モニカpart2

写真展「風和らぐ」被写体インタビュー②瀬立モニカさん(パラカヌー選手)

1月10日から開催の三浦えりの写真展「風和らぐ」
瀬立モニカさんの展示予定の写真を先行公開します

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瀬立 モニカ(せりゅう もにか)さん
パラカヌー選手
1997年生まれ。中学2年から江東区のカヌー部に所属。国体出場を目指していた高校1年の時、体育の授業で転倒し、障害を負う。退院後の2014年、高校2年の夏からパラカヌーを始める。2014年、2015年と日本選手権で連覇を果たす。2015年世界選手権で決勝に進出。
リオデジャネイロパラリンピックに、パラカヌーでは日本人で唯一出場する。
◎モニカさんを被写体で選んだ理由
人生で誰しもが逆境や超えられないような高い壁に向き合うときがあると思います。そんなときに、孤独と向きあい、自分自身を奮い立たせて、自分の意思をちゃんと持って突き進み、ときには自分の足りない何かを持った仲間と協力して乗り越えて生きていくのだと思います。また、誰とでも簡単に繋がれる時代で、孤独に向き合うことと誰かと一緒に助け合っていくことの境界線の引き方がとても難しくもあり、重要なことなのではないかと感じています。
今回の被写体の瀬立モニカさんは高校時代の事故で両下肢まひになってしまいました。足が動かなくなるという状況でご自身も孤独を抱える瞬間はたくさんあると思います。でも、カヌーを通して節目節目でこの世の中で生きていくことへの意味を見出したり、周りの人との関わり合い方にたくさんの気づきを得ながら、弱い部分も受け入れて成長しているんだなと感じました。そして、ポジティブで笑顔で突き進むことがモニカさんの意思の強さをさらに強力なものにしていってるのだと思います。だからこそ、モニカさんはたくさんの人が応援したいと思える人柄なんだと思います。
誰かと何かを共有して前に進める時代だからこそ、自分自身としっかり向き合い、ときには孤独と戦いながら、できないことや弱い部分も受け入れることで夢に向かって本気で突き進んだり、素敵な仲間を見つけることができるんだとモニカさんを通して伝えたいです。

「笑顔でいることを心掛けていたら、自然と自分の周りに人が集まって来たんです。」

三浦:先ほど、西コーチからモニカさんとの出会いや怪我をする前のお話しを聞いて、驚きました。

瀬立:え!そうなんですが!コーチ、何を話したんだろう。

三浦:「もともと、モニカさんは怪我をする前は内向的な女の子だった」と。西コーチのお話しを聞くまでは、モニカさんはとってもポジティブで常に笑顔で毎日を過ごしていると思っていたんです。今、こうやって明るく元気にパラカヌーに取り組めるのは怪我をしたことも影響していますか?

瀬立:暗い子ではなかったんですけどね。高校1年生のときに怪我をしたときは、気持ちが落ちてしまいました。そのとき、母に「笑顔は副作用のない薬だよ」と言われたんです。笑顔は万能薬だよって。

三浦:モニカさんのお母さんは、看護師さんですもんね。

瀬立:そうなんです。よく、患者さんに励ましの言葉で「笑顔は副作用のない薬だよ」と伝えていたみたいなんです。最初は、「何を言っているんだろう?」という感じだったんですけど。

三浦:そうなんですか。

瀬立:でも、高校の通学中に電車を利用したとき、お母さんのその言葉の意味を実感できる出来事がありました。私と同じ車椅子の方が、駅員さんの手を借りて電車から降りるときに「ありがとうございました」と笑顔でお礼を伝えていたんです。そのときの駅員さんの反応が、すごく嬉しそうで。自分の目でその光景を見たときに、「私もこうありたいな」と思いました。それから人に助けてもらったときは、積極的に「ありがとうございます」「助かりました」と言うように、自分の気持ちをちゃんと伝えるように心がけています。笑顔でいることを心掛けていたら、自然と自分の周りに人が集まって来るようになりました。人から声を掛けてもらえる機会も増えて、良いサイクルが生まれていますね。今の自分がこうやって活動できているのは、私の周りの人の影響もあります。コーチが明るい方なので、私自身も自然と明るくなれるんです。

三浦:私も前向きに動くと、良い巡り合わせに出会えることがあります。自分のいる環境は、自分の行動次第で決まりますよね。

瀬立:パラスポーツの選手でも、競技環境は人によって様々です。自分で良い環境を作っていく開拓力は、必要ですね。

三浦:撮影中にモニカさんと西コーチが話しているところを見ていました。モニカさんがしっかりと自分の考えを持っていて、意見をはっきりと伝えている姿が印象的で。そういうモニカさんの人柄だったり、意思の強さに周りの人たちは引きつけられるんでしょうね。

瀬立:「チームモニカ」という、私といっしょに戦ってくれる人たちがいます。私のパラカヌーの活動にを協力してくれている人たちは、私が持っている目標に対して助けてくれる人。私がはっきりと方向性を持っていないと、付いてきてくれる人たちが困ってしまうので自分の意見はしっかりと伝えるようにしています。

三浦:それって、だれかに協力してもらうときにすごく大切なことですよね。

瀬立:活動の費用についても、たくさんの方に支えてもらっているんです。パラカヌーの場合は船を持つ人と必ず二人で行動しないといけない。遠征をするときは二人分の費用を支援してもらう必要があるんです。他にもカヌーの練習のために水面をフラットにしてもらったり。地域の方々からのバックアップもたくさん受けています。

