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朝礼で感じたこと。
一昨日、バングラデシュの自社工場で2025年初の朝礼をした。
日本からスタッフが四人も来てくれていたので、みんなで年末に行われた株主総会の資料を共有した。
今季は中期経営改革のスタートだったから、4年後までの計画で、グラフには少し大きな成長軌道が描かれていた。というか、描いている笑。
売上の目標は、反対から見ると、生産量の目標を意味する。
だから、工場の理解なくして、売上計画なんてなんの意味もないわけで、これが自社工場の大変さでもあり、単純に工場に委託生産するバイヤーと私たちが違うところだ。
だから、日本サイドの経営計画を共有するのは途上国の工場ではほぼ皆無というか、見たことがないのだが、私たちにとっては至極当たり前の共有をした。
今は、350人を超える職人さんがいるのでマイクを使って、大きいディスプレイを使って朝礼をする。
昔バングラデシュで起業したての時、日本で何個売れた、売上はいくらだったよ!と、工場に共有しているのはやめなさい、と同じくバングラデシュに進出していた日本人の男性に言われたことがある。
「どうしてですか?」と聞くと
「工員たちが勘違いするだろう。日本円で儲けていたら、タカ(現地通過)に換算したらこれくらいになるから、もっと給料を上げろとか暴動になるだろう。」と返事がきた。
「ならないと思います。」
私はまだ20代だったので、その答えを論理的に説明することはできなかったが、感覚的に、絶対にそうならないと即答したのは、“私はみんなと作っていた”から、本当にそれだけが理由だった。
それから15年以上が過ぎて、共有する数字は桁が異なってきた。
もはや、みんなすぐには現地通貨のタカに変換できないのだが(笑)、まずディスプレイには、2006年から2024年までの実績が棒グラフで示されていて、2025年から2029年まではPPTがアニメーションになっていて、まだ見えていなかった。
すると、とんでもない事態が起きた。
工場長のマムンさんがマイクを持って言った。
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「ねえみんな、2026年はどこまで行けると思う?!2027年は?」と職人たちに聞いちゃうんだ。
「!!!???ちょ、ちょっと待って!クイズじゃないんだ!」と私は狼狽える。
しかし、また信じられない光景が、、、。
職人の一人が立ち上がって
「8と9の間だ!」とか言っている。
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「だからクイズじゃないんだ!」と私が言うのを全く聞かず、
マムンさんが今度は「水性ペンをもってこい!!!」と言った。
「へ?」
ささっと、総務のスタッフが水性ペンを渡すと、なんとそれを持ってマムンさんはディスプレイ上に職人が言った数字の点を書いたのだ。。。。
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もうここまでくると私たち日本人は呆然とするしかない。
さらに話は進んでいる。
「2027年は?!」「2028年は?!」と。そしてその度に、さまざまな職人が手を挙げ、思い思いの売上予想を発言し、水性ペンがディスプレイの上を走る。
そして最後に「2029年は?!」とマムンさんが言うとまた違う職人さんが手を挙げて、
自ら今度は前に出てきて、2029年の売上予想の点を打ったのだ・・・・。
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あろうことか、その点は日本の予想値をはるかに上回っていて、株主総会の資料のグラフからはみ出していたのだ。
そして自信たっぷりに点を打った職人は在庫管理をしている職人で、生産ではないんだが(笑)、点を打ったことで再び会場から拍手が湧き上がり、なぜか英雄のような顔つきになって、元々座っていた場所に帰って行った・・・・。
問題はここからだ。
この大いなる飛躍の水性ペンの点に怯んだのは、私だけじゃない。日本から来たCFO、王君だ。
彼は綺麗な英語で2029年までの数字をひとつずつ伝えようと思っていたのに、なぜかすでに点が打たれている(笑)。そのディスプレイを見ながら、王君は「let,,, let ,,, let me explain,,,,」とアニメーションを動かして、用意していた棒グラフを見せていった。
元々、数字を伝えるごとに、工場にはやる気も起こるだろうけれど、できるかなあという責任なども感じるだろうなという想定でいたのに、水性ペンのせいで、私たちの計画はむしろ非常にリアリスティックで、ちょっとトーンダウンしたものとなった(苦笑)。
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でもさすがマムンさん、マイクで続けた。
「みんな自分たちで宣言したね!できるって言ったんだから、やってやろうじゃないか!」とみんなを盛り上げた。
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私は終始、笑い転げたり、ヒヤヒヤしたりしていたが、最後はこんな美しい主体性の姿を見せてもらい、涙目になってしまった。
日本以上に高い目標を掲げる私たちバングラデシュの自社工場。
その存在を日本のみんなにも伝えたくて、このエピソードは帰国したら絶対に書きたいなって思って、noteに書いている。
こんな頼もしいことってあるかな。
こんな素敵な生産パートナーっているかな。
これから販売がどれだけがんばっても、きっと応えてくれる宝物みたいな職人さんたちが私たちにはいる。そのことをしっかりと感じながら仕事をしていこう。
私はマムンさんみたいに、強いリーダーシップがないけれど、こんな頼もしい工場のみんながいるならきっとできるって思えた。
最後に質疑応答があった。
数字に関することやものづくりのことが聞かれるのだろうと思ったら一人の職人さんが言った。
「マダム(=私)は2006年の時、どんな夢を見ていましたか、こう言うふうに工場が成長すると思いましたか?今、マダムは心境の変化がありますか?」って。
「!!??へ・・・?なんでいきなり新聞記者みたいになったんだよー」って私が言うと、大爆笑。
そこからはちょっとしどろもどろになりながら答えた。
私は、「えっと、、、2006年かぁ・・。うーん、正直に言うと、夢とか成長とか、描ける余裕はなかったなあ。だってね、やっぱり、一人ぼっちで、みんなと会えてなかったからね。
今は違うよ。みんながいるから。
このグラフを見るとね、私はデザイナーとしては、怖い気持ちばっかりで、不安ばっかりなんだよ。でもね、そういう重たいものをみんなに配って小さくしながらやっていくからさ、よろしくね。」と言ったら、みんなまたニコニコしながら、うん、うんって大きく首を縦に振って頷いてくれた。
そして、五千種類以上も一緒に作ってきたモルシェドというサンプルマスターは私のこの答えに、どこか涙目だったのも印象的だった。
なんかとても社内的な話題ですが、私には、こういうエピソードが、何よりのボーナスです。
また頑張って作ろうと思えたし、美しいプロダクトを作りながら、美しい主体性も作っていきたいと改めて思えました。ありがとうみんな。
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