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ドラマ『わたしの宝物』最終話まで視聴後の感想と考察

ドラマ『わたしの宝物』がついに最終話を迎えました。まだ ふわふわ とした心持ちでいます。私は、このドラマを10週間にわたって熱心に視聴し、これまでいくつか感想noteも綴ってきました。その中でも何度か書いてきましたが、私はずっと托卵をされた夫 宏樹が幸せになる結末を祈っていました。それなのに、なぜか本当に最後まで、宏樹のハッピーエンドを想像できていなかったのです。だから、この最終回のラストには、安堵で膝から崩れ落ちるような気持ちにすらなりました。あぁ、本当に、本当に、良かった。美羽と宏樹と栞の幸せなそうなラストシーンを眺め 穏やかな多幸感に包まれながら、それにしても私はなぜこの最適解ともいえる結末を、こんなにも想像できていなかったのか??と疑問に思いました。そして、このドラマが私たち視聴者に仕掛け続けていた からくり について考えさせられました。

このドラマはジェットコースターでした。

物語は、美羽の夫 宏樹のモラハラから始まり、そこから即座に美羽と幼馴染の冬月の再会、妊娠、冬月の死亡誤報道、托卵の決意、と息もつかせぬスタートダッシュで爆加速し、その後は、宏樹の良いパパ転生、真琴の暴走、宏樹の錯乱と入水心中未遂、宏樹と美羽の修羅場、莉紗の暴走、美羽vs莉紗の修羅場、宏樹vs冬月の修羅場と、ほぼスピードを緩めることなく、視聴者を上下左右に振り回して走り続けました。

これらの急展開にぐいぐい引っ張られながら、私の気持ちはずっと、ハラハラ・ドキドキ・イライラ・モヤモヤしていました。めくるめくハラドキとイラモヤのマリアージュ。たくさん振り回されました 。この絶妙なイライラとモヤモヤ部分の内訳は、登場人物たちの暴走によって与えられた部分も勿論あったのですが、実は何よりも主人公である美羽によるものが大きかったと思います。とにかく、美羽が何を考えているのか分からなかった。ずっと美羽の本心が見えなかった。美羽にとっての宝物っていったい何?? それが最後の最後まで明確にならないまま視聴を続けた訳ですが、ようやく全てがすっきりした最終回の視聴後に、ふと思い至りました。

あ、これはたぶんワザとだったのだな、と。

このドラマは美羽の本心をずっと意図的にぼやかし曖昧にする事で、ジェットコースターの進路を予測させない目隠し効果を作っていたのだと思いました。私は、最後まで美羽が宏樹を選ぶのか、冬月を選ぶのか、はたまたどちらも選ばないのか、まったく予測出来ずにいました。それくらい美羽の本心が最後まで玉虫色にぼやかされていました。そしてそれは計画的にそうなっていたのだなと、今となっては思います。

そう思ったら、美羽を演じた松本若菜さんの抑えに抑えたあの鬱屈したお芝居にも合点がいきました。主人公が最後まで本心を悟らせないお芝居を巧みに貫き続けたことで、私たちはラストまで大いに翻弄されたと思っています。また、あんなにはっきりしない美羽でも、ずっと視聴者を離すことなく惹きつけてこれたのは、黙っていても内面から強く放たれる若菜さんの魅力があったからではないでしょうか。ずっと天女さまみたいでした。最後のまるで全ての霧が晴れたかのようなラスト、宏樹と栞と3人で幸せそうに笑う笑顔の破壊力ときたら。物憂げな美羽もとても美しかったけれど、笑った美羽からは周囲に花が咲き乱れるような温かさがあって、そりゃ本来がこんな美羽だったら宏樹の宝物だわ、間違いねぇわって納得したりしました。若菜さん、凄かったな。

また、田中圭さん演じる宏樹は、このジェットコースターの機体の役割を担っていたと思います。メインの登場人物の美羽・宏樹・冬月の3名の中で、唯一、宏樹だけが常に本音を開示され続けていました。美羽に対しても比較的ストレートに疑問や要求も告げていたし、モラハラになった経緯も丁寧に描かれて、その背景の説明が十分にされていました。そして、なによりもTocaという場所でマスターに胸の内を吐露する場面が随所でしっかり設けられていました。視聴者の眼前で赤裸々に本心を語り、悩み苦しむ宏樹に、私たちは何度も同情するチャンスを与えられました。多くの視聴者は、宏樹の心情に乗って物語のレールの上を進行していったのだと思います。これも制作側が意図的に狙ったものだったと思います。それにしても田中圭さんのお芝居の質がエグいから。本当に凄かったから。田中圭オタクとして語り出したらきっと止まらないので、ここでは細かいことは割愛しますが、全編を通して、凄みのあるお芝居にグイグイ引っ張られ続けました。最高の最高でした。

