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決して言うのがラクだったわけじゃない

言いにくいことがある。

言いにくいことって、例えば仕事の交渉や、既に雰囲気が醸成しているグループで異論を唱えるときなど。
知人からの意見に反論するときなんかもそうだ。

黙っていれば波風が立たない。
それくらいは知っているけれど。
葛藤を腹に抱えたままいい関係を続けることができるほど、人間ができていないのかもしれない。

なぜ言いにくいのか。

伝えることによって、関係が継続されなくなるかもしれない恐怖
遠回しに伝えることで、伝わらないストレス
相手の機嫌を損ねてしまわないかのストレス
自分が嫌われるかもしれないというストレス

だからとても言いにくい。

相手との関係性とその内容によって、伝えることを諦めることもある。
でも、言うと決めたからには、丁寧に伝える方法を考える。
感情的になるのは、意図が伝わらなくなるので避けたい。
メールやメッセージだと、1時間以上考えて、1時間かけて書いて、1時間書き直して送信ボタンを押す。

やがて返信が来る。
意図が伝わり、相手の意向も受け取り、相互理解に至ることもある。
その一方で、内容がうまく伝わっていない、もしくは堂々巡りになっていることがある。

多くは、遠回しに伝えたために意図が伝わっていないか、論旨へのお互いの価値観が異なるケースだ。

もう一度チャレンジすべきか、いやもうこちらが腹をくくって飲み込むかを考えて、さきほどの3時間を繰り返すことを試みる。

今度は遠回しな表現を避け、丁寧かつはっきりと伝えることに意識を向ける。

このあたりになると、胃が痛みだす。
言いにくいことを、さらに伝えるハードルがあがるからだ。

◇◇◇

私は「なんでそんなにはっきり言うの?」と言われてしまうことがある。

でも、こればかりは何度経験しても、毎回本当に言いづらい。
そして言いづらいことを言うのは、とても苦しい。

私の「はっきり」の裏には、苦しみがある。
決してラクに言葉にしたわけではないのだ。

だからこそ、相手の苦しみにも目を向けないといけない。
こういうのはお互いに、だから。

仕事でも友人関係でも、大事なことを安心して伝え合える関係が築けると嬉しい。

ひょっとしたら、お互いのいいところを理解し合えているより、お互いの苦しみや痛みを理解し合えるほうが、いい関係になるのかもしれない。

相手のいいところは目に見えやすいし、感じとりやすい。
でも、相手の苦しみや痛みは目に見えにくく、感じるとるにはひと手間がかかるからだ。

ひと手間をかけるのは、決してラクではないのだけれど、お互いに真剣に生きているからこその苦しみもわかちあえたら。


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汐見英里子
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