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『アキゾラのメモリーズ ─特異点の奇跡─』 ネタバレなし・総括感想
☆シナリオ(32/50)
☆キャラ(30/40)
☆その他(7/10)
☆総括(69/100)
プレイ時間は約5時間。GALEX SOFT様の今までの魅力が詰まった集大成的な作品。短い尺の中で収めようとする努力は明らかに前作と比べてなされている。前作以上にかなり読みやすい。本作独自のキーワードに対する解説等も比較的、丁寧な印象。一部キャラクターに負荷が掛かっていたり、どうしても後半に展開が押し寄せてくるという点は流石に前作から引き継いでしまった弱点。しかし、総じて明確に進化した作品で、SFとしてもキャラ萌えモノとしても及第点である強力な作品であると言えよう。
〈この先、『アキゾラのメモリーズ ─運命の地平線─』も含めてネタバレはしておりません。どなたでも安心して、閲覧できます〉
『アキゾラのメモリーズ ─運命の地平線─』ネタバレあり・総括感想
☆作品紹介
2023年8月に発売したGALEX SOFT様の『アキゾラのメモリーズ ─運命の地平線─』。その正当続編がついにリリース。私は本作を発売日に購入しました。私は過去の主要なGALEX SOFT様作品を一通りクリアしています。その上で、GALEX SOFT様の得意不得意も把握しているつもりです。弱みは、システム面と尺の問題。システムは基礎的な部分含めて挙動が重かったり、ボイスに一部不備が出ていたりしました。また、尺の問題。同人作品は尺と予算との戦いです。苦労が手に取るように分かりました。一方の強み。これは魅力的なキャラクターと世界観構成です。いずれにも長けていると認識しております。
今までのGALEX SOFT様作品はそれら強みが弱みでかき消されており、個性が埋没してしまっている印象を強く受けます。本作は続編もの。尺の問題はある程度何とか対応できるはず。そう願いながら、真剣に感想をネタバレなしで述べていきます。
☆シナリオ(32/50)
前作からの正統進化。ファンサービスが行き届いたシナリオが光る。
〇前作からの進化が著しい
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まず私が驚いたのは、前作『─運命の地平線─』と比べて、シナリオは勿論、演出、キャラクター、雰囲気、全てまとまっていた点です。特に私は前作の感想で、謎の専門用語が突発的に出現し、世界観を飲み込み難いという点をかなり指摘しました。しかし、本作は専門用語や世界観を分かりやすく説明する画像やキャラクター(主に佳純先生)の挿入がスムーズで、前作と比べて、明らかに「ユーザーに分かってもらうための努力」がなされていました。例えば、本作はSFということもあり、「αバース、βバース、フログバン、ヴァールハイト」等のSFの、しかも独自の用語がいくつも出てきます。しかし、一通り、理解できましたよ。その点、ライターさんが前作の弱点を補強しようという意思を強く感じて、感銘を受けました。
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同時に、本作のテーマについて、「運命のやり直し」だと私は捉えています。作中で佳純先生が言った言葉です。津奈木羽椛と八代新太(主人公)のトレードオフな関係から始まり、最終的には羽椛という存在をどうしたものか。そこで葛藤が生じたのです。この構造を後述する、前作群の要素によって補強できた時点で勝ちです。正直に言って、前作『─運命の地平線─』は印象としては、世界観構築に失敗し、シナリオライターさんが言いたいことがユーザーにほぼ届いていないという現象が発生していました。これは情報を出すタイミングがあまりにも後半に寄り過ぎており、全部を咀嚼出来る頃には物語が終わっているという致命的な構造があったからです。ですが、本作は出だしから物語の根幹に触れるキーワードが飛び交います。そして、理解させる努力もなされています。
上記2点という「進化」がなおさら、読者の感動を呼ぶのだと推測しています。
〇GALEX SOFT様の集大成、読後感は最高
結論から言うと、本作をプレイする前に、過去のGALEX SOFT様の作品である『ハルイロのセツナ -Complete Edition-』と『ハルイロのセツナ2』、そして、前作である『アキゾラのメモリーズ ─運命の地平線─』はプレイしておきましょう。ハードルは正直、かなり高いです。しかし、相応の感動が味わえることは保証します。詳細はネタバレに触れるので述べることが出来ないのですが、本作は確実に『ハルイロのセツナ』シリーズを意識し、超えようという意思の下、制作された作品であると見ています。
無論、これは前作群をプレイしていないと、感動を十分に享受できないという、はっきり言って、致命的な箇所でもあります。これは仕方がない点なのですが、予告もなく、『ハルイロのセツナ』シリーズを事前にプレイしている方がどれほどいらっしゃるでしょうか。私は幸い、全てプレイした状態で本作のプレイに臨むことが出来ましたが、流石にこの構造は、プレイヤーに求め過ぎているとも感じます。何せ、ユーザー視点、当たり外れがどうしても激しい同人作品を最低3作品のプレイが推奨されているのです。これは流石に無茶です。ゆえに、私はそれを加味して、本来、得た感動よりもシナリオ点数を下げています。GALEX SOFT様にはそれくらいユーザー視点、無茶な事をしているのだということを知っていただきたいです。もっとも、上記三作品をプレイした後の感動もひとしおです。一応、『ハルイロのセツナ -Complete Edition-』、『ハルイロのセツナ2』、『アキゾラのメモリーズ ─運命の地平線─』をプレイしてでも望む価値があるとお示ししておきたいと思います。
