フラッシュバックする起業当初
キャシーさんが約1年がかりで翻訳を始めて、中盤に差し掛かってきた頃、予想外の壁にぶち当たった。
ある日、キャシーさんからメールが来たのだ。
「えりこさん、こんにちは。元気ですか?今翻訳を進めています。そこで、いくつか質問があるので答えていただけますか?」
「ああ、事実確認か」と思ったので、1時間以内に返事をした。
「早速ありがとう!」とキャシーさんから返事がきた。
しかし、2日後、再びメールがきた。
今度は、ワードファイルが添付されている。
「少し追加で質問があるので、教えてもらえますか?」と。
ファイルを開けると、びっしり20問くらい設問があった。
内容はこんな感じだった。
「この時のこの状況は、こういう背景があったから、こういう考えになった、ということですか?それとも・・・。」
「彼はこの時にはこういう発言をしたけれど、このシーンになって、こういった理由は、こうで・・・?」
そして中には、
「この時の“ジロジロ見た”というのは、睨みつけるような感じなのか、何か興味本位で見たという感じですか?」というような質問も。
掘り下げながら、そのシーンがまざまざと思い浮かぶような質問ばかりだった。
私は質問に回答しながら、起業当初の出来事をゆっくりと思い出していた。
やっとの思いで、どうにか20問回答をして送信しようとした。
しかし、改めて添付されたタイトル名を見ると「Chapter1-5」と書かれていたのだ!!
「え・・・。まさか。。。これは章ごとに送られて来るのか?!」
私は一人、パソコンを前に恐怖に襲われた。
その予想は的中した。
流石に、4回目の質問状が来たときは「これが最後であってほしい・・・」と内心思っていたが、更に5回目、6回目と続いた。
淡々と質問に答えるだけならいいのだが、私の場合、当事者として書いているので2006年にタイムスリップし、信頼関係に悩まされた日だったり、幼少時代の苦い思い出も含めて、生々しい光景を思い出すことが増えて、私はなぜかこの期間、異常にエネルギーが取られていた。
しかし一方で、これらの質問から、並々ならぬプロフェッショナリズムを感じた。キャシーさんが翻訳家として、著者の気持ち、本の内容を読者に伝えるという本質に立ち向かっていることが感じられて、本当に、言葉では言えない学びがあった。
状況描写の質問が一通り終わり、私たちの翻訳作業が大詰めを迎えた頃、超難関が立ちはだかった。
それは、私がやっている仕事の本質や個性を、最も理解しやすく伝えなければならない、最終章についてだ。
続く。