メイン3名の中で一番難しかったのは、冬月くんの存在だったと思います。ずっと“冬月くんは蚊帳の外”とsnsでも言われ続けてきましたが、本当にそう思います。1話では、托卵の起点となる重要な役割を担っていましたが、それ以降は美羽との関わりも殆ど無く、宏樹との対峙も後半までありませんでした。三角関係の三角の一点であるはずなのに、異様に比重が薄めに構成されていたと思います。そして、今思うと、これもワザとであったと思います。

冬月という役は、意図的に人物としての深みを感じさせない作りになっていたと思います。美羽は『冬月くんが救ってくれた』と繰り返し、莉紗は『さすが冬月!行動力があって人を惹きつける!』と盛り立て、宏樹ですら『冬月さんは優しいですね』と言葉ではいうのですが、実際にその根拠を具体的に深掘りする強めのエピソードがあったかと言うと、無いのです。
ドラマを視聴しながら、私はどうしても 冬月くんが、既婚者の美羽を妊娠させた点が気になってモヤモヤしていました。この事がなかったら物語が始まらなかったので非常に難しいところですが、この部分だけはどうしても、無計画で不誠実に感じていましたし、登場人物たちのセリフから語られる“誠実で優しい冬月”という好人物像とスッキリ合致しないと感じていました。もしかしたら、制作側も一定数の視聴者がその事をずっと気にするというのをわかっていて、この点から目を眩ます為に、敢えて冬月という人物の深掘りはせずに、余白を残していたのではないかと思っています。余白を残すことで、出来るだけ矛盾点が露出しないようにすると同時に、視聴者各々に冬月の人間性を補完させていたのかもしれません。

以前のnoteにも書いたのですが、私は、この制作チームが手掛けた『昼顔』『あなして』も事前に視聴しました。これらの前作を通して感じた事は、このチームは不倫をエンタメとして扱いつつも、決して肯定はしていない、という事でした。今回の『わたしの宝物』も、そのスタンスを貫いていたと思います。不倫を肯定していないので、美羽と冬月が一緒になる結末ははじめから無かったのです。それから、これは托卵の物語だったのです。美羽が栞を1人で育てていくのでは、托卵にはならなかった。そう考えたら、実は、美羽と宏樹で子供を育てていくという着地点は、初めからこの作品のレールの先にあったのではないかと私は思います。

レールからはみ出し過ぎず、でも、適度に揺さぶりをかける為には、冬月を出来る限り良い人として存在させ、決して深掘りさせず、美羽との関係も深めさせず、夫婦から曖昧な距離を保つ必要があったのかもしれません。

snsのコメントで「中学生の頃から一途に美羽を思い続けてきた冬月くん」と書かれたものを見たことがあります。ドラマの中で、実際に冬月からそんな事が語られたかというと、たぶん無かったと思うのです。普通であれば、あんな好青年が30歳を超えてまで、中学時代の初恋の女の子だけを一途に思い続けてきて(しかも20年くらい会っていない)、他に恋をしなかったって考えるのは無理があると思うのですが、深澤さんの演じる冬月くんには、どこかそのように補完させられてしまう何かがありました。それはトップアイドルの魔法のせいなのかもしれません。その魔法の光はキラキラと清らかに光って、私たちの目を眩ませていました。多くを語らずとも、深澤さんの光によって、美羽と冬月の恋は、絶対的に清らかで純粋で美しいものに映るエフェクトがかかっていたように思います。でも、不倫は不倫なのです。どんなにエフェクトをかけようと、深掘りをしてしまっては、その中にある矛盾と綻びが露呈してしまう危険があったのだと思います。だから、冬月くんはずっと蚊帳の外に置かれたのではないかと私は考えます。

