『武器になる哲学』
vol.18
2019/1/14
『武器になる哲学』 山口周 著
〜Topics〜
1.はじめに
2.「人」に関するコンセプト
3.「組織」に関するコンセプト
4.「社会」に関するコンセプト
5.「思考」に関するコンセプト
1.はじめに
哲学は「役に立たない学問の代表」とされることも多い。しかし、世界のエリート経営者たちは、哲学をプライオリティの高い学問として学んでいる。その理由をR.ハッチンス教授(シカゴ大学)は以下のように述べている。
「無教養な専門家こそ、われわれの文明にとって最大の脅威」
哲学を学べば必ず「役に立つ」「かっこいい」わけではないが、哲学を学ばずに社会的な立場を得た人は、「危険な存在」になりうる、というのである。
本書では、現代においても「使える」であろうコンセプトについて紹介していく。50のコンセプトを大きく「人」「組織」「社会」「思考」という4つのジャンルに分けて紹介していく。各主張の現代への応用についても記すので、関心を持った部分だけでも読んでみてほしい。
2.「人」に関するコンセプト
◆「ロゴス・パトス・エトス」
byアリストテレス
【意味】
・「ロゴス」=ロジック
・「エトス」=倫理
・「パトス」=情熱
【主張】
本当の意味で人を説得して行動を変えさせるためには「ロゴス・エトス・パトス」の3つが必要である。
【応用】
近年は「論理的思考」が注目されるが、「ロゴス」だけでは人を本当に動かすことはできない。
◆「予定説」
byカルヴァン
【意味】
ある人が神の恩恵にあずかれるかどうかは、予め予定されており、この世で善行をつんだかどうかは関係ない
【主張】
「報酬」をもらえるかどうかに「努力」は関係ない
【応用】
「報酬が努力の量に関係しない」とすると、人は無気力になりそうなものであるが、実際にはそうはならないと言われている。「自分こそが救済されるべき」と考えるので、禁欲的に努力するのだと。
現代の企業の人事評価は、「努力に応じて評価される」ことを理想としがちであるが、これは一概に適切とは言えないのではないか。
◆「タブラ・ラサ」
byジョン・ロック
【意味】
=何も書かれていない石板
【主張】
生まれたときの人の心は何も書かれていない石板のようなものであり、生まれつきの優劣など無い。
【応用】
生まれた後の環境や教育が重要である。
◆「ルサンチマン」
byニーチェ
【意味】
弱い立場にあるものが、強者に対して抱く嫉妬や劣等感(=やっかみ)
【主張】
ルサンチマンを抱えた個人はルサンチマンを解消するために本来の判断基準を歪めてしまう。
Cf.「酸っぱいぶどう」の物語
【応用】
現代の消費行動の根底にもルサンチマンが影響している(販売者は意図的にルサンチマンを創出している)。
Ex.高級ブランドの購入
◆「ペルソナ」
byユング
【意味】
パーソナリティのうち、外界と接している部分
【主張】
人々は普段「仮面」を被って生きている。気をつけるべきなのは、仮面をつけているうちに、仮面と本来の顔の境界が曖昧になることである。
【応用】
かつては、「会社の顔」「家庭の顔」「プライベートの顔」など様々な仮面をかぶることで自分の心地よさを保つことができた。しかし現代では、SNSなどによって情報が横断し、個別の人格を持つことが難しくなった(逃げ場を作りにくくなった)。
◆「自由からの逃走」
byフロム
【意味】
自由に伴う耐えがたい孤独と痛烈な責任から人々が逃れようとすること
【主張】
自由に耐えがたい孤独と痛烈な責任の重さに多くの人々は疲れ果て、その結果ナチズムの全体主義に傾斜することを選んだ。
【応用】
現代におけるキャリア観では、組織からの自由になるという潮流がある。我々は自由に孤独と責任が伴うことを覚悟し、その上で勇気と強さを持って個人の道を歩まなければならない。
◆「報酬」
byスキナー
【意味】
ー
【主張】
人は報酬が不確実に与えられるときに最も行為を強化する(不確実なものほどハマりやすい)
【応用】
