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ドラマ『わたしの宝物』6話までの感想

ずっと、ドラマ『わたしの宝物』のことを考えている。夫以外の人との子を宿した妻が その子供を夫の子として育てるという“托卵”をテーマにした 今秋(2024)の連続ドラマだ。先週の5話から今週の6話にかけては、その托卵の秘密がとうとう夫にバレて悲しい修羅場へ…という大きな山場を迎えた。

私は、田中圭さんが演じる夫 宏樹に強く肩入れしているので、熱心に配信をリピート視聴しながら、毎日、どうにか宏樹が幸せになるルートは無いものかと真剣に考えてる。連ドラの登場人物の行く末を こんなに心配しているだなんて、まあまあ呑気な悩みではある。いいんですよ。忙しい日常の合間のちょっとした現実逃避よ。これがけっこう楽しいんだから。

DNA鑑定結果なども挟んで、登場人物たちが泥沼状態で苦悩する展開を眺めながら、血の繋がりってそんなに大事なのかな…などとも考えていた。世の中には、たとえ血がつながっていなくても、深い愛情で繋がっている家族はたくさんいる。家族の形を血縁関係だけに狭めて考えてしまう必要はない。

では何が問題なのか。

やはり、嘘の部分なのだろうなと思う。信頼している人からつかれる嘘は、本当につらい。6話では、托卵を知ってしまった宏樹が、本当の父親が誰かと聞くが、美羽は無言のまま俯き何も答えない。そんな美羽に絶望した宏樹は「なんで俺の子って嘘ついたの?」と問う。深い悲しみの中で絞り出した苦しみに満ちた声だった。やがて宏樹は美羽に1人で出て行って欲しいと伝える。とても残酷で重く、息が詰まるようなシーンだった。

私は、嘘や秘密の全てが悪いとは思わない。誰かのことを慮ってつく優しい嘘が、この世には存在するからだ。でも、美羽がはじめに宏樹についた嘘は、誰かのためについた優しい嘘などでは無かった。生まれてくる命の将来を守るという部分も多少はあったかも知れないが、この嘘は、愛した冬月の子を産みたいと思った美羽自身のための身勝手な嘘であったと思う。そして、美羽は次第にその嘘の罪悪感にばかり囚われていった。宏樹に、本当の父親が誰かと問われても、美羽はなにも答えられなかった。もしかしたら、栞との安定した生活を守りたいと本気で思ったのならば、宏樹を懐柔する為に、なりふり構わない嘘をつく事も出来たのではないかと思う。“本当の父親の男など愛していない、もう記憶にもない”と、嘘をつけたかもしれない。しかし、美羽はそんな嘘はつけなかった。嘘を重ねていく事に耐えられなくなっていた自分のために、今度は嘘がつけなかったのだ。冬月とのことは、美羽にとって今でも大切な宝物であり、それをたとえ嘘でも傷つけたり偽ったりする事はもう出来なかったのかもしれない。美羽は、自らが宣言した悪女などではない。愚直な女だ。新しい命を産み母親になっても、まだ自分の事にしか思慮がおよんでいないこの自分勝手な主人公に、私は今のところ全く好感が持てていない。彼女は籠の中の愛玩動物のように、見えている世界が狭くとても弱々しい。

異常に執拗な親友(笑)の真琴に、冬月にも真実を告げない件を詰め寄られたときに、美羽ははじめて語気を強めて『私一人の罪だから。一生一人で背負っていく。悪いのは私!!』と啖呵を切る。しかし、こんな事になってしまった以上、美羽が一人で罪を背負っていく覚悟など、栞の幸せの足しにはならない。果たして彼女が一人で罪の下敷きになり、黙って苦しむ事で何かが解決するのだろうか。しないだろう。美羽がするべき事は、罪を背負う事ではなく、罪を償う事である。関わった人間と話し合い、その罪と正面から向き合い、栞が最大限に健やかに育つ環境の構築を模索する事が母親としてするべきことだと私は思うのだ。6話のラストで、宏樹とのマンションを追い出され、とぼとぼと放心状態で歩く美羽に、しっかりしなさいよ!!と背中をたたいて一喝したい気持ちでいる。美羽にはもっと強くなってほしい。まぁドラマなんですけれどね(笑)

