『人材業界の未来シナリオ』
2019/11/5
vol.8
『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』
黒田真行 佐藤雄佑 著
本書では、日本における人材業界、特に中途採用ビジネスの変遷について述べられている。そのうえで、今後のリクルーティングサービスの変化についての予測も添えられている。中途採用市場を客観的にとらえるための1冊にしてほしい。
~Topics~
1.採用市場と取り巻く全体像
2.ビジネスモデルの変遷
3.ビジネスの新潮流
4.未来シナリオ
5.まとめ
1.採用市場と取り巻く全体像
ここ20年間、人口構造の変化や産業構造の変化を背景として、各業界において幾何級数的な変化が起こってきた。しかしながら、人材業界においては大きな変化が起こっていない。外部環境がこれほどまでに変化しているにも関わらず、リクルーティングサービスの基本モデルは「人材紹介」と「求人媒体」の2軸のままである。
しかし、まさに今、人材業界は変化のタイミングを迎えている。特にここから10年でリクルーティングサービスは大きく変化していくと予想する。
以下、人材業界の変遷を辿り、現在の状況を捉え、そしてこの先10年の変化を予測していく。
2.ビジネスモデルの変遷
リクルーティングビジネスの基本構造は『リボン図モデル』と呼ばれる。求職者と企業の両方に対して、それぞれニーズを喚起し、プラットフォームに集めて、双方をマッチングするモデルである。
この構造において成果を上げるためには、「求職者価値向上」と「企業価値向上」を考え、付加価値を提供していくことが求められる。
以下、1960年代以降のビジネスモデルの変遷をたどる。
⑴1970年以前のビジネスモデル
◆人材紹介
①ハローワーク
└無料・対面
② <new>ヘッドハンティング
└有料・非対面
☆企業にフィットした人材を紹介してもらえる=効率よく採用できる(企業価値向上)
◆求人広告
①求人掲示(張り紙)
└無料・ターゲット少
②<new>求人広告~新聞・チラシ~
└有料・ターゲット多
☆不特定多数の人にリーチすることができる(企業価値向上)
⑵1970年代のビジネスモデル
◆人材紹介
①ヘッドハンティング
└前課金・非登録制
②<new>成功報酬型人材紹介
└成功報酬・登録制
☆前金リスクを解消(企業価値向上)
◆求人広告
①求人広告~新聞・チラシ~
└多数・非求人情報特化
②<new>求人情報誌
└多数・求人情報特化
☆転職しようとしている人にリーチできる(企業価値向上)
☆集約された情報を見ることができる(求職者価値向上)
⑶1980年代のビジネスモデル
◆人材紹介
※人材紹介のモデルでは大きな変化無し
◆求人広告
①求人広告~新聞・チラシ~
└総合的・非求人情報特化
②求人情報誌
└総合的・求人情報特化
③<new>セグメント特化型求人情報誌
└セグメント特化
☆より絞られたターゲットにリーチできる(企業価値向上)
☆より集約された情報を見れる(求職者価値向上)
⑷1990年代のビジネスモデル
◆人材紹介
※人材紹介のモデルでは大きな変化無し
◆求人広告
①求人媒体~新聞・チラシ~
└紙媒体・非求人情報特化
②求人情報誌
└紙媒体・求人情報特化
③<new>ネット求人広告
└WEB・求人情報特化
☆より多くの情報を掲載できるようになる(企業価値向上)
☆閲覧が無料になる&情報の検索性が向上する(求職者価値向上)
◆DB
①<new>DBスカウト
☆能動的にアプローチする、攻めの採用活動が可能になる(企業価値向上)
⑸2000年代のビジネスモデル
◆人材紹介
①ヘッドハンティング
└前課金・セグメント特化型
②成功報酬型人材紹介
└成功報酬・非セグメント特化型
③<new>セグメント特化型人材紹介
└成功報酬・セグメント特化型
☆より専門特化した情報提供が可能になる(企業価値向上・求職者価値向上)
◆求人広告
①ネット求人広告
└前課金・総合型
②<セグメント特化型かつ前課金型求人広告
└前課金・セグメント特化型
③セグメント特化型かつ成功報酬型求人広告
└成功報酬・セグメント特化型
◆DB
①DBスカウト
└能動的・総合型
②<new>セグメント特化型DBスカウト
└能動的・セグメント特化型
☆マッチング制度が向上する(企業価値向上・求職者価値向上)
上記のように、リクルーティングサービスは、「企業価値」と「求職者価値」の向上に向けて、業界に新しい競争軸を持ち込み、新しいビジネスモデルを作ってきた。
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◇2010年代のビジネスモデル
2010年代に入ってから、今までのビジネスモデルの概念を変えるようなアプローチが登場し始めた。
①既存ビジネスモデル×転職顕在層
・ネット求人広告
・DBスカウト
・人材紹介
②既存ビジネスモデル×転職潜在層
・ヘッドハンティング
③新規ビジネスモデル×転職顕在層
・<new>アグリケーション型求人検索
④新規ビジネスモデル×転職潜在層
・<new>ソーシャルリクルーティング
2010年代に登場してきた新たなビジネスモデルについては、3章で述べる。
3.ビジネスの新潮流
