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新たな道への一歩

キャシーさんは、店内で私の著書「裸でも生きる」を手に取りつつ、店内の鞄を見渡しながら語り始めた。

「実は昔、私も国連や国際協力の現場で翻訳をする作業を多く依頼されてきました。なので、そういった意味では、途上国の現場はよく知っています。援助やボランティアの限界を、私はこれまでも痛感していたのです。

非常に、緊張や不安を感じる時もありました。しかし、何がベストなのか、分からなかったんですね。でも、あなたがやっていることは、そこの部分に、一つの解答を出していますよ。おそらく最初は、正しいかどうかも分からなかったと思いますが、実際に今も、そうしたこと(バングラデシュで生産していることなど)を何も知らないお客様が、たくさんお買い物をされています。私も、商品が「素敵だ」と素直に感じたこのレベルまで、何もないところから作り上げたことは、はっきり言って偉業です。」


私は、キャシーさんがまさか国際協力の場でお仕事されていたなんて知らなかったし、途上国という現場に足を踏み入れたことがない人にはなかなか通じない、援助と自立の「もどかしさ」をまさかキャシーさんと共有できるなんて思ってもいなかった。更に、私なりの解答に一定の賛同をしてくれたこと、全てが静かな語りに詰まっていて、涙が出そうになった。

そして、私が涙を堪えていると、信じられない言葉が耳に入ってきた。


「今、少し作業が立て込んでいるのですが、納品を1年後としていただければ、翻訳をやりましょう。本を全部読ませていただいてから、正式にお返事をします。」

「ええ!!!!!!」


正直納期なんてどうでもよかった。だって出版も決まっていないんだもん。笑

私は一気に頭をフル回転させた。

実は、この時このプロジェクトを社内のスタッフ、誰にも話していなかったのだ。更に言うと、自費でその翻訳費を支払うつもりでいた。流石にいつも応援してくれるスタッフだが、出版社も決まっていないのに翻訳するなんて、あまりにも無計画なことだと思っているし。

だから本店のスタッフも、私がキャシーさんを連れて何やら話し込んでいるのを不思議に思っていたと思う。

ああ、すごいぞ、すごいぞ。

すごいことになったぞ・・・・。

興奮がさめやらず、そして現実になるのかどうかもまだ何となく確信がなかった。


その日の夜にお礼のメールを送った。

すると、すぐに返事がきた。

本を途中まで読んでくれたらしい。

「私はこの本が大好きです。あなたのビジネスコンセプトにとても感動し、インスピレーションを受けました。金銭的な利益のみに基づいた競争や成功ではなく、他者に力を与え、他者への配慮に基づいてビジネスで成功する人々を見るのは、とても新鮮で希望を与えてくれます。この本を翻訳するのがとても楽しみです。」

 

なりふり構わず動き出した一歩が、でこぼこだけど、道を作り始める感覚があった。


しかし、私はこの後、予想外の壁に直面するのだった。


続く。

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