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一番伝えたいこと。

最近は海外のお客様が多く、店頭では英語での接客をしてくれていて、シンガポールや台湾の店舗では、欧米のお客様にたくさんの商品を届けてくれている。
その場合、私たちの哲学を伝えるときに、「Creating world-wide brand from developing countries」という言葉を使っていた。
これもプロの方に依頼して起業当初から使用しているのだが、この言葉だけでは伝わりきれないものを肉付けしていきたいとキャシーさんが提案してくれたのだ。


「裸でも生きる」は中国語と韓国語に翻訳されている。しかし、翻訳作業の中で、哲学に何かを肉付けをする作業は今まで皆無だった。

その肉付けをするプロセスの中で、キャシーさんは工場について、さまざまなことを質問してくれた。

それは、米国の読者の方に限らず、海外生産といえば「発注をする」という業務委託がイメージされるからだ。

マザーハウスが、現地で法人を持ち、現地で自社工場を作り、現地で採用した現地人330人に雇用を与え、現地でものづくりをしているという特殊性を、深く掘り下げて描きたいと提案してくれた。
私は、キャシーさんが翻訳家を超えて、著者の一人になってくれているような感じがした。

キャシーさんの工場に関する質問は非常に細部に渡っていたため、「これはマムンさん(現地の工場長)に答えてもらったほうが良いな」と思い、すぐに彼に転送した。

マムンさんは、一つ一つの質問にさらに細かく回答をして送り返してくれた。

私はすぐさまそれをキャシーさんに転送した。

すると驚いたことに、キャシーさんが猛烈に感動していたのだった。
「工場長から、こんなにもスピーディーに回答がくること自体が、どれだけ信頼関係の強い工場か理解できました」と。

私は毎日マムンさんとやりとりをして、一緒に工場を作ってきたので、なんだか普通のことに感じてしまっていたが、「そうか。普通じゃないのか・・・」となんだかパソコンの前で唸っていた。笑

キャシーさんは、途上国の生産に対してどんなイメージがあるかを認識し、合理的に差別化できる明確なルールや制度の肉付けが、アメリカ人に伝えるときに非常に大事な要素になると教えてくれた。なので、単純に「いい工場」とか「精神面で温もりのある工場」ではなく、福利厚生や生産体系の違いなどを明確にした。


そして、最後に、私自身の任務が残っていた。

「FINAL CHAPTER」を追加することだ。

それは「アメリカ人はサクセスストーリー(成功体験)が大好きだから、それに見合ったストーリーで終わらせることが一番大事な要素なんだ」と教わったから。

「裸でも生きる」は、2007年に必死にオープンした第1号店のエピソードで終わっている。しかし、現在、国内外に47店舗あり、そして何よりバングラデシュ以外に生産地が5ヵ国存在する。
これは、私たちにとって大きな進歩と成長だと思っている。

私はそこまで文章を長くせず、凝縮して「FINAL CHAPTER」を書きあげた。

自分自身の道のりがサクセスだと思ったことは一度もないが、最後の章が加わったことで、マザーハウスが18年間継続してきたという説得力が付与されたと思った。


私には夢がある。

この本を届けたい人は世界にたくさんいるけど、途上国にも英語版ができたら普及させたいなと思っている。
それは、彼らの国を舞台に、現地の人々、現地の素材、現地の技術が、この物語を作ってくれたんだという感謝と、やればできるんだということを伝えていきたいからだ。

米国にも世界中にも、スポットライトを浴びていない人々はたくさんいる。でもきっと、彼らの個性には可能性が秘められていて、全ての人に、輝けるチャンスがあるんだということを伝えたい。


そんな風に思いながら月日が過ぎ、2023年11月。

キャシーさんから一通のメールと添付文書が送られてきた。

「Translation is done!」という力強い言葉と「The Naked Life」というワードファイルが目に入った。

しかし、お気づきだろうか?

こんなにも回数をかけて本のことを書いているが、出版社も、その目処もついていないということを・・・。

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