「周りの人に助けられてばかりじゃなく、私だって何かできることをギブしたい。」

三浦:今、「令和を生きる女性」をテーマにした写真展に向けて女性たちの写真を撮っています。モニカさんのひたむきにカヌーへ取り組む姿勢はもちろんですが、前向きな人柄に惹かれて被写体のお願いをしました。ポジティブに前を向いて進んでいて、自分のやりたいことに確信を持って行動している人柄が素敵だなと。そこを、今度の写真展を通して多くの方に伝えたくて。モニカさんの存在を知った子が、何か感じ取ってもらえると嬉しいなと思って。

瀬立:そう言ってもらえると、すごく嬉しいですね。リオのパラリンピックで、大きく考え方が変わりました。日本で日常生活を送っていると、車椅子であることがマイノリティ(少数派)だと感じることがたくさんあったんです。でも、リオの選手村に入ってしまうと健常者はいません。目が見えなかったり、片足がなかったり、車椅子だったり。いろんな障害の人がいる選手村に身を置いたとき、環境によって当たり前の概念は違うんだなと気付きました。だから、自分のいる場所で自分を卑下したり、人に合わせようとしなくて良いんだなって。

三浦:日本は島国のせいか、自分と違う環境の人に出会うと受ける刺激は大きいですよね。

瀬立:今までは「強い人が弱い人を助ける」という考えを持っていました。でも、パラリンピックに出たらみんなが弱い立場。目が見えない人を車椅子で誘導したり、私がご飯をうまく取れなかったら義足の人が助けてくれたり。誰しも欠けているものがあって、それを補い合うのが大事なんだと感じました。

三浦:それって、障害者同士のコミュニティだからとか関係ないですよね。どんな人間でもそういう関係でいるのってとっても素敵だと思います。

瀬立:私、ギブアンドテイクの関係をすごく大事にしているんです。周りの人に助けられてばかりじゃなく、私だって何かできることをギブしたい。どんな人とでも平等でいたい。何かをやりたいと思い立ったときに、無理だと思われることも多いかもしれないけど、環境によって自分がマイノリティだと思う必要はないんだなぁとパラカヌーを初めて気付きました。

「カヌーはあくまでもツールだと思っていて、私の姿を見て何か感じ取ってもらえたら嬉しいです」

三浦:パラカヌーを始めたのは高校2年生ですよね。高校に通いながら放課後にカヌーの練習をしていたんですか?

瀬立:はい。練習は土日と、学校が早く終わる日は放課後もカヌーをしていました。車椅子で片道1時間30分くらいかかるので、学校に通うのが本当に大変で。でも、放課後にカヌーの練習があると、学校に行こうかなって思えたんです。当時、学校を休んでカヌーだけをすることに罪悪感があったんです。社会との繋がりを持てたのは、カヌーのおかげですね。

三浦:スポーツって、特に個人競技だと孤独な戦いのイメージがあります。サポートはあるけれど、レースが始まると孤独なんだろうなって。でも、今日話してくれたパラリンピックの選手村の話しやコーチの方やサポートしてくれている方のお話を伺っていると、カヌーを通して社会とも人とも繋がっているんですね。

瀬立:カヌーは個人競技ではあるけど、チームで戦っているイメージが強いです。カヌーがあるからこそ、そこから生まれる横に広がる繋がりがありますね。

三浦:練習中に地域の方たちもモニカさんに声を掛けてくれているところを見て、それも素敵だなって思いました。

瀬立:みなさん、この川沿いが犬の散歩コースで、練習場所を集合場所のようにして、みんなで声を掛けてくれるんです。

三浦:わんちゃんもモニカさんにとっても懐いていましたよね。私は今回のモニカさんとの出会いでカヌーが身近な存在になったし、地元の方もそうやってモニカさんを応援しているんでしょうね。

瀬立:私自身、カヌーを通して見ている人に希望を与えることを目標にしています。私がカヌーをしている姿を見て、「元気をもらったよ」と言ってもらえたら嬉しい。カヌーはあくまでもツールだと思っていて、私の姿を見て何か感じ取ってもらえたら嬉しいです。

三浦:モニカさんを見ていると、元気でいることが大事なのは言葉がなくても伝わってきます。モニカさんがカヌーを頑張れば頑張るほどたくさんの人に伝わっていくことがあるんだろうなと思います。写真展でもそういうところが伝わると良いな。

三浦:ちなみ、カヌーのことばかり聞いてしまったので…趣味とかあるんですか?

瀬立:ジクソーパズルですね。

三浦:すごく予想外!

瀬立:性格じゃなくて行動が内向的なんだと思います。あとは読書とか習字とか。習字は気持ちを落ち着けたいときにやっています。カヌーは「動」なので、「静」なことがしたくってるんです。

三浦:なるほど。確かに。読書は何を読むんですか?

瀬立:東野圭吾さんです。おかしな話で試合の前日に見た夢が自分が殺される夢だったんです。夢占いだとそれが新しい自分に生まれ変わるようなことが書いてあったんです。そうしたら、翌日の試合でいい記録が出たんです!なので、遠征のときは5冊くらい本屋で買って、読むようにしてます。あえての追い込んでいくスタイルです!

三浦:すごいですね。そんなところもストイック。

写真展「風和らぐ」
場所 表参道ROCKET
日時 2020年1月10日(金)〜1月15日(水)

▼12/16(月)12/17(火)渋谷で被写体の方たちを交えてのトークショーを開催決定!

記事執筆:三浦えり
編集:せらなつこ
ヘッダー制作:カナメ@世界観デザイナー


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三浦えり
最後まで読んでいただいてありがとうございます。写真展が続けられるようにサポートしていただけるとありがたいです…!