〇尺は不足しているが、密度は濃い
問題の、物語の中身ですが、これは前作と同じ轍を踏んでしまっています。つまり、「起承転結」の「結」に集約し過ぎている。さらにはっきり言えば、スロースタート型なのです。これは決して悪い事ではありません。事実、前述した通り、本作は専門用語の解説が定期的になされており、比較的ユーザーフレンドリーに作られています。そこは良い点です。一方、流石に尺はテーマ性に対して不足していると言わざるを得ません。無論、これは仕方がない点です。同人作品を制作している上で、常に予算との戦いが生じる。その上で折り合いをつけるのは難しい。そう思います。しかし、それにしてもR18シーンが後半に畳み掛けるように開放されたり、後半にとある条件が生まれたりして、頭がオーバーヒート。分かりやすく言えば、「理解できない」状況にユーザーは陥ります。ここが前作から続く、本作、さらに言えばGALEX SOFT様の弱い点です。「承」、「転」にも力を入れて、設定の開示や物語の緩急を強力に行う等の工夫を求めます。
〇小難しさが邪魔をしている
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本作はSF作品です。ゆえに多少の難しさは許容します。しかし、本作の本質は前述した通り、「運命のやり直し」だと私は考えており、極論、そこに至るまでの脚色要素がSF要素なのだと見ています。しかし、本作はいくらシナリオ上、専門用語の解説が比較的しっかりしていることを考慮しても、SF要素がごちゃ混ぜ。結果的に前作の私の感想で述べた通り有名商業作品の良いところ取りをしようという意思を強く感じてしまいました。無論、制作陣にそのような意図があるかは分かりません。ただ、ユーザー視点、そのように感じてしまうのは間違いないでしょうね。
さらにシンプルで良いのです。本作のテーマは崇高な試みであると言えます。そこに自信を持ち、展開をさらに単純化した方が良いのでは?と考える点が多々ありました。ネタバレなしではこの程度にとどめておきますが、本作でも冗長さはかなり感じた、尺の関係もあり、「本当に大丈夫かな?」という不安が結局、最後の最後まで拭い去れなかったことだけはお伝えしておきます。そういう意味では、選択肢を簡素化しつつ、選択肢に意味を持たせていたのはかなり好印象です。分岐がやや面倒で、多少周回しましたが、スキップが快適なのと合わせて、悪くない仕上がりだったかなと思います。
〇R18シーン
R18シーンですが、良かったです。どのキャラクターにR18シーンが存在するのかをお伝えすると、特大のネタバレになるので言えません。しかし、一応、実用性もあったようにお見受けします。
私は前作『─運命の地平線─』をSteam版で購入したこともあり、残念ながら(?)前作で、R18シーンを拝読していません。しかし、前作から思い入れがあるキャラクター達が乱れるシーンはなかなか来るものがあり、純粋に良かったです。
☆キャラ(30/40)
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キャラクター部門は前作から伸び悩んでいます。一応、1点追加し、30点の大台に乗せたことで体裁は保ったつもりです。本作はキャラクターの点で弱い点、強い点を抱えています。
まずは、弱い点。第1に、前作同様にネームドキャラクターが作品規模に対し、少ない点。第2に、過去のGALEX SOFT様作品に依拠し過ぎている点です。
第1の点ですが、作品の規模に対し、いくら何でもネームドキャラクターが少な過ぎます。立ち絵あり6キャラ+主人公+α。今回は+αの部分が極めて重要(ネタバレになるので伏せますが)なのですが、それを考慮しても物語規模、つまり風呂敷を広げ過ぎて、いくら何でも各キャラに役割を持たせ過ぎているように感じられます。特に佳純先生が顕著ですね。おかげで、佳純先生の没個性化は免れました。しかし、明らかに佳純、というか専門知識と実力を持ったキャラクターに負荷が掛かり過ぎている。便利屋キャラにし過ぎている。そう思います。というか、ネタバレになるので避けますが、佳純の出番が多過ぎて、他のキャラクター、特に明里の出番をほとんど食っていませんか?気になる点でした。また、修一も前作で個性付けがはっきりしていた割には、本作では半分ネタキャラになっており、前作の掘り下げは何だったのか?と思ってしまいました。
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第2に、過去のGALEX SOFT様作品に頼り過ぎている点です。これが事前に過去のGALEX SOFT様作品のプレイが強く推奨されているのであれば、ここまでは言いません。しかし、何もプレイが推奨されていない状態で、ここまで重要なキャラクターを持ってくるのはいかがなものかと思ってしまいました。もっとも、前述した通り、この点は一種のファンサービス。看過されても良い問題かと思います。ですが、そうすると(=過去作キャラクターに思い入れがない状態で本作をプレイすると)、今度は登場キャラクターの中で詳しく知っているキャラクターが少な過ぎるという現象が発生してしまっています。これは流石に問題だと感じます。
そして、強い点。これは、ギミックですね。これは本作の根幹に関わる事柄です。ゆえにこの感想ではお伝え出来ません。しかし、『ハルイロのセツナ』シリーズのプレイ者はかなり満足出来るのではないでしょうか?
