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『チャレンジャー・セールス・モデル』

2019/10/27
vol.7
『チャレンジャー・セールス・モデル』
マシュー・ディクソン&ブラント・アダムソン

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 ほとんどの世の中の販売員は、本書で紹介する5つのタイプに分けられる。その中で高いパフォーマンスを継続的に発揮できるのは「チャレンジャー」だけである。しかし、他のタイプの販売員であっても、正しい理論と実践法を身に付ければ「チャレンジャー」になることはできる。
 以下、「チャレンジャー」の特徴だけでなく、「チャレンジャー」になるための実践法についても述べていく。

~Topics~
1.ソリューション営業の進化
2.「チャレンジャーセールス」とは
3.差別化のための「①指導」
4.共感を得るための「②適応」
5.営業プロセスの「③支配」
6.まとめ

1.ソリューション営業の進化

 今から20年ほど前、営業スタイルの主流は「ソリューション営業」であった。しかし、ソリューション営業が進化し、もっと大きくて複雑、効果かつ破壊的な「ソリューション」を売り始めたのに伴い、買い手のB2B顧客は、これまでになく手ごわくなってきた。購買の在り方は大きく変化し、その結果、伝統ある営業テクニックが通用しなくなってきた。

 顧客の購買行動が大きく変化した現代においては、それにあわせて営業アプローチを進化させなければならない。

 これからの時代に勝ち残るためには、リスクを回避して買い渋る顧客に対して、新たな需要を引き起こす力を身に付けなければならない。


2.「チャレンジャーセールス」とは

 調査の結果、世界中のほとんどの販売員は、以下の5つのタイプに分けられることが判明した。

◆ハードワーカー(勤勉タイプ)
<特徴>
・朝早く出勤し、夜遅くまで居残り、常にもうひと頑張りを惜しまない
・自発性に富み、簡単にはあきらめない
・正しいことを正しくやれば結果がついてくると信じている

◆リレーションシップ・ビルダー(関係構築タイプ)
<特徴>
・顧客の組織と強力な関係を築き、顧客のあちこちに賛同者を確保する
・時間を惜しまず働き、顧客のニーズに応えようとする
・親しみやすさとサービス精神が売りである

◆ローンウルフ(一匹狼タイプ)
<特徴>
・自信家なので、ルールよりも自分の直観に従う
・「気難し家」で、思い通りに行動できないくらいなら何もしない
・ルールやシステムを馬鹿にするくせに成績は良い

◆リアクティブ・プロブレムソルバー(受動的な問題解決タイプ)
<特徴>
・細部に目を配り、信頼される
・営業過程でした約束は、すべて守る
・販売後のフォロ―を重視し、サービスの実行に伴う問題には迅速かつ徹底的に対応する

◆チャレンジャー(論客タイプ)

<特徴>
・顧客のビジネスを深く理解しており、その理解をもとに顧客の考え方に強く働きかけ、顧客企業の競合力アップについて指導する
・論議を呼び起こしそうな見解であっても臆することなく披露する
・自分の考えを強く押し出し、価格設定のような事についても自己主張する
・自社の上司に対しても押し出しが強い

次に、平均的パフォーマー/ハイパフォーマーにおける各タイプの割合を示す。


<平均的なパフォーマー>
・関係構築:26%
・チャレンジャー:23%
・勤勉:22%
・一匹狼:15%
・受動的な問題解決:14%

<ハイパフォーマー>
・チャレンジャー:39%
・一匹狼:25%
・勤勉:17%
・受動的な問題解決:12%
・関係構築:7%

上記からわかることは、以下2点である。
①平均的なパフォーマーの比率には、そこまで大きな差はない
└どのタイプにも存在し、どのタイプでも平均的な成績をあげていた
②ハイパフォーマーの比率には、大きな差がある
「チャレンジャー」が突出している

 調査を通じて、「チャレンジャー」の特徴は以下のように分類できることがわかった。

<Point>

①指導

・顧客のビジネスについて独自の視点を持ち、双方向の対話能力に長けている
・営業上のやり取りの中で差別化ポイントを指導することができる

②適応
・顧客のバリュードライバーや経済ドライバーをは合うしている
・顧客の組織の正しい人に正しいメッセージを伝え、共感を得られるよう適応することができる

③支配
・お金の話をいとわず、必要とあれば顧客に多少の無理強いができる
・主導権を握り、営業プロセスを支配することができる

※上記の特徴について、ハイパフォーマーが多い「チャレンジャー」タイプとハイパフォーマーが少ない「関係構築」タイプとで比較すると、ほぼ正反対の行動を取っていることがわかる。

