numéro 30
そして帰る日。
山を降りながら
別の人生を想像した。
スキーで学校に行く子供時代
厳しい山の中で過ごす思春期
曲がりくねった山道で覚える運転
きっとぜんぜん違う誰かになっていただろう。
私は海に囲まれた九州の病院で生まれて
埼玉の江戸川沿いに育った。
セーヌ川の見えるパリで青春を送り
南仏のベール湖の近くに住んでいる。
娘は港町マルセイユで産まれた。
いつも水の近くに暮らしてきたので
山という存在は
とてもミステリアスに感じる。
何か自分に足りない忍耐力や力強さに憧れる。
山を降りるにつれて、
雪が消えていった。
平らな我が家の近くに帰ってきても
空に浮かぶ雲が山の頂上に見えて
もう懐かしい。