人々がギャンブルにハマるのもこれが理由である。また、ソーシャルメディアの「いいね」も不確実な報酬の一種である。
◆「アンガージュマン」
byサルトル
【意味】
自らが主体的に関わることにコミットすること
【主張】
「自分自身の行動」と「世界」にコミットしなければならない。
「自分自身の行動」を主体的に選択し、意思決定に責任を持つ。さらに、世界で起きていることについても(例えば戦争)何かしらの責任を負う。
【応用】
社会や組織の命じるままに行動するのでは意味がない。「自分やこの世界をどうしたいのか」を主体的に考えなければならない。
◆「悪の陳腐さ」
byハンナ・アーレント
【意味】
「悪」は「何か特別なもの」ではなく、ありふれているものから生じる
【主張】
「悪」とはシステムを無批判に受け入れることである。ユダヤ人を迫害し、残虐な行為を行ったもの、ナチスに無批判的に従った凡庸な人々であった。
【応用】
システムを無批判的に受け入れていると、自分も悪の怪物になりうる。
◆「自己実現的人間」
byマズロー
【意味】
人間の欲求のうち最上段に位置する欲求
【主張】
自己実現的人間はいくつかの特徴を持つ。そのうちの一つをあげると、彼らは孤立気味で、ある一部の人とだけ深い関係を作っている。
【応用】
我々は友人は多い方がいいと考える傾向があるが、本当に自立している人はある程度自立しており、周囲の人間に執着しない。
◆「認知的不協和」
byレオン・フィステンガー
【意味】
事実と認知の間に発生する不協和
【主張】
(一般に、行動よりも意思が先行すると考えられるが、)実際には、外部環境によって行動が引き起こされ、その後に行動に合致するように意思が訴求して形成される。事実(取ってしまった行動など)と認知(意思)の間に不協和が発生すると、人は認知の方を改める。
【応用】
認知的不協和は意図的に創出すると、「洗脳」の手段にもなりうる
Cf. 朝鮮戦争時の捕虜となった米軍
◆「権威への服従」
byミルグラム
【意味】
ー
【主張】
人は責任を展開しやすい状況に置かれると権威に服従しやすくなる。
【応用】
大きな組織になるほど責任を転嫁しやすい(官僚制、分業制の組織なら尚更)。自覚も無いままに巨大な悪事に加担してしまう可能性もある。
◆「フロー」
byチクセントミハイ
【意味】
「ゾーン」に入った状態(最高潮に調子がいいとき)
【主張】
フローに入るためには、「挑戦レベル」と「スキルレベル」がともに高い状態にする必要がある。
【応用】
まずは「挑戦レベル」をあげてタスクに取り組む中で、「スキルレベル」も上げていくのが効果的かと。
◆「予告された報酬」
byエドワード・デシ
【意味】
ー
【主張】
報酬を予告されると、創造的に問題を解決する能力は低下してしまう。
(最も少ない努力で、最も多くの報酬を得ようとするから)
【応用】
社員にもっと挑戦させたいと思ったとき、必要なのは報酬を予告することではない。挑戦が許される風土を形成する方がよっぽど効果的である。
3.「組織」に関するコンセプト
◆「マキャベリズム」
byマキャベリ
【意味】
マキャベリが『君主論』の中で述べた、君主としてあるべき態度のこと
【主張】
どんな手段や非道な行為も、結果として国家の利益にを増進させるものであれば許される。
【応用】
リーダーシップには文脈依存性がある。マキャベリは国家存亡の危機に直面した時代を生きていたので、「恐れられる強いリーダー」を理想とした。現代においてはどのようなリーダーが求められるのか、については我々が考え直さなければならない。
◆「悪魔の代弁者」
by J.ミル
【意味】
多数派に対して「あえて」批判や反論をする人
【主張】
意図的にでも批判や反論を投入した方が、精度の高い議論をすることができる。
【応用】
会議でもその他でも、重要な議論こそ悪魔の代弁者を意図的に投入すべきである。
◆「ゲマインシャフトとゲゼルシャフト」
byフェルナンド・テンニース
【意味】
・ゲマインシャフト=地縁や血縁などによる自然発生的なコミュニティ(共同体)
・ゲゼルシャフト=利益や機能によって結びついた人為的なコミュニティ(社会)
