなって思ったりしますね。
三浦:龍崎さんの場合、「ホテル業界に入って、今までの既成概念をぶっ壊すぞ!」って感じではないですよね。
龍崎:そうじゃないですね。だから私たちがつくるホテルに対して、「自分はもっと、インターコンチネンタルホテル(世界初の国際ホテルブランド)みたいなのが好きだ」と仰る人もいると思うんですけど、「それはぜひ、インターへ行ってください!インター良いホテルだと思うんで!」っていうスタンスなんです。私たちが作っているホテルは、選択肢がなかった人たちに対して新しい提案をしているだけなので、選択肢に困ってない人はそれは素晴らしいことだし。
でも、今思えば「これが私のスタンスなんだ」って辿り着くまでは、ちょっと時間が掛かったような気がします。やっぱり初めは、「ホテル業界をディスラプト(破壊)しようとしている」みたいな持ち上がられ方をしていたんです。それを見て「あ、そうなのかな?」「既成概念を壊してるのかな」って思ってんたんですけど、「私は別に、既成概念を壊したいわけじゃないな」ってことに、数年前くらいに気づいて。「あぁ、自分こういうスタンスだったんだな」ってことを、その時に再発見した感じですね。
自分が欲しいシステムがなかったから、作ろうと思いました。
三浦:龍崎さんが手掛けるホテルの予約システムも、すごく今の時代を考えて作られていますよね。
龍崎:ありがとうございます。予約システムも、基本的には自分が欲しいのがなかったっていうことが大きくて。自分が欲しいサービスがない状況が、ホテル業界的にもわりと痛いと思いました。自社予約(ホテルの公式サイトからの予約)を取らないといけないのに、自社予約の導線がイケてなさすぎるから、絶対に自社予約取れないじゃん…って。これって、普遍的な痛みだなぁ…って感じていたので、じゃあまぁ、やろうかなって。
三浦:龍崎さんと同世代の子だと、公式HPからの予約って使いづらいって感じちゃいますよね。アプリとか使い慣れてるから、どうしてもそっちから予約しちゃったり。
龍崎:そうですそうです。「なんでここで戻っちゃうの!?」とか、「あれ!?」みたいなPCで見ることを前提にしているデザインだったりするので、スマホだと全然使いにくいじゃんこれ…ってなるんですよね。
三浦:最近は、PCを持ってなくてスマホやタブレットだけっていう子もいますからね。
龍崎:大学とか行かなかったら、レポート書く機会がないとPCって持たないですよね。
今の私があるのは、運が良かった要素が大きい
三浦:龍崎さんを見ていると「大学生が起業して、ホテルを作って成功してる!すごい!」って思われる面もあると思うんですけど、見えないところで1つずつ堅実に進めているイメージがあります。一見、再現性がないように見えるけど、実は再現性があるというか。
龍崎:めちゃめちゃ堅実だと思いますね。リスクをあまり取らずに、どう積み上げていこうかなとか。「高校生とか大学生に向けて、起業している人としてメッセージを伝えてほしい」「ロールモデルになってほしい」って声を頂くこと多いんですけど、苦手なんですよね。無責任に、他の方の人生を煽っちゃうことしたくないんですよ。普通に考えて、同世代にこういう人がいるってなると絶対に焦るじゃないですか。今の私があるのは、本当に人生のタイミングが良かったりとか、やりたいことが早い段階で見つかったり、たまたま親が協力してくれるフェーズだったりとかって運が良かった要素があると思うんです。なのに、「大学生が起業してホテルを作って…」という部分だけを取り上げられて、他の人を良くも悪くも刺激してしまうのは嫌だなぁって思ってたりしていて。
本当に伝えるべきことは、「自分のやりたいことがあるときに、それをどうやって実際に実現できるところまで落とし込んで行くか?」とかだと思うんです。でも、メディアではキャッチーなところが切り取られやすいので、そう言うところを伝えるのは難しいなぁって思ってます。
三浦:「ぽっと出たシンデレラストーリー」ではなく、泥臭いとは言わないんですけど、その辺をしっかり伝えていきたいと。
龍崎:そうですね。泥臭さは、ぜひ伝えていきたいです。
写真展「風和らぐ」
場所 表参道ROCKET
日時 2020年1月10日(金)〜1月15日(水)
▼12/16(月)12/17(火)渋谷で被写体の方たちを交えてのトークショーを開催決定!
記事執筆:三浦えり
編集:せらなつこ
ヘッダー制作:カナメ@世界観デザイナー