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この春に降った雪のこと

子どもの頃、「どうして雪の日は静かなの」と聞いたら、「フカフカの雪がたくさんの音を吸収してくれるからだよ」と誰かが教えてくれたことがあります。
だから雪の日は雲が重そうなのかとか、色々な音の色が混ざり合って黒い雲ができるのかとか、妙に納得した記憶があります。
本当かどうかはわからないけれど、その特別な静けさが私は昔から好きでした。

桜が咲いたとか、誰かが卒業したとか、大きな事故があったとか、海の向こうで誰かが泣いているとか、友人がバイクの免許をとったとか、他の友人が病気になったとか、大切な人が混乱の中にいるとか。

この春、この小さな部屋の中で私が抱えるには少し多すぎる量の混沌が渦巻いていて、すっかり抱えきれずにいます。
もっとちゃんとしたいのに、ちゃんとできずにいます。


日常というのは、海に浮かぶようです。
海には潮の流れがあり、波も来る。
無理に沖に出ようとしても、波に阻まれ、もがくように泳いでいるうちに潮に押し流されて、全然違う景色を目にする日もある。
穏やかにただぷかぷかと浮いていられる日もあれば、同じように浮いているつもりでも、息も絶え絶え溺れてしまう日もある。

結局のところは、波に潮に身を任せ、ただ大きく息を吸って吐くことだけ懸命にし、海を感じ続けるほかないのかもしれません。


この春に降った雪は、混ざり響きかき消しあう今日の混沌の音を、少しの間吸い取ってくれていたようでした。
分厚い雲に一時ぎゅっとまとめてしまって、良いから今日は眠れるだけ眠っていなさいと言われているような、そんな雪だった気がします。


私をかくまう春。植物の歓迎を受ける春。

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