【主張】
人間社会が発展していく中で、ゲマインシャフトはゲゼルシャフトへ移行していく
【応用】
今日においては、家庭や会社は解体の傾向にあり、それらに変わる構造を人びとは必要とする。例えばソーシャルメディアがその役割を担っていくだろう。
◆「解凍=混乱=再凍結」
byレヴィン
【意味】
・解凍=今までの様式を変える必要を理解し、そのための準備を整える段階
・混乱=様式が変わって苦しむ段階
・再凍結=新しい様式が定着し、恒常性の感覚が蘇ってきた段階
【主張】
何かを始めるとき、最初の行うべきことは「今までのやり方を終わらせる」ということである。
【応用】
キャリアについても同じことが言える。何かを始めるには今までの仕事にけりをつけなければならない。
◆「カリスマ」
byヴェーバー
【意味】
非日常的な天与の資質を持った者
【主張】
人が支配者に従属する際の拠り所としては以下の3つがある。
①歴史的正当性
②カリスマ性
③合法性
【応用】
実際には、組織のリーダーに「歴史的正当性」や「カリスマ性」を求めることは難しい(希少なため)。かと言って「合法性」に寄るのは、「権限移譲」という近年のトレンドに反することになる。となると、我々にできることは「人工的」にカリスマを育成していくことのみである。
◆「他者の顔」
byレヴィナス
【意味】
分かり合えない者の顔
【主張】
「他者」は自らの気づきの契機である。自分とは異なる視点を持つ他者を学びの契機にすることで、今までの自分とは異なる世界の見方を手に入れることができる。
【応用】
ネットでのコミュニケーションが進む現代においても、他者の顔を見て対話をし続ける努力が必要である。
◆「マタイ効果」
byロバート・キング・マートン
【意味】
利益ー優位性の累積のメカニズム
【主張】
条件に恵まれたものは優れた業績をあげることでさらに条件に恵まれる。
【応用】
学習機械のあり方を考える必要がある。初期段階のパフォーマンスの差異を過大評価せず、長い目で成長の可能性を考えることが大切である。
◆「ナッシュ均衡」
byジョン・ナッシュ
【意味】
ゲームに参加しているどのプレイヤーも他の選択肢を取ることで期待値が向上しない、つまり「均衡」している状態
【主張】
相手との駆け引きにおける最強の戦略は「まず協調し、相手から裏切られない限り協調し続ける。しかし相手が裏切ったら裏切り返す。裏切った相手が協調に戻れば、こちらも協調に戻る。」というものである。
【応用】
他人との関係では、「いい奴だけど売られた喧嘩は買う」という姿勢が最もリターンが大きい。
◆「権力格差」
byホフステード
【意味】
それぞれの組織の制度において、権力の弱いものが、権力が不平等に分布している状態を予期して受け入れている状態
【主張】
権力格差の程度は、文化的風土によって異なる。
【応用】
組織の権力格差は「コンプライアンスの問題」と「イノベーションの問題」に関係する。権力格差が大きい組織では、コンプライアンス違反が起こりやすい/イノベーションが起こりにくい。
◆「反脆弱性」
byナシーム・ニコラス・タレブ
【意味】
外乱や圧力によって、かえってパフォーマンスが高まること。
【主張】
「脆弱」の反対は「頑強」ではなく、「反脆弱」である。「頑強」なものは、衝撃に耐え現状をキープするのに止まるが、「反脆弱」なものは衝撃を糧にする。
【応用】
一般には頑強なキャリアが求められるが、それらは意外と脆いものかもしれない(Ex.大手企業)。VUCAの時代にはとくに柔軟なキャリアが求められることとなるだろう。
4.「社会」に関するコンセプト
◆「疎外」
byマルクス
【意味】
人間が作り出したものが人間から離れてしまい、むしろ人間をコントロールするようになること
(目的とシステムとの間に想定されていた主従関係が逆転し、システムが目的を従属させてしまうこと)
【主張】
資本主義の帰結として、以下4つの疎外が生じる。
①労働生産物からの疎外
②労働からの疎外
③類的疎外
④人間からの疎外
