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『採用基準』

2019/11/18
vol.10
『採用基準』 伊賀泰代 著

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  本書はマッキンゼー・アンド・カンパニーにて採用を担当されていた伊賀氏によって書かれたものである。
 伊賀氏曰く、マッキンゼーが求める人材は今の日本社会が必要としている人材と同じであり、それは必ずしも「地頭」の良さや「論理的思考」の強さを求めているわけではないという。
 キーワードになるのは「リーダーシップ」である。以下、日本社会や企業が求めるべき「リーダーシップ」について、伊賀氏の視点で述べる。

〜Topics〜
1.誤解される採用基準
2.リーダーシップとは
3.リーダー不足
4.全ての人に求められるリーダーシップ
5.まとめ


1.誤解される採用基準

 2000年以降、新卒就活市場においてコンサルティングファームの人気が急速に高まり始めた。しかし、就活先として人気が高まると求める人物像が伝わりにくくなる。

 中でも、とくに問題だと思われる。

<就活における採用基準の誤解>

誤解1:ケース面接に関する誤解
・誤:解法という知識を求めている
・正:考える力を求めている

誤解2:「地頭信仰」が招く誤解
・誤:頭さえよければコンサルファームに入れる
・正:頭脳以外にも、信頼感や包容力、リーダーシップなども必要

誤解3:分析が得意な人を求めているという誤解
・誤:数字の処理能力や理解力の高さを求めている
・正:「現状分析」だけでなく、「解決策」を導くことまで求められる

誤解4:優等生を求めているという誤解
・誤:広く浅い能力を持つ「バランス型」の人材を求めている
・正:特定の分野で優れている「スパイク型」の人材を求めている

誤解5:優秀な日本人を求めているという誤解

・誤:日本人の中で採用基準を満たす人材を求めている
・正:基準を満たしていれば海外からの留学生も積極的に採用する

 マッキンゼーだけでなく、またコンサルティングファームだけでなく、おそらく多くの日本企業が「正」の採用基準を持っているであろうし、そうするべきであると考えられる。

 誤解2で触れた、「本当に求められるスキル」のうち、「リーダーシップ」(またはリーダーシップポテンシャル)は特に重要なものである。
 「リーダーシップ」について以下に述べていく。


2.リーダーシップとは

 顧客の企業価値向上を実現するには、解決策を検討する段階から組織の中に入り込んで、現場スタッフの信頼を獲得し、最終的な提案内容についても、様々な部署と調整しながら、組織のルーティンに落とし込んでいく必要がある。どんな分野にせよ、求められるのは「強力なリーダーシップ」である。現実に問題を解決するのは「問題解決スキル」ではなく「リーダーシップ」なのである。

 世の中には、「どうすればいいのか、みんなわかっているが、誰も何もやろうとしないために、解決できないまま放置されている問題」があふれている。これらの問題に対して、他者を巻き込みながら現状を変えていこうとするのも「リーダーシップ」である。

 よくある誤解として、「組織においてはごく一部の人がリーダーシップを持っていれば良い」という考え方がある。
 しかし、実際には、全員がリーダーシップを持つ組織は、一部の人だけがリーダーシップを持つ組織よりも圧倒的に高い成果を出しやすい。だからこそ、採用基準において「リーダーシップ」は非常に重要になるのである。

★Point
・現実に問題を解決するのは「問題解決スキル」ではなく「リーダーシップ」
・全員がリーダーシップを持つ組織は、一部の人だけがリーダーシップを持つ組織よりも圧倒的に高い成果を出しやすい


3.リーダー不足

 日本には、リーダーシップを発揮できる人間が不足している。しかし、それは「カリスマリーダーの不在」を意味するのではない。「リーダーシップ・キャパシティ」、つまり、日本全体でのリーダーシップの総量が不足しているのである。

 組織においても、組織のあらゆる場所で、目の前の変革を地道に主導できるリーダーシップの総量を増やさなければならない。
 そのためには、以下のような取り組みが必要となる。

<企業がリーダーシップの総量を増やすために>

・意識
「問題を解決し、今までとは異なる未来を創出するのは自分たちだ。」という意識を持たなければならない

・ポジション
要となるポジションには、外部からも多くのリーダーを呼び込む
若手でもリーダーシップポテンシャルがある人材ならリーダーに引き上げて権限を与える


4.全ての人に求められるリーダーシップ

 日本企業におけるリーダーシップ・キャパシティーを増やすために、以下2点を前提として認識しておく必要がある。

<リーダーシップとは>
①全ての人が日常的に使えるスキルである
②訓練をつめば誰でも学べるスキルである

 「リーダーシップ」は特定の場面でしか求められないスキルでもなければ、特定の人にしか求められないスキルでもない。仕事の中でもそれ以外でも、日常的に発揮すべき機会はある。

 全ての人が手順を踏みながらリーダー役を経験すれば、「自分にもリーダーとして成果を出し、みんなのために貢献することができる。」と思えるようになる。

 リーダーになるために、生まれながらの卓越した能力や溢れるような人間的魅力が不可欠なわけではない。リーダーとは何をすべき人なのか、そのためにどう振舞うかを考え、小さな場面にそれらを実践して成功体験を積み重ねることから始めれば良いのである。


5.まとめ

 日本において「中央集権体制」が長く続いてきた背景には、高度経済成長機(経済の発展途上期)の名残が影響している。当時は画一的なニーズに対する大量生産が基本であり、その時代には中央集権体制が効果を発揮していた。

 しかし、現代においては人々のニーズは急速に多様化している。そのような時代における企業では、各地で異なるニーズを汲み上げ、また各部門がある程度自立して価値を提供しなければならない(分散型の意思決定システム)。すなわち、あちこちにリーダーが必要になるのである。

 このように、世界中の企業でますますリーダリップの重要性は高まっていくと考えられる。

 リーダーシップは企業のためだけでなく、個々人のためにもなる。現実において問題解決ができるようになるし、成長が実感できるし、周りに感謝されるし、自分の世界観を実現することができる。そして、自分が関われる世界を広げることもできる。

 多くの人がリーダーシップの意義を理解し、それを身につけることによって、自らの人生を自分の手で切り開いていって欲しい。