#19 面倒くさい先
今週木曜日に台湾原住民音楽についてレクチャーをするので、その準備をしていたら一日があっという間。今までも同じような感じでレクチャーをしたことはあったんだけど、最初は藤沢の居酒屋さんの常連さんたちを相手に、次は青山学院大学の学生さんたちを相手に、今回はテンプル大学日本校の学生さんたちを相手に。お話をいただいて「わーい!」って安請け合いしてしまったけど、日本校とはいえテンプル大学って Temple University ですよね、アメリカの大学だからレクチャーって英語なんですよね? から始まって、しかも夏学期だから講義の時間が長いんだったというのも全く盲点で、気付けば、3時間の講義を英語で準備しなくてはいけないということになっていた。わお。
わお、私こんなこと安請け合いしたんだ、すごいな、と思いつつ、しかし自分の人生でこういう感じのことがちょくちょくある気もする。わりと知ってる感覚。なんかいいねくらいの軽い気持ちで結構なことをふんわり引き受けて、まあまた今回も大層なこと引き受けてきたな、ともう一人の自分が上の方から眺めて、でも最終的には引き受けたふわふわな自分だけでなく、上から眺めてる自分も駆り出してこないと仕事が絶対終わらないので、全然タイプの違う二人が私の中で二人三脚、えっちらおっちら、ようやく走り慣れてきた頃に、あれ、もうゴール、とりあえず着いちゃった・・・みたいな感覚。私の人生における成長(あったと思いたい)ってほとんどの方面でそういうふうに促されたものがチラホラある。いいのか悪いのかわからないけど、まあよかったということにしておこうか。
しかし3時間の講義。自分が学生だったら絶対避けたいやつだな、って思ったけど、そういえばこういう授業は時間が長いからその分もらえる単位も多いっていうシステムで、それにつられてとったことあったな。こういう授業。どういう人が来ているのかしら。単位ほしい人かしら。まじめな人かしら。昔の私みたいな人もいるのかな。休憩挟んで後半1時間ちょっとはワークショップの時間にしたい、と先方からお話があり、そりゃ3時間も人の話聞いたって飽きるわな、とちょっと気楽になったけど、でもそれでもそれなりに準備しないとなあ、、、とプレゼン用資料を作っていたら。
めっちゃ楽しい!!! もはや3時間では足りないかも!!!
なにしろ毎週こんなnoteを書いているくらいだ。わざわざ毎週何時間かの時間をとって原住民だなんだって日本語でひたすら書き続けているのは、台湾の原住民たちについて全然原住民たち自身の言葉が届いてない! 外の人たちの声ばかりうるさい! 本人たちが話すのをきけ! という気持ちが私の中に少なからずあるからなわけで、そんな私の話したいことなんて、そりゃ3時間なんかじゃ全然足りないのは当たり前だ。
本当にその声が届けられなくてはならない人は往々にして声も出せない状態にある。学校教育を受ける機会がなく、読み書きがままならず、読み書きくらいは社会常識とされている世の中で、読み書きというシステムの隙間にすら組み込むことのできない自分の声・言葉に自信を失って、息を殺すように生きている人たち。そういう人たちを本当にたくさん知っている。あからさまな差別。それを必死に潜り抜けると、差別の顔を隠した差別。それに気が付いてショックを受けているところに inclusion の顔をした assimilation(「でもみんな同じだから大丈夫だよ」)。それを見分けられるようになって、用心深く自分を守りながら生きていても、あらゆるところから溢れんばかりのマイクロアグレッション。まだまだ私も自分の受けてきた傷の手当てをしながらだけど、まずは、それでも、せっかく少しずつ自分の声を出せる準備ができてきたんだから、自分の声で、自分の言葉で話す練習をしてみよう、と思って、せっせとこのnoteも書いている。みなさん私の練習に付き合ってくださりありがとうございます。こうやって練習していたら、なんと3時間も「ご自分の言葉でどうぞ!」と練習の成果を発表できる場が降ってきたというのに、なんとここで浮かび上がってきてなかなか消えてくれないのは「準備が面倒くさすぎる」という気持ちなのであった。困ったもんだ!
でも面倒くさいを通り過ぎたらめっちゃ楽しい。この法則もよーく知ってたはずなのにね。授業で紹介しようと思って Youtube を渡り歩いて、100年前から今まで、いろんな台湾原住民の音楽・ダンス・映像・ニュースなどなど集めているけど、とにかく原住民たちの歌を聴いたり、ダンスを眺めたり、みんなが喋ってるの聞いているだけで、心の中でぎゅっとかたくなっていたものたちがほろほろとほぐれてはじめて、吹いてきた風にのって、私の心も手を広げて、歌い踊り出している。空が広くなった気がする。noteでも今度紹介してみようかな。そうチラリと思った瞬間に、あ、でも私より台湾原住民音楽に詳しくてもっと上手に紹介できる専門家の人がいるしな、と思ってしまう私がいる。でもいいんだよ、私は私で好きで大事なものがあるんだからね。
この間見に行った演劇とそこに出演していた台湾の友人たち(野戦之月のこと)についても書いてみたかったけど、時間切れ。そろそろ支度して、今日はこれから埼玉県越谷市のごりごりハウスという私の好きな人たちのやっているお店で歌ってきます。うちから遠い! でも好きな人たちがやってるお店だからね。若い頃ロックだったりパンクだったりするライブハウスなんて一度も行ったことなかったのに、今こんなに行ってそこで歌ってるなんて人生は不思議。次回来週はドイツ・オッフェンバッハでこのnoteを書いているはず。どうなってるんだろう! それでは行ってきまーす。