※詳細割愛
【応用】
ルールやシステムで人をコントロールしようとすると、自ずと疎外は生じてしまう。であれば、システムなどの外的なものではなく、理念や価値観などの内的馬もので人々の行動を促した方が適切なのではないか。
◆「リバイアサン」
byホッブズ
【意味】
人々を統制する、巨大な権力
【主張】
権力がなければ、社会では「万人の万人による戦い」になってしまう。社会を構成する人々の自由を保障する唯一の方法は、個人個人の自由と安全を剥奪できるほど強大な権力を中心におき、これに社会を統制させることである。
【応用】
時代によって求められる国家のあり方は変化する。それぞれの時代で国家のあり方は考え続けられるべきである。
◆「一般意志」
byルソー
【意味】
市民全体の意思
【主張】
代議制にも政党政治にもよらない「一般意志に基づいた政治」こそが理想である。
【応用】
集合的な意思決定がうまく機能すれば、その集団の中にいる最も賢い人よりも質の高い意思決定が可能になる、ということは検証済である。これからの時代、テクノロジーを活用して集合的な意思決定が可能になるかもしれない。
(ただし、システムがブラックボックス化する危険は残る。)
◆「神の見えざる手」
byアダム・スミス
【意味】
市場による調整機能
【主張】
市場全体の取引量は「神の見えざる手」によって中長期的に最大化される。
※理論的に設定されたオプティマルな価格より、自然にならされていくプラグマティックな価格の方が妥当性がある。
【応用】
問題解決においても、オプティマルな解答には限界がある。全ての正解を導けると考えるのは知的傲慢であり、時には「成り行きに任せる」という姿勢も必要である。
◆「自然淘汰」
byダーウィン
【意味】
生物の進化のあり方
【主張】
生物の個体には「突然変異」が生じ、その一部は「遺伝」し、生存に有利なものは「自然選択」として残っていく。
【応用】
自然淘汰のメカニズムには「エラー」が必須の要素として組み込まれているものである。完璧な計画を立ててそれを遂行するだけ、よりも「ポジティブな偶発性」が起きやすい仕組みを作った方が結果的に高い成果が生まれやすい。
◆「アノミー」
byエミール・デゥルケーム
【意味】
人々の連帯が無くなっていくこと
【主張】
分業が過度に進展する近代社会では、機能を統合する相互作用の営みが欠如し、共通の規範が育たない。社会の規則が緩んでも、個人は必ずしも自由にはならず、かえって不安定な状況に陥る。
【応用】
社会の「アノミー化」を防ぐためには、新たなコミュニティのあり方を模索する必要がある。組織は短命化していることを鑑みると、予め複数のコミュニティに属する方が賢明であろう。
◆「贈与」
byマルセル・モース
【意味】
【主張】
贈与には3つの義務がある。「贈与する義務」「受け取る義務」「返礼する義務」である。近代以降の社会では、贈与という習慣を失ってしまったために、経済システムから人間性を失ってしまった。
【応用】
人の経済活動を評価する仕組みには「労働価値説」と「効用価値説」の2つがあるが、「贈与」はこのどちらにも含まれない。現代の経済活動の仕組みは普遍的なものではないのである。
◆「第二の性」
byシモーヌ・ド・バーヴォワール
【意味】
ー
【主張】
人は女に生まれるのではなく、社会的な要請の結果として女になるのだ。
【応用】
日本は先進国の中でも特にジェンダーバイアスの強い国である。まずはそのことを認識しなければならない。
◆「パラノとスキゾ」
byジル・ドゥルーズ
【意味】
・パラノ=アイデンティティに偏執するタイプ
・スキゾ=アイデンティティを分散させるタイプ
【主張】
パラノ型は自分のアイデンティティに固執して一貫性を重要視する。スキゾ型は自分のアイデンティティに縛られることなく直感で行動する。
【応用】
パラノ型は環境変化に弱い。VUCAの時代に求められるのは、柔軟性と勇気を持ったスキゾ型の人間である。
◆「格差」
byセルジュ・モスコヴィッシ
【意味】
ー
【主張】
