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瀬戸内海へ、心が浮遊する青を探して

11月のはじめに友人と岡山県倉敷市児島にあるホステルDENIM HOSTEL floatを訪れた。

「この数ヶ月、ずっともやもやしたものを抱えている。」それは自分の写真への向き合い方なのか、もっと大きく人生というものなのかは分からないけれど、ずっと心のなかが二の足を踏んだ状態が続いていたことを友人にポツリと言ってみた。声に出したということはかなり重症なのだろう。この数年の私は、ある程度のことは自分で解決して進んでいたので、本当にどうしたらいいのか分からなかったんだと思う。

「ずっと気になってるって言ってた瀬戸内のfloatに行ってみる?」

思いをポロッと吐露した相手から急にfloatの名前が飛び出した。

DENIM HOSTEL floatはデニムブランドITONAMIが運営するホステル。オーナーの山脇耀平さんとは私の写真展に来てくれたことがきっかけでちょっとした交流が続いている。彼と彼の弟島田 舜介さんは2019年の秋に岡山県倉敷市児島の瀬戸内海を一望できる場所にホステルを作った。もともと企業の保養所だったらしく、彼らは保養所の窓から広がる瀬戸内海の景色を見て一発でこの場所を選んだと前に話してくれた。彼らがSNSで発信するDENIM HOSTEL floatの景色と日々はいつも空と海の青にギュッと抱き締められているような優しいもので、私はずっと心惹かれていた。これまで仕事で四国を訪れたり、瀬戸内を旅したりとfloatを訪れるチャンスは何度かあったが、なぜかタイミングが合わずなかなか行くことができなかった。私はその度にまだ訪れたことがないfloatで過ごす時間を頭に浮かべていた。

「何かいいことがありそうだよね」

何に期待しているかなんて明確なものはなかったけど、floatに行くことが決まってから私たちは何度もこの言葉を繰り返していた気がする。

DENIM HOSTEL floatでの滞在はなんだか不思議な時間だった。私が好きな小説のなかに入り込んだような世界だった。私が生きるリアルな現実の世界と少し距離が生まれて心が軽くなり、目に見える青の世界に自然とカメラのシャッターを切っていた。わたしは目に映る青すべてを写真に収めたいと思った。

瀬戸内の空と海を眺めたり、夜は焚き火をして一緒に訪れた友人と過ごした。青い海と空を眺めていて、何か得られるお得な情報なんてもちろんないけれど、ただただ視界に広がるこの景色が私と友人の心の奥深くにあるものの繋りを感じさせてくれる。そして、夜の焚き火ではいままで誰にも話してこなかった大切な身の上話をして何時間も過ごした。

宿を離れる最後の日の朝にスタッフのダイチさんにfloatの後ろの山頂にあるbelkというカフェに連れてってもらった。徒歩でいくのには時間が掛かるので諦めたと話したら「車で乗せていきますよ」と言ってくれたのだ。

山頂の景色に驚いた。私の身体がふわふわと瀬戸内海を浮いているようなそんな景色だった。ドリンクを買って、ふたりで秋晴れの青い景色を見ながら話していると、自然と個人的な話や心のなかで思っていたことをふたりで語り合っていた。30分前に会ったばかりの人とこんな穏やかに会話ができたのが不思議でならなかった。山脇さんたちが宿に「float」と名付けた理由がなんとなくわかった気がした。どこかに流されるでもなく、力を抜いてただ穏やかに気持ちよく心を委ねる場所なんだろう。

この青い場所には人の心を優しく解放してくれる不思議な力が宿っているのだと思う。そして、みんなそれぞれが日々を暮らしていくなかで奥底に持つ大切なにかを共有できる力があるのかもしれない。私も同じようにそんな「不思議な力」を宿した写真を表現して人に伝えたいとそのとき感じていた。

ここ最近のモヤモヤはすっかり晴れて、瀬戸内に広がる青が私の心のなかにも広がっていた。東京に戻ってもDENIM HOSTEL floatで出会った青を心に持ち続けていればなんとかなりそうな気がした。迷子になったら、また訪れればいい。ここで感じた気持ちを大切にしながら写真を撮れば前に進めそうな気がした。


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