時限爆弾と遺書
⠀冒頭のふたつの単語を並べて、きみはぼくに真顔で訊ねた。
どちらがすきかい?
ぼくはなぜきみがそれを並列させたのか全く見当がつかなかったが「どうやらこの質問は真顔で答えなければいけないらしい」ということだけは悟り、「少し時間がほしい」とだけ答えた。その後、なんとか二つの結論を捻り出した。ひとつは時限爆弾が答えになる場合。ぼくは線香の火が進んでいくものか時間がカウントダウンされていくものか考え、線香が装置に対して進んでいく様子を頭に思い浮かべた。数字としての実感よりも経路で見えたほうがロマンチックだ。そう、ぼくの妄想の中にはそこに女の子がいた。ぼくがそこで回線を切るからきみは離れてて。まだ生きるんだ。とかいう、逃げられるくらいならとっくに助かってるだろうという現実的なツッコミをいれながら思い描いていた。それでもどちらにせよ、死ぬまでの時間一緒にいられるし、やろうと思えば一緒に死んでしまうこともできる、遺書に比べれば。
対して遺書。遺書を書いてこの世を去る。そうすればきみが死ぬほど悲しむ姿を知らずに次の世界へ進めるから。こちらの方が良いかもしれない。うん、ぼくは遺書を書いてからがいい。自己中と思われてもいい、きっと死ぬときくらい人はみな自己中でいて良いのだと思う。そこでふと思い出し、きみは、どうだろうと考えた。次の世界に進むのがこわい?
きみは答えた。「こわいよ。」よかった。こわいと思っているきみがするこの質問には、ぼくが答える意味がある、少なくともきみに影響を与えられる、そうぼくは思った。ぼくは遺書、と答えてともすると自己欺瞞のような論理をここでぶち明けた。きみがどういう反応をするか、知りたかった。答えようとした瞬間、きみがいう。「わたし、しぬのは怖くない。こわいのは生きているあなたの考えが死後には成立しないこと。しんでしまったら、もうそこでわからないの。考えだけが、魂みたいに宙に浮いてしまうんだよ。」そう言い残してぼくの答えも聞きもせず、行ってしまった。
⠀ぼくは彼女の言わんとしたことが分かりそうで分からなかった。何を聞きたかったのか何を伝えたかったのか、何もわからなかった。ただ全てが分かったような顔をする彼女に少し苛立ち、そして遠い存在に感じたのはぼくのなかではっきりとした感情をのせて覚えている。
どうも〜