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モノトーンの世界。

「ミニマリズム」という言葉について、省くとか削ぎ落とすという意味だと認識されているけれど、厳密に「シンプル」とどう違うのかは、割と曖昧に捉えられている。数年前、ミラノの展示会に出かけた際に、工業製品のデザイナーを志すイタリア人とその話題になった。

私は彼とともにたどり着いた結論にすごくしっくりきている。

「ミニマリズムってさ、意志なんだよね。シンプルって雰囲気。」

厳密な差を明文化している訳じゃないんだけど、この感覚が作り手としてフィットするし、多分、買う人にとってもなんとなく理解してもらえる感じがする。

パリのショールームで短期間だが私は自分の作ったバッグ、ジュエリーたちを並べていた。立ち寄ってくれるフランス人のお客様から最もよく聞いた感想は「ミニマリズムだ」という言葉だった。

私は自分のデザインが「ミニマリズム」に属するかどうかはその時点ではあまり意識していなかった。しかし、確かに開発段階では相当に強い意志を持って、排除するものを決め、際立たせるべきものを抽出する作業をしている。

私はそのプロセスこそがデザインそのものだと思っているが、パリに滞在し始めて、そうではない世界があることを身をもって知った。

それは「要素を削らずに、すべて言いたいことを言った上で調和させる力」だ。

個人的にファッション業界でその最たる例は、「エルメスのスカーフの図柄」だと思っている。色を100種類くらい使いながら、線画のモチーフもあまりにも多い。しかしそれでもなお、そのスカーフを見た時に一つのハーモニーを感じ、心が落ち着き、美にため息が出る。
そのような領域は、数百個の宝石を嵌め込んだバンクリーフ&アペルにいたジュエリーデザイナーのスケッチをみた時もそう思った。
「主張しつつ、調和させる」。

ただ本当にトップのクリエイションにその調和の力を感じていて、大体の場合「要素がうるさい」「チグハグ」「下品」と思ってしまうケースがほとんどなのだが。

そして、もっと居心地が悪いことに最近はそのチグハグがどうもトレンドのようにも見える。例えば複数の原色を使ったニットの上に、ビーズを施し、最後はパールのボタンをつけてしまう、というような類のもの。
私は、どうしても共感することができない。
パッと見た瞬間の要素の多さと情報の多さに、気持ちが悪くなってしまうのだ。

「もっと、静かでいさせてほしい」心の叫びがいつも聞こえるんだ。

ただでさえ、さまざまな情報のシャワーを毎日のように浴びている現代、身に着けるものまでうるさいのはゴメンだ、と本能的に思ってしまう。
更にそのうるさいものを入れるクローゼット、うるさいものをコーディネイトする日々、そんなことを考えただけで私はブルーになる。

ファッションに関する自分のこうした本能的反応には、それなりの価値観がベースにある。
「大事なことってもっとずっと僅かだと思う」ということ。

これは私の主観であり人生観。だからデザインの上でも、とても強い特徴になっている。

私はこれまで40年生きてきて、すごく多くのことを「選ばずに」生きてきたと思っている。
日本で生きるのをやめた時。
企業に入ることを選ばなかった時。
そういうときいつも「選ばなかった分、選んだ選択肢を全うしたいなあ」って思っていた。

“人生一度きりなんだから、色々とやった方がいい”

その考えには大きくは賛成なんだが、一方で、「一つのことをやり切るだけでも、相当人生は短い」と私は考えている。その「やり切る」というレベルが、私の中では結構なハードルの高さだから。

ちょっと人生論になっちゃったけど、デザインの話に戻すと、大きく「色」「形」「機能」「素材」というような要素があった時に、やっぱりここでも「選ぶ」ことが大事だと思っている。全ての要素を主張してしまったら、「何が言いたいんだっけ?」と混乱したデザインになってしまう。

何かを削ぎ落とす決断をして、誰が主人公的な要素なのかを決断する勇気が必要になる。

今回、私は、自身のライン『ERIKO YAMAGUCHI』において、ずっと大事にしてきた「色彩」を削ぎ落としてモノトーンをベースにした表現にした。

理由はより「フォルム」と「素材」に自分の目を、見てくれる人の目を向けるためだった。
バッグや色石のデザインで、何十万と「色が綺麗!」というお客様の声を聞いてきた自分だから、デザイナーとしての強みも「色選び」にあるという自負もあった。だからなおさら、勇気のいる決断ではあったが、私はそれ以上にフォルムに集中したかった。

黒でいく、と決めてからはより一層冒険的なパターンが広がり、素材ごとに同じ黒でも異なる表情が浮かび上がって、それがまた自分自身と素材の対話を奥深くしていった。

選び抜いたものには、意志が宿ると思っている。

そう思いながら黒やグレー、生成りといった僅かな色彩の生地を手に、シルエットやパターンにとても集中しながら縫製をし最初のサンプルを作っていくことができた。

これからも、夢中になるために、選び抜いて作ろうと思う。

(left) Matou Asymmetry One-piece 56dt twill Khadi 
(right) Matou Fringe Outer Thick Linen

<ERIKO YAMAGUCHI> 
2022.09.03 DEBUT

▼ERIKO YAMAGUCHI 2022AW COLLECTION
https://www.edot.jp/collection/ERIKOYAMAGUCHI/2022aw/
※8/31まで先行ご予約受付中

▼公式インスタグラム
https://www.instagram.com/erikoyamaguchi_official/


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