服の変わり目。
E.(イードット)のお洋服を愛してくれているみなさこんにちは。
初めて聞く名前だなあとお感じの方もいらっしゃるかと思いますが、マザーハウスのアパレルブランドE.(イードット)というブランドが誕生してもう早4年が経とうとしています。
インドのカディという天然素材に魅了されて、コルカタに自社工場をつくったのが2018年。38人のテイラーのみんなが自国の素材と自分たちの技術を使って、服をつくってくれています。それらを届けるお店も徐々に増えていきました。
本当にお洋服って鞄と違いますよね。
今更ながら私は痛感しております。
例えば、いわゆる「シーズン」というもの。
バッグは一年中同じものを使う人も多いのに対して、その季節に合うものを、その時の感性で刻んでいるような感覚があります。
選び方についても、バッグは「A4が入る」ことや「軽さ」っていう事実がとっても大事なのに対して、お洋服は「組み合わせ」によるスタイリングや、その人の中での「らしさ」とマッチするか、また挑戦したいって思える高揚感を生むことができるか、といった事柄が非常に大事です。長年バッグのデザインをしてきた私は、近いようで遠い「お洋服」の分野に毎日学びを感じます。
私だけではなくチームもそうです。「ああだ、こうだ、これやってみよ、やっぱりこれだ」、という感じで、小さなお洋服のチームのみんなも、山ほどのPDCAを回して、挑戦を続けてきてくれました。
結果、だんだん見えてきた新しい景色があります。
「今まで自分では選ばなかったけれど、着てみたら、私にとっても似合うかも!」と言って、目をキラキラさせて試着室で喜ぶ方。
「この色は持っていないけれど、挑戦したいから買うわ」と仰って、クローゼットに鮮やかなオレンジを選んでいただいた方。
「このパンツに、このトップスを合わせてみたら、なんか新しいスタイリングができたの」と服を着てお店に来てくださる方。
「どれもこれも迷っちゃう!」と言いながら、何着も試着し、本当に楽しくスタッフと笑い合う時間をつくって下さった方。
どの風景を思い出しても、私が思うのは「ファッションの力」です。
難しいことはなくって、心を動かすことができるもの。
頬の色や、目の輝きさえも、瞬時に変えてしまう力を持つファッション。そうした「心にとっても近いモノづくりやお仕事」に携わっている幸せは、なかなか言葉では表せないものがあります。
そしてもう一つ。
私はそういうエピソードを聞いたり、お洋服の試着の風景を見ていると、決まって頭に浮かぶ思い出が一つあるんです。
まだ幼稚園から小学生低学年の頃。私は、一日に5回、着替えをしていたんです。当時私は、自分の「気分」に合わせて着たいものが明確にあったんです。
「絶対に、今日はドットのスカートなんだ!」
「今日は全身ピンクで固めるんだ!」
そして、昼になると「今からパンツに変えよう」と気が変わって、またタンスから服を選ぶのがとても大好きでした。夕方くらいになると再び髪型も変えて、衣装替えが始まります。お小遣いがもらえるようになったら、近くのショッピングセンターに行って、「婦人服売り場」をウロウロしていました笑。そんな風に、ものすごく頑固に着るものを決めていたんです。
気持ちと一緒に服を変える。
心のミラーが、服でした。
そして今40歳になって、私は自分で描いた服に袖を通しています。(本当に心のミラーの服が実現しているんだなあ)って時々しみじみと思うんです。
ただ、一つ正直に告白すると、イードットを立ち上げてからの4年間、私は、自分自身をつくる服に投影することよりも、ずっとずっと、大事にしてきたものがあります。
それは、「インド」という国の可能性と、お客さまのニーズです。
自社工房を立ち上げて、出会ってきた職人たちの成長と彼らの可能性を引き出したい。そしてもう一つ、お洋服のお店に来てくれるお客様の好みの色やサイズなど、そうした声に応えるものづくりをちゃんとしたい、そういう気持ちがスタート時から、強く、強くありました。デザイナーであることへのこだわりよりも、ずっと上位に職人さんとお客さまの顔が存在し続けました。
それは自分が経営とデザインの両方をやっているからこそ、「今、大事にすべきことである」という感覚でした。「今は、“自分”という存在や世界観を打ち出すことよりも、立ち上げたインドの工房が黒字になって、雇用したみんなに安定的にオーダーが出せることが何より重要だ」と思っていました。
自分自身がコルカタに単身乗り込んで、ここでは書き切れないほどの挑戦と障壁を経て、インドに自社工房をキックオフした本人だから、そう思った部分も強くあります。
つまり、E.においてはデザイナーである前に、”創業者である自分”がいたんです。「E.のEはEriko YamaguchiのEだけど、主人公はインドのみんなとインドの素材だと思う。」度々、そうした言葉を私はスタッフに話しました。