正直、ファンにはとっては辛くフラストレーションが溜まるドラマだったと思います。では、これは、不名誉な配役だったのでしょうか?私はまったくそう思いません。深澤さんほどの優しくて誠実で多くのファンに愛されるアイドルでなかったら、この重要な役は担えなかったと思いますし、冬月が成立しえなかったと感じます。あっぱれでした。私はこれをきっかけに、役者としての深澤辰哉さんにも注目していきたいと思いました。

ところで、私はこの物語を夢中で見続けた訳ですが、とくにこのドラマから何か教訓を得たとか 生きるためのヒントを貰ったとかは全くありません。そもそも、托卵という特殊な状況を主軸に置いていた時点で、おそらく元からきれいな共感を得るために作ったドラマでは無かったと思うのです。これは問題提起を含んだ社会派ドラマでも、感動のヒューマンストーリーでもないのです。どちらかというと、割り切ったエンタメとして、人工的で作為的な仕掛けに満ちていたと感じています。

視聴者の間でも大きく話題になったのが、真琴(恒松祐里さん)と、莉紗(さとうほなみ さん)でした。

真琴は、美羽の親友でありながら、美羽の秘密を疑惑の時点で宏樹に暴露したり、冬月をおびき出して引っ掻き回したり。莉紗は、アフリカで嘘をついて誤報を生み出したり、美羽を呼び出して公衆の面前で罵ったり。数々の あり得ない 普通じゃない 信じられない 行動の大連発でした。でも彼女たちのこのあり得ないアクションがあったからこそ物語は進んでいったと思うのです。

前述したとおり、主人公である美羽が多くを語らず進路を隠し通す“静”のポジションにあり、冬月は一歩離れた場所からエフェクトをかける存在という構図の中で、実質 宏樹が一馬力でストーリーを進行させる“動”の役割を背負っていました。マスター(北村一輝さん)という絶妙なサポート役もありましたが、それだけでは、この托卵物語のジェットコースターは走り続けらなかったと思います。

スピードを上手く加速させる為には、真琴と莉紗というブースターが要所で必要だったのです。そして、彼女たちの言動が、普通や常識から乖離していればいるほど、見るものへのG負荷がより大きくかかり、私たちの感情を大きく揺らす絶大な効果を作り出していたと思います。お二人のお芝居も本当に素晴らしかったです。真琴や莉紗のあり得ない言動に腹を立てさせられたのも当然です。だってワザとですよ。見事なエンターテイメントでした。

考えてみると、ジェットコースターって乗り場に近い場所に戻ってくる場合が多いものです。神崎夫妻が、視聴者をさんざん振り回したあとに、最終的に元の場所に戻ったという結末は、ジェットコースターストーリーとしては、一番安定度の高い最適解だったのかもしれません。思いがけない場所に着地するジェットコースターは事故でしょうから。きっと後味が悪かったと思います。

美羽、宏樹、冬月の3人に加え、真琴、莉紗、マスターがそれぞれ違った役目を遂行しながら、互いに絶妙にバランスを取り合って、この危うい物語を見事なエンタメに昇華していたと感じました。10週間の間、感情のジェットコースターに乗せられて、心をぶんぶん振り回されて、本当にすごく楽しかったです。

TV地上波における連続ドラマ業界は、いまや、視聴者離れと制作予算の削減に喘いでいるとも耳にします。そんな苦境に立たされているなか、力強い底力のある連ドラ エンタメをみせて貰えたと感じました。リアルタイムでなくてもドラマが容易に観れるようになったこの時代に、地上波リアタイで無ければ味わえない特別なドキドキ感に満ちた作品だったと思います。素晴らしかったなぁ。

さて、このジェットコースターが無事に帰着し、ふわふわの高揚感を抱えながら、私が今思うことは、「またこのジェットコースターに乗りたい」です。また初めから、このドラマが見てみたくなりました。今度は、着地点や仕掛けを意識して楽しみたいな。少し違った景色や感覚が味わえるのではないかと思っています。円盤の発売は7月だそうです。買います。公式SNSなどでチラッと公開されていた、本編とは違って底抜けに明るい演者さん達の様子やメイキング映像も追加特典であるのでしょうか。きっとありますよね。併せて観たらもっともっと楽しいと思います。楽しみだな。どうかたっぷり特典追加でお願いします。待ってます。素晴らしいエンタメを本当にありがとうございました。楽しかったーーー!!!!!【終わり】



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