ところで。

宏樹が、栞を連れて海に入ろうとしてしまった事、また、美羽ひとりを追い出し 栞と引き離した事に関して、“宏樹のモラハラ性の根本が変わっていない”と指摘する感想も見かけた。私はこれを読んで少々嫌な気持ちになっている。

1話での宏樹は明らかにモラハラ男だった。理不尽に美羽を責め、傷つけ、見えない青タンをたくさん作っていた。確かにそれは無かった事には出来ない過去である。でも、栞の誕生と共に宏樹は変わっていった。過去の自分を振り返り、深く悔いた。3話では、美羽に心からの謝罪をしている。やがてモラハラだった姿の片鱗などどこにもない、ただただ美羽と栞をとても愛している優しい宏樹になっていった。

ところが、そんな宏樹に対して、6話で美羽から告げられた言葉は残酷だった。『いつからか宏樹のことが怖くなって。一緒にいるのが辛くて。私は宏樹を裏切った。』美羽は、托卵の経緯を正直に告げただけかもしれない。それは揺るぎない過去の事実であるかもしれない。でも、モラハラだった自分を悔い、美羽との関係の再構築を懸命に試みていた宏樹にとっては、改めて重い楔を打たれたような言葉だったように思う。間違っていた自分と向き合い、悔いて反省したけれど、決して許されることは無いのだと思ったのかもしれない。思えば、宏樹が美羽に愛を告げても、美羽は暗い顔で もの憂げに見つめ返すだけだった。美羽は宏樹の事をもう愛していない。そして他に愛している大切な男がいる。その事を確信してしまった宏樹の絶望は計り知れない。宏樹が「行きたい場所があるんだろう?隠すってことは、それだけ大切な人なんだろう?頼む。出ていってくれ。」と美羽に言った事を、単なるモラハラの再燃だと宏樹を責める気には、私はとてもなれない。

人間とは間違いを犯す生きものである。絶対に間違わない人間なんていない。無意識であれ、意図的であれ、誰だってどこかで やらかしているのである。人間だもの。しかし、間違ってしまったときに、その間違いと向きあえる力があるのも人間である。向き合って反省して改善策を講じて、そこから軌道修正ができるのが人間のもつ強さなのである。

だから、過去の自分と向き合い、反省をして変わっていった宏樹を、私は立派だと思っている。別にこれは、推しの田中圭さんが演じているからというだけではない。過去の間違いときちんと向き合い、精一杯に罪を償う努力をしている人を、許したいと私は思うのだ。もちろんこの世の全ての罪が許されるなどとは思っていない。何を許すか許さないかの判断は、個人の裁量に大きく寄ることも理解している。しかし、SNSの場で多くの人が、宏樹の過去のモラハラを絶対に許してはならないものだと強く主張しているのを読むと、なんだか嫌な気持ちになる。人それぞれの個人の思考の問題なので、仕方がないとは思うのだが、誰かの過去の過ちを、その人がどんなに挽回しようとしても、決して忘れないし許さないという在り方は、とても残念だと個人的に思っている。宏樹を決して許してはならないという強い意見は、ただ単に冬月くんを応援したいが為の論法だと信じたい。

美羽の托卵の選択は、運命の悪戯が重なったことで起こった間違いだった。『1人で罪を背負っていく』などという寝言はほどほどにして、美羽には問題と正面からきちんと向き合ってほしい。宏樹とも冬月くんとも話し合って欲しい。大きな過ちを犯したとしても、まだ挽回もできるし、栞を幸せに出来ると信じて欲しい。だって冬月くんも言っていたじゃない。『何度でもゼロから始められる』って。

このドラマも、あと残すところ4話だそうだ。どうか登場人物たちが、少しでも幸せな結末を迎えられる事を祈っている。残り4週も、楽しみに視聴して行きます。【終わり】

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