ここでは、2010年代に登場してきた新たなビジネスモデルとして、「ソーシャルリクルーティング」サービスと「アグリゲーション型求人検索」サービスについて述べる。
人材業界には他業界と比較したときにユニークな特徴がある。それは「コストリーダーシップ」、すなわち低価格競争に出る企業が無かったということである。
背景としては、扱っているものが「人材」であるというところが起因していると考えられる。塞翁においては、いくらコストが低いといってもだれでも採用しようとはならない。その後のコストを考えると、採用に失敗したときの方が大きなダメージを受けるからである。そのため、従来のサービスは、価格を下げるのではなく、「サービスクオリティ向上」という形で競争をしてきた。
しかし、ここにきて、従来のビジネスモデルの空白地帯を埋める形で「ソーシャルリクルーティング」サービスと「アグリゲーション型求人検索」サービスが登場してきた。
<ソーシャルリクルーティングサービス>
「ソーシャルリクルーティングサービス」としては、主に次の2つのモデルがある。
①SNS拡散型求人PRサイト
└SNSを通して求人を拡散する Ex.Wantedly
☆転職顕在層だけでなく、転職潜在層にもリーチできる
☆ビジョンや社風を表現しやすい
☆採用成功した場合に費用対効果が高い
②ビジネスSNS
└ビジネスSNS上で、企業から直接スカウトする Ex.LinkdIn
☆転職顕在層だけでなく、転職潜在層にもアプローチできる
☆ハイクラス層の採用に親和性あり
<アグリゲーション型求人検索>
「アグリゲーション型求人検索」サービスとは、インターネット上のあらゆる求人情報をクローリングして、求人情報をワンストップで提供するサービスを指す。
その代表が『indeed』である。『indeed』は現在、世界60か国、28言語に対応しており、84万人以上(2019年9月時点)の求人を有している。
以下に『indeed』の特徴をまとめる。
①求人情報をワンストップで見ることができる
└求職者にとっては、インターネット上にある求人情報をワンストップで見ることができる
└企業にとっては、自主求人に関連するキーワードを入力した人に対してだけ効率的に表示されるため無駄がなくなる
②世界トップレベルのSEO技術で支えられている
└膨大な求人情報×高いSEO技術により、求人検索時にほぼ『indeed』が上位表示されるようになっている
③料金はクリック課金
└月額上限やクリック単価を自由に設定することができる
上記の特徴から、『indeed』は「転職顕在層」に「楽に」、「安く」アプローチできる採用チャネルであるといえる。これはまさに企業が求める3拍子であり、このチャネルで良い人材が採用できるのであれば、従来のサービスは無力化することになる。
すでに現在、『indeed』の求人数は圧倒的な数字となっており、求職者が仕事を探そうとしたときには、最初にランディングするページが求人広告サイトや人材紹介サイトではなく『indeed』になっている。そうなると、求人広告も人材紹介も直接の集客が難しくなり、『indeed』からの送客に頼らざるを得ない状況に陥ることになる。
これらの新たなビジネスモデルの登場を踏まえて、今後のリクルーティングビジネスがどのように変化していくのかについて以下で述べる。
4.未来シナリオ
ここでは、10年後(2030年頃)のリクルーティングビジネスについて考えていく。
企業にとって、リクルーティングサービスに求めるものは、「優秀な人材」・「楽に」・「安く」の3点であり、このニーズを満たせるかどうかが、リクルーティングビジネスにおける最重要指標となる。
一方、求職者は、価値観や志向性がますます多様化していく。そういった多様なニーズに応えることのできるサービスが今後も生き残っていくこととなる。
企業のニーズと求職者のニーズを踏まえて、今後10年間におけるリクルーティングビジネスの基本構想(予測)を以下にまとめる。
1.
ファーストチョイスは「アグリゲーション型求人検索」になり、企業と求職者がダイレクトに繋がっていく時代になる
└企業ニーズの「楽に」・「安く」を満たす&豊富な情報が求職者の多様なニーズに応えられるため
2.
「ソーシャルリクルーティング」や「リファラルリクルーティング」といった関係性の濃い手法が併用されていく
└企業ニーズの「優秀な人材」・「安く」を満たす&各求職者のニーズに深くマッチするため。
3.上記でカバーできないハイレイヤー領域、難易度や希少性の高い領域については、その領域専門の「人材紹介」が活用される
└高い要望に応えられる人材紹介会社のみが生き残っていく
4.「求人広告」は、かなり厳しい環境にさらされる
└付加価値のあるサービスのみが生き残っていく
5.まとめ
産業構造の変化やテクノロジー技術の進化によって、人々の働き方はますます多様化する。それに伴って、企業のニーズも求職者のニーズもますます多様化していく。
その中で、リクルーティングビジネスは大きく変化しなければならない局面を迎えているといえる。
今までは大きな変化が起こらなかった人材業界だが、今後はより柔軟にビジネスモデルを適応させ、雇用領域において新たな価値を提供し続けていってほしい。