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NODA MAP正三角関係 観劇感想

まだ熱から覚めやらない。昨日、ロンドンで舞台を観てきた。野田秀樹さんの主催するNODA MAPの最新作『正三角関係』のロンドン公演だ。

私は演劇の舞台を生で観たのは はじめてだった。

別のnoteでも度々書いているのだが、私は二十代半ば渡英して以来、在英20年以上になる。ひょんな事から6年ほど前に日本の俳優さんの大ファンとなり、海外から趣味で”推し活“をしている。その推し活を通して、舞台演劇観賞というものに強い興味と憧れを持つようになった。舞台の情報が出てくるたびに、私も彼のお芝居を生で見てみたい!と切望してきたのだが、なんせ日本は遠い。日本での舞台観賞への憧れが募る中で、今回のNODA MAPの一報が流れてきた。ロンドンなら行ける!!あの野田秀樹さんですって!!日本語の舞台ですって!!主演は松本潤さん、長澤まさみさん、瑛太さんですって!!ぜひ観てみたい!!と、なり、仲良しのお友達に声をかけて一緒に観に行ってきたのだ。ミーハーで、にわかだ。

演目『正三角関係 love in action』は、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』をベースに、日本のとある場所の、とある時代に設定された「唐松族の兄弟」が紡ぐ新しい物語だそうだ。にわかな私はカラマーゾフの兄弟が、どんなお話かも知らない。予習した方が良いかしら?と、ちらっとも考えたが、そんな勤勉さも持ち合わせて無いので、何も知らないままで観に行った。

舞台は本当に凄かった。

野田秀樹さんの中にある人間性や価値観、思考や感情や熱が、舞台の上に生きものみたいに出現していて、まるっと呑み込まれたみたいな気持ちになった。見終わったあとは呆然としていまい、上手く言葉も出なかった。終幕し、会場は万雷の拍手に包まれた。やがてカーテンコールも終わり、観客たちの流れに促されるままに、ふわふわヨロヨロとした心持ちで席をたち、ほわっほわした頭でロビーまで出て、他の友人たちと合流したころで、ようやく声が出た。凄かったねぇ…。第一声でそんな陳腐な感想しか出てこない自分がもどかしかった。

野田秀樹って人は天才なんだと思った。そして舞台ってものは演出家の芸術作品なのだと強く感じた。

上演時間の2時間18分、私は野田作品という巨大な生き物の体内にいたように感じた。テンポの良い蠕動運動でどこかに運ばれているが、次にどこにいくのか何がおこるのか良くわからない。捏ねられ溶かされ振り回されるが、とても愉快で不思議で心地よい。思わず吹き出してしまうようなコミカルな描写や、巧みなスローモーションの妙、息を呑むような情景。懐かしさや、美しさや、哀しさや、不安や、怒りや、興奮、最後に訪れる静寂。野田作品の体内の中で、私は感情を次々に引き出され、弄ばれ、振り回された。そんな今まで味わった事のない体験だった。

こんなものを作り出し、舞台という板の上に出現させる事ができる野田秀樹さんは天才なんだ、と思った。そして舞台演劇とは、力強い感情と感覚の発露をともなう芸術作品なのだと体感した。とんでもないものを観た。凄かった。

昨夜、ロンドンから田舎の我が家に戻り、ようやく公式のHPを検索して隅々まで読んでみた。そこに野田秀樹さんの自筆のメッセージが書かれてあった。

【抜粋】「劇場に足を運んでくれた人の入り口と出口は違わなくてはいけない」「椅子に座っていただけなのに、劇場を出る時には世界が少しばかり違って見えるようになる」

と書かれてあった。私が感じた体験は正にそれであったので、正解を引き当てることができたような嬉しい気持ちになった。また、原作(カラマーゾフの兄弟)の小説を読んでわかったような気持ちで観にくる事は心に最も危険です…と注意書きがあったので、やっぱり予習しなくて良かったのね、と少しほっとした(笑)。

出来ることならもう一度観てみたい!!と思うのだが、もう大千穐楽を迎えて上演は全て終わってしまった(そもそもチケットも取れないけれども)。しかし!なんと!!世界での配信が予定されているそうだ。

是非是非、配信でも観てみたいと思った。凄く楽しみだ。

ところで、実は私、長澤まさみさんが二役演じているって気がついていなかったのである。ちゃんと2時間18分、あんなに目を見開いてみていたはずなのに。あまりにも彼女の佇まいや声質、役から醸す雰囲気が違いすぎて、背格好が似ているくらいにしか認知していなかったのだ。お恥ずかしい。ぜひ、配信でそのあたりもしっかり観てみたいと思う。

とても素晴らしい観劇体験が出来た。凄かったなぁ。【終わり】

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