また、本作は千早が良いキャラクターをしていました。前作から引き続き、良いポジションにいると思いますよ。博多弁(関西弁にあらず!)、幼馴染、元気ハツラツ、思慮深い、しかし、年相応の感性を持つということで適度なキャラ付けも丁寧でかなり好感を持ちました。千早というヒロインがいたから私は本作を完走出来ました。
一先ず、キャラクターについてはこんなところですね。正直、弱い点はかなり気になる点でした。しかし、羽椛と千早、そして何より新太という主人公にはかなり好感が持てました。同人作品でこのレベルのキャラクターの出来は30点台に相応しいと思います。総合的に見て、納得のいく強力なキャラクター達のおかげで物語を余すところなく楽しめました。
☆その他(7/10)
サウンド、システム、世界観、雰囲気ですが、これもまた前作から大幅にパワーアップしています。
サウンドはボーカル曲含めて非常に、作品の値段、規模の割にかなり充実しています。私が前作と比較して、明確に強くなっていると感じたのはこのサウンド面です。しかも、曲自体が雰囲気とマッチして、大変印象深い作品になっています。批評空間上でネタバレなしで把握できる範囲ではOP、『超弦理論のホログラム』そして挿入歌、『超弦理論のシックザイル-Re:define-』がまた憎い!前作のOPのアレンジをここで持ってきたか!?という場面で流れるので、大分満足感に浸る事が出来ました。勿論、これ以外にもボーカル曲はありますので、それ以外の曲はご自分の目で確認していただきたいです。一方、サウンド面はBGMが相変らず印象に残らないという側面があります。設定をいじり、BGMもそれなりに鑑賞していたのですが、個人的にはこれは!というサウンドには結局、巡り合うことが出来ませんでした。
続いて、システム。私は一点、前作の感想で謝罪しなければならないことがあります。前回のシステム面で「Qセーブ、Qロードがない」と書きましたが、よく確認してみたら、存在しました。これは完全に私の落ち度です。申し訳ありませんでした。現在は、感想の該当部分を削除して対応しています。
閑話休題、本作のシステム面は、はっきり言って、いつものGALEX SOFT様だな、というのが第一印象です。バックログも相変わらず重い。のみならず、これは相変わらず私の環境だけかもしれませんが、例によってかなり挙動が重いです。一方、セーブスロットは60と普通にプレイする分には相変わらず問題ない。前作の良い点を引き継いでいます。システムについては概ねいつものGALEX SOFT様です。動作確認はプレイ前にしっかりした方が良いかもしれません。
最後に、世界観、雰囲気です。これは前作と同様、かなり良いと言えます。前作の感想でも触れましたが、青春独自の葛藤をSF要素で脚色し、独自の世界観にアレンジすることに成功している作品です。もっとも、流石に有名作品との類似点はありますがね。本作をプレイしている方々は、そこに触れているプレイヤーがほとんどだと思うのです。ゆえに、既視感はどうしても感じるでしょう。そこを乗り越える力ほどの個性が本作にあったかと言うと、正直、私は難しいと思っています。ただ、閉鎖的な雰囲気づくりは流石の一言ですし、良い面も勿論あります。既視感があるから、ダメと言うわけでは決してないことをここで補足しておきます。
総合的に見て、システム、世界観、雰囲気は凡作程度。場合によってはそれ以下。しかし、サウンド面では大きな進化を遂げています。よって、その他は7点です。
☆総括(69/100)
総合的には佳作(C)認定です。本作をプレイして、正直私は大変驚きました。約1年でこれほどの出来の作品にブラッシュアップしたのか…凄い、と。ただただ感嘆の念ばかりです。今までのGALEX SOFT様作品を追ってきて良かった。そう思った瞬間でした。
ただし、本作は弱点もある程度抱えている作品です。個人的には、宣伝方法には改善の余地が多分にあると思います。本作は、明確に『ハルイロのセツナ』シリーズのプレイが推奨されています。ゆえに、せめて、何らかの形で『ハルイロのセツナ』の知名度を上げて欲しかった。そう思います。もっとも、相当難しい課題ではあるとも考えていますので、GALEX SOFT様に敬意を払いこそすれど、瑕疵があったとは考えていません。それくらいの感動を、私は味わうことが出来ました。作品間の連携も同人作品の貴重な強みです。それを躊躇なく、どんどん使用していただけたのは長所としか言えません。
70点台に入っていないのは、上記弱点群と、起承転結の「結」が性急過ぎた点にあります。それを克服できれば、良作ラインも見えてくる。GALEX SOFT様にはそれが出来る。そう考えています。
今回、このような素晴らしい作品を世に出して下さったGALEX SOFT様には心からの敬意を。そして、ここまでネタバレなし感想にお付き合いいただいた読者の皆様にもお礼申し上げます。ありがとうございました。