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彼はその手に何を掴んだのだろう
昨日の電車内でのことを思い出した。
目の前の座席がひとつ空いたので座ろうと思ったら、制服にランドセル、黄色い帽子の小学1年生くらいの男の子が、さっと私の前に入ってきて、座席と私の間に立って、じっと私の顔を見上げた。電車が動き出すと彼が座席に座ることを決めたので、私は移動してドアの前に立って車窓を眺めていた。
しばらくすると、私のロングコートが重たくなった。
目線を下げると、先ほどの男の子がいつの間にか私の横に立って、私のコートを掴んでいた。私に向かって話しかけるわけでもなく、窓に向かって何やらつぶやいている。
そのままひと駅が過ぎて、ふた駅目でドアが開いた瞬間に、掴んでいた手を放し、勢いよくホームに駆け出して去っていった。
結局二人とも、会話をすることはなかったのだけれど。
彼はその手に何を掴んだのだろう。
そう思ったら、仕事でモヤモヤしていた気分が、いつの間にかどこかに吹き飛んでいた。
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