非常口と月明かり
胸がいっぱいいっぱいだ。苦しいのに、自分ではどうにもできない。走り回ったらいいのか、バッティングセンターに行ったらいいのか。解消する方法が分からない。休まなきゃ。今休まなきゃヤバいぞ。危険を察知して、三連休は遠出せずにひとりで過ごした。あ。もう大丈夫かも。と思ったら、またぶり返してくる。厄介だ。
人に言われた言葉に、びっくりした。まあでもね、しょうがないかと思い直し、自分ではそこまで気にしていないと思っていた。でも。本当は傷ついていたらしい。頭から離れない。漬物を漬ける茶色い丸かめが倒れて、中身がぼろっと出てきてしまった感じ。時間が経つにつれ、他の嫌だった出来事もこぼれていく。今まで蓋をして溜め込んでいたのに。なんとか振り切ろうとしても、わたしの後ろが真っ黒になっていく。墨汁がボタボタと垂れて、点点点。ついに繋がってしまった。我慢がきかなくなる。
わたしって、蔑ろにされすぎじゃない?
真夜中。布団に入っても眠る気にならない。また苦しくなったから、勢いで外に出た。冷たすぎない空気が気持ちいい。散歩してやる!と思って外に出たのに、公園まで歩くのが怖くなって、階段を2段下りてしゃがんだ。月も見えるし、ここでいいか。
スマホをさわり、日課となっているポイ活をこなす。顔を上げては月を見る。ぼーっとする。タバコを吸いたくなる気持ちって、こういうものだろうか。真夜中に、こんなところで。我にかえって、わたしの後ろと階段下を見る。よかった。誰もいない。誰にも見られていない。よかった。こんな時間におかしいもん。
心地いい空気が、カッカした気持ちを鎮めてくれる気がするから、もう少しここにいよう。この中で、月だけが無敵に明るい。目線を下げると、アパートの壁に非常口の表示があることに気づく。非常口、EXIT。このピクトグラムは、逃げられることが決まっているのだろう。だって今まさに、外へ出ようとしているところ。じゃあわたしは、どこが逃げ道なんだろう。うまく逃げられるだろうか。0時7分。もう少ししたら、部屋に戻ろう。非常口の外は、月みたいに明るいといい。
もしサポートいただけたら、部屋の中でものすごく喜びます。やったーって声に出します。電車賃かおやつ代にさせていただきます。