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旅立ちの杯


早くも冬休みに突入した。
フランスの学校教育では6週間おきに休暇、
いわゆるバカンスがあるが
2月の冬休みと4月の春休み(イースターバカンス)は
3つに区切られた地域によって
一週間ずつ期間がずれる。
スキー場や高速道路が混み合わないようにという
配慮からだとか。

今年は私たちの地域がトップバッターで
冬休みを迎えることになっていて
前回のクリスマス休暇から
たったのひと月ほどでバカンスになってしまった。

とはいえ1月末から
教える仕事をしながら
教育コンサート8公演をこなしたので
休めるのは助かる。


楽しかった教育コンサート

その合間に
大先輩である同僚の送別会もあった。
ヴァイオリンの先生であるミシェルは
40年近く
私の勤める音楽学校で指導をしていた。
彼はマルセイユオペラ座交響楽団の
ヴァイオリニストでもある。
この2月頭で定年退職となった。
フランスの送別会は
Pot de départ 旅立ちの盃
(直訳すれば別れの瓶だけど勝手に意訳)と呼ばれ
送る方ではなく
旅立つ方が仕事仲間を招待して自腹で行う。

若い頃はさぞハンサムだったろうと思われる
ダンディーで優しいミシェルは
皆から慕われてきた。
毎週水曜日は
一緒にランチを取ってきた仲でもある。

だから送別会には同僚、元同僚、
その家族たちと、たくさんの人々が集まった。

数週間前からこの会のために
ミシェルには内緒で
Whatsapp (ラインのような)グループが作られて
彼の新たな人生を祝うために
色々と企画されてきた。

当日、音楽学校に大勢が集まり
飲んだり食べたりして午後を過ごした。
よく晴れた2月最初の日曜日で、
若い同僚の去年生まれた赤ちゃんから
随分前に引退した年配の先生たちと
幅ひろい年齢が混じり合って
あちこちで話をしていた。
思い出話に花を咲かせる先輩たちを見ながら
私と同年代、中年街道真っ只中の同僚が
ニヤニヤとささやいた。
私たちもああなるかな?
皺ひとつ増えてないはずよ!と
切り返しながら
気の合う仲間たちと
一緒に思い出をたくさん作れる幸せを噛み締めた。
私にとっては7年目の、今までの人生で
一番好きな職場である。

みんなの寄せ書きやプレゼントを受け取った
ミシェルのスピーチはユーモアに溢れながらも
心がこもっていて
Je vous aime très fort !
あなたたちを強く愛しています!と
いう言葉で締めくられた。

それは、ちょっと嘘みたいな
なんてこったというくらい温かい良い会だった。

いつか車に乗せてもらったことがある。
その時に、いつも冗談ばかり言っているミシェルが
珍しく真面目な話をして
自分は若い時から
競争が苦手だったと言っていたことを思い出した。
その優しい誠実な人柄がこの午後を作ったのだと思った。

長年の勤めを果たした大先輩よ、
おつかれさまでした!





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