格差や差別というものは、「異質性」では無く「同質性」が高いからこそ生まれるものである。同質性が前提とされるからこそ、そこ生じた小さな格差が大きなストレスにつながるのである。
【応用】
「公正な組織」「公正な社会」において下層に位置づけられた人々は逃げ道がない(公正な評価で下になっている…)。「公正な組織」「公正な社会」が本当に理想の形なのか、については一度踏みとどまって考えなければならない。
◆「パノプティコン」
byミシェル・フーコー
【意味】
円周上に配置された独房と中心に配置された監視所からなる刑務所のこと。効果的に監視する仕組み。
【主張】
人を抑制するのは、「実際に監視されている状態」よりも「監視されているという心理的抑圧」である。現代では、「監視されているという心理的圧力」は独房に限らず社会に広がっている。特に、法律などの「外部の制度」よりも「道徳や倫理」の方が人々を強く支配する。
【応用】
個人の自由を制約するような心理的圧力は、意図せずとも生じてしまいうる。そのような圧力がかかった組織ではイノベージョンは起こりにくい。
◆「差異的消費」
byボードリヤール
【意味】
消費とは「私とあなたは違う」という「記号」を交換するものである
【主張】
我々の持つ「欲求」は個人的・内発的なものとしては説明できなず、もっと「社会的」なものなのである。どればどれだけ無意識的でも、「それを選んだ&他を選ばなかった」ということで記号は生まれるので、この窮屈さからは逃れられない。
【応用】
マーケティングにおける市場の創造・拡大には、「差異の総計の最大化」がポイントとなる。
◆「公正社会仮説」
byメルビン・ラーナー
【意味】
「世界は公正であるべきだし、実際にそうだ」という考え方
【主張】
公正世界仮説からは問題も生じうる。努力が報われなかった時に、社会や組織を逆恨みしてしまう可能性があるからである。また、前提として「努力した人は成功に値する」と考えるので、逆に不幸な人を見ても「自業自得」だと切り捨ててしまう可能性がある。
【応用】
公正な世界を目指すことは間違ってはいないが、一歩間違えると考え方を歪めてしまいかねない。
5.「思考」に関するコンセプト
◆「無知の知」
byソクラテス
【意味】
「知らないということを知っている」状態
【主張】
達人への道は以下の4段階を経る
①知らないことを知らない
②知らないことを知っている(☆ここから学びの意欲が生まれる)
③知っていることを知っている
④知っていることを知らない(=無意識に知っている)
【応用】
Cf.「U理論」における4つのレベル
①自分の枠内の視点で考える
②視点が自分の周囲との境界にある
③自分の外に視点がある
④自由な視点
◆「イデア」
byプラトン
【意味】
想像上の理想系(現実の物より上位にある概念)
【主張】
現実のものは、イデアの劣化版コピーに過ぎない
【応用】
一般的な概念(≒イデア)を目に見える形で定義するのは難しい。AIの学習nおいても、一つの定義を教えることは難しいので、現在は経験学習という仕組みが取られている。
◆「イドラ」
byフランシス・ベーコン
【意味】
人間に生じる誤解
【主張】
この世には4つのイドラがある。
①種族のイドラ…自然性質によるもの
②洞窟のイドラ…個人経験によるもの
③市場のイドラ…伝聞によるもの
④劇場のイドラ…権威によるもの
※詳細割愛
【応用】
自分の意見や他人の意見に対峙する際には、それらが「イドラ」によって歪められていないか、を考える必要がある。
◆「コギト」
byデカルト
【意味】
「コギト・エルゴ・スム」=「我思う、故に我あり」
【主張】
存在の確かなものなどない。しかし、ここに全てを疑っている私の精神があることだけは疑いえない。
【応用】
社会における支配的な枠組みを取り払い、常に「本当にそうなのか」と自分の頭で考えなければならない。
◆「弁証法」
byヘーゲル
【意味】
真理に至るまでの方法論。
対立する考えをぶつけることでアイデアを発展させる。
【主張】
以下のようにしてアイデアを発展させる。