スタッフは「山口さんらしさを」とよく声をかけてくれて、汲み取ってくれた部分もとても大きいのですが、自分自身はいざ一つ一つの細かい意思決定になると、自分らしさよりも「この刺繍はインドらしいからやってみたいな!」とか「彼の手仕事は最高だから活用したいな!」とか、そんな気持ちが常に優っていたように思います。
その結果、E.の服はみんなの個性が溢れていて、何より「優しい」コレクションになっていきました。愛情たっぷりに紡がれ、つくられてた空気を纏っていて、どれも大好きです。
さらに嬉しいことは、着ているお客さまと出会うこと。不思議にどの方も、その優しい空気感にピタリと合致していて、服が喜んでいるように思っていました。
こうして、起ち上げから4年が経ちました。
お洋服に袖を通してくださるお客さまの数は増え、職人の技術は上がり、生産体制は確立し、お店の販売員のみんなのスキル、コミュニケーションのチームの表現、私自身の開発の力も含めて、全ての要素が足並み揃えて、一つ階段を登ったように感じています。
みなさまのおかげで、今そんな風に感じることができ、私はチームのみんなと話しあって、E.において「創業者」としてのフェーズから「デザイナー」というフェーズに、自分自身が変化していきたい、いけるかもしれないって思うようになったのです。
この秋9/3(土)から、E.というブランドの中で、“自分”の個性を100%表現した新しいラインをスタートしたいと思っています。名前は、E.という略ではなく、フルネームです。長い長い迷いの末に、強い覚悟を決めて“ERIKO YAMAGUCHI”としました。
E.というブランドの中では小さな一つのラインですが、魂を込めてラックにかかる衣服を作っています。振り返ると、ちょうどバッグも起業して10年後にコンセプトシリーズをつくったので何だか不思議だなあって感じています。
自分自身の名前のラインでは、当たり前だけれど、すごく正直に、真っ直ぐ自分を表現していきたいです。誰かのために、よく見える衣服ではなく、心の底にある自分自身を形にしたようなものでありたいなって思っています。
おそらく今の自分よりも素敵に見える衣服を欲しい方はたくさんいると思うんですが、私は「まんま」の自分を掘り起こして、「ああ、これこれ、自分だった!」みたいな再発見があるような服を作りたいなって、抽象的だけど思っています。
5回着替えていた幼少期の私のように、無邪気に、着たいものを選ぶ、そんな風に着たいものを作りたい。
全ての型を自分で縫製しながら、自分で着てみてチェックして、、、、の繰り返しで夢中になって、日によっては夜中の2時、3時まで手を動かしていました。職人のみんなによって微修正と品質の検査をして、最終サンプルが上がってきたとき、緊張しながらスタッフのみんなに見てもらいました。
20名以上のスタッフに一気に着てもらったのですが、あまりにも多種多様な体型のみんなが、それぞれにハマる感じがあって、「ああ、ユニバーサルなものができたかもしれないなあ」ってすごく嬉しくなりました。そしてみんなからこんな感想の言葉をもらいました。
「しなやか」
「揺らぎ」
「強くて優しい」
「包み込む」
「境界のない感じ」
そこから、アパレルチームのみんなと最終サンプルをつくり、日本ではウェブチーム、アートディレクションのチーム、CRMのチーム、色んなみんなと関わって、写真撮影や、それに関するモデルさんのオーディションや、ロゴやウェブサイトなどを、本当にどどどーーって感じでチームのみんなとつくりあげてきました。
その度に、みんなが私自身のクリエイションを信じて、支えてくれていることに感動したんです。ブランドではなく、「小さなライン」のスタートなのに、時には、そこまでやらなくてもいいんじゃないかな?って思う領域までチームのみんなは仕上げてくれました。
丁寧に丁寧に、私自身が描く世界観を紐解いてくれ、作り手である私には見えない客観的な視点やアドバイスも山ほどくれました。その度に、これは成功させないといけない、、、って毎日私も朝から晩まで準備に没頭してきました。
冒頭で書いたみたいに、夢中でつくりはじめたときには、想像できなかった場所に、今やっと、みんなの力でたどり着けました。
できたばかりのコレクションのラインナップ、ERIKO YAMAGUCHIの世界観をどうぞご覧ください。
<ERIKO YAMAGUCHI>
2022.09.03 DEBUT
▼ERIKO YAMAGUCHI 2022AW COLLECTION
https://www.edot.jp/collection/ERIKOYAMAGUCHI/2022aw/
※~8/31まで先行ご予約受付中
▼公式インスタグラム
https://www.instagram.com/erikoyamaguchi_official/