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若い君たちに

数日前、ある若者からメッセージが届いた。
日本に留学したいので、日本語で書いた志願動機書を添削してほしいという。

彼は小さい頃から
夫にピアノを習っていた。
北フランスに引っ越した後も
10年続いた夏期講習会に
毎年のように参加していたので
私もよく知っている。


メガネをかけて本ばかり読んでいた
のび太くんのような少年が大学生になり
エンジニアの資格を取りながら
語学に目覚め、何ヶ国語も操るようになっていた。

数年前から
大学で日本語を勉強している、と
嬉しそうに連絡をくれるようになった。
昨年は3ヶ月、単身で日本で過ごしたというのだから
すごい。
子供の頃、サマースクールで
エリコとユメ(娘)が日本語で喋っているのを聞くのが
大好きだった、なんて可愛いことを言ってくれる。
志望動機書には将来は
外国で教師になりたい、とあった。

夏の終わりには別の青年がうちに来た。
彼もまた夫の生徒で、高校3年の時に
日本語を教えてほしいと私に会いに来たのだった。
彼の友達の女の子と、私の生徒であった中学生、
そして小さかった娘や夫も交えて
半年ほど楽しくグループレッスンをした。
その彼が
やはり日本にもうすぐ留学希望を出したと
挨拶にきてくれたのだった。



就職難の始まった90年代、
音大生活の終わりに将来が決まらずに
ウロウロとして、
小さな頃から漠然と憧れていたフランスに
留学を決めた自分を懐かしく思い出す。

外国に行くと聞いて心配してくれてのことだろう、
厳しいことをいう大人はたくさんいたが
私はちっとも怖くなかった。
留学すれば
項垂れるように自信をなくすことばかりだったが
ああ生きているなあと息を呑むように感動することが
何度もあった。
2年で帰る筈だった留学期間から
気づいたら人生の半分以上を外国で過ごしてしまった。

だから知っている若者たちが
羽ばたいていくのを見ていると
応援したい気持ちでいっぱいになる。
インターネットも翻訳アプリもある現代で
当時の私よりも
よっぽどしっかりしている様子の彼らだから
きっと全然大丈夫だろう。


さて、頑張る彼らに
先日亡くなられた谷川俊太郎氏の詩を送りたい。
随分前だが、パリで朗読コンサートを聴いた。
息子さんの賢作さんが詩に合わせて
ピアノを弾いて、とても素敵だった。

あの日に聞いた俊太郎さんの声には
びっくりするような張りがあり
顔はピカピカしていて
目に光があった。

言葉は人の心を動かす。良くも悪くも。
でも最後に決めるのはいつも自分の心だ。

生きる
谷川俊太郎

生きているということ
いま生きているということ
それはのどがかわくということ
木もれ陽がまぶしいということ
ふっと或るメロディを思い出すということ
くしゃみすること
あなたと手をつなぐこと

生きているということ
いま生きているということ
それはミニスカート
それはプラネタリウム
それはヨハン・シュトラウス
それはピカソ
それはアルプス
すべての美しいものに出会うということ
そして
かくされた悪を注意深くこばむこと

生きているということ
いま生きているということ
泣けるということ
笑えるということ
怒れるということ
自由ということ

生きているということ
いま生きているということ
いま遠くで犬が吠えるということ
いま地球が廻っているということ
いまどこかで産声があがるということ
いまどこかで兵士が傷つくということ
いまぶらんこがゆれているということ
いまいまが過ぎてゆくこと

生きているということ
いま生きているということ
鳥ははばたくということ
海はとどろくということ
かたつむりははうということ
人は愛するということ
あなたの手のぬくみ
いのちということ








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