①命題A(テーゼ)を提示する
②Aと矛盾する命題B(アンチテーゼ)を提示する
③AとBの矛盾を解決する統合された命題C(ジンテーゼ)を提示する
【応用】
議論をする際には、AかBかという二項対立にとどまらず、そこからさらに螺旋的に発展させた結論を求めるべきである。そうすることで新たなアイデアも浮かびやすくなる。
◆「シニフィアンとシニフィエ」
byソシュール
【意味】
・シニフィアン=概念を示す言葉
・シニフィエ=言葉によって示される概念そのもの
【主張】
言語が違うということは、概念を整理する仕組みがそもそも異なっているということである。自由に思考しているつもりでも、それは不可避的に言語という構造の影響を受けている。
Cf.構造主義
【応用】
言語によって概念が細分化されるのであれば、より言語に豊かな方が世界を細分化して把握できるということである。目の前に起こっていることをより正確に理解するためにも、広く教養(言語)を身に付けた方が良い。
◆「エポケー」
byフッサール
【意味】
わかったつもりにならないで、判断を留保すること
【主張】
我々が「客観的に把握している」と考えることは、あくまで主観的にそう考えているに過ぎない。だからこそ、ある物事を捉えるときには早急に「わかった」気にならず、一度留保しなければならないのである。
【応用】
相手との間に相互理解が成立しない時、相手と自分との間には見えている世界に「齟齬」が生じている可能性がある。
◆「反証可能性」
byカール・ポパー
【意味】
提案されている命題や仮説が、実験や観察によって反証される可能性があること
【主張】
「科学的である」ということは、反証可能性があるということである。
【応用】
「科学的に検証されている」と自らの意見を補強する人がいるが、それは必ずしも正しいということの裏付けにはならない。
◆「ブリコラージュ」
byレヴィ=ストロース
【意味】
「何の役に立つかわからないけど、何となく意味がある気がする」という直感
【主張】
あり合わせのよくわからないものを非予定調和的に収集いておき、いざという時に役立てる能力は不思議であるが有効である。
【応用】
偉大なイノベーションの多くも、非予定調和的な直感に導かれて誕生している。
◆「パラダイムシフト」
byトーマス・クーン
【意味】
一時的にモデルを与えるような科学的業績が、新しいものへの代替わりすること
【主張】
どんなパラダイムにも優れた説得力があり、その時代に問われる難問のほとんどに対して答えることができる…にも関わらず根本的に間違っている可能性がある。
【応用】
「パラダイムシフト」は画期的な発明によって一瞬で起こるかのように表現されることも多いが、実際にはそんなことはない。イノベージョンの普及も、数百年をかけて広がっていくのである。
◆「脱構築」
byジャック・デリタ
【意味】
二項対立の構造を崩すこと
【主張】
「優・劣」の枠組み自体が持つ矛盾性を明らかにすることで、過去の枠組みから「脱」し、新たな枠組みの「構築」を目指す
【応用】
議論において「そもそもAなのかBなのかという問題設定自体がおかしいのではないか」と疑ってみる。このように枠組みに囚われない視点を持つことで視野を広げることができる。
◆「未来予測」
byアラン・ケイ
【意味】
ー
【主張】
予測は外れる。未来というものは、予測するよりもむしろそれをビジョンとして思い描くべきものである。
【応用】
優秀なコンサルタントでも未来を正確に予測することはできない。予測は外れるのが当たり前だということを忘れてはならない。
◆「ソマティック・マーカー」
byアントニオ・ダマシオ
【意味】
・ソマティック=身体
・マーカー=イメージをマークする感情
【主張】
情報に接触することで呼び起こされる感情や身体的反応が、脳に影響を与えることで、目の前の情報についての「良し悪し」の判断を助け、意思決定の効率を高める。
【応用】
社会が複雑化する中で、論理的な意思決定は難しくなっている。そのような中でこそ直感的な判断がより重要になってくる。