①指導
・「チャレンジャー」
└安全地帯から引っ張り出す
・「関係構築」
└安全地帯に入り込み、好かれ、関係を構築する

②適応
・「チャレンジャー」
└顧客の価値を重んじる
・「関係構築」
└顧客の利便性を重んじる

③支配
・「チャレンジャー」
└建設的な緊張感をある程度保つことで、勝利を得る
・「関係構築」
└緊張関係を解こうとする

 複雑化するこれからの営業において、販売員は、ビジネスの新しい見方を顧客に提示し、自分たちのビジネスについて違う発想をしてもらわなければならない。そして、顧客に価値を感じてもらい、さらには行動を変えてもらわなければならない。
 価値重視の営業アプローチを目指すのであれば、「チャレンジャー」タイプの販売員が絶対に必要になる。
 
 以下、「チャレンジャー」の特徴3点(指導、適応、支配)について詳細に述べる。

3.差別化のための「①指導」

★Key
「指導」
ビジネスやニーズに関する顧客の考え方を変えるようなインサイト(知見)を提供する

 チャレンジャーは市場での戦い方について、新しく有益な教えを、顧客に授けることができる。インサイトを提供し、顧客が気付いていない問題について教え、関心を惹きつけ、顧客の方針を転換させることもできる。

 「指導」の重要性を示すものとして、「ロイヤルティ促進要因における営業活動の位置づけ」の調査結果がある。
 調査の結果、ロイヤルティ促進要因において「営業活動」が占める割合は53%であった。「何を売るか」ではなく「いかに売るか」が重要であることを顕著に示している。

 そのような「営業体験」の中でも特に重視された項目が以下である。

・市場に関する独自の価値ある視点を提供してくれる
・様々な選択肢を検討する助けになる
・継続的なアドバイスを提供してくれる
・「地雷」を避けるのに役立つ
・新しい問題や結果について教えてくれる

 この結果から読み取れるのは、「顧客は何かを買いたいのではなく、何かを知りたいのだ」ということである。となれば、営業活動において「指導」が重要になることは明らかである。

 顧客のビジネスの直結する指導を『商談直結型の指導』と呼ぶことにする。
 以下にその基準をまとめる。

⑴自社ならではの強みにつながる
└顧客が望むインサイトを伝授すると同時に、そのインサイトを自分ならではのソリューショント結びつける
※そのためには、自社の独自のベネフィットを理解しておく必要がある

⑵顧客の仮説を覆す

└顧客の仮説を疑い、彼らが知らない新しい世界観を示す(再構成する)

⑶行動を促す

└なぜその行動・実行が重要なのかという、説得力のあるデータを示し、実際に行動を起こさせる

⑷他の顧客への拡張性がある
└ニーズや行動によって顧客を分類し(not 業種、会社規模、地域)、他の顧客へも拡張する

 「指導」においてポイントとなるのは、「理性」と「感情」という脳の両面に働きかけることである。
 以下が具体的なトークの流れとなる。

⑴地ならし
・顧客の心を読み、共感を示すことで信頼を築く

⑵再構成
・認識されていない問題、ニーズ、仮説をまず再構成する

⑶裏付け
・問題の大きさに気付かせ、顧客の当事者意識を徐々に高める

⑷心をゆさぶる
・問題の心理的な特徴を強調し、人間らしさを付与し、個人のワークフローに影響を及ぼす

⑸提供価値:新しい方法の提示
・サプライヤーの価値にそれとなく結びついた問題解決の新しい枠組みを提示

⑹ソリューションおよび実行マップの提案
・主な指導ポイントに関わる売り手のサービス一覧を示し、実行への手順を強調する

 顧客の貴重な時間をもらって直接向き合う以上、販売員は彼らにとって価値ある話をしなければならない。そのためには自社についても顧客についても理解を深め、「指導」できるほどのトークを準備、披露しなければならないのである。

4.共感を得るための「②適応」

★Key
「適応」
顧客の置かれた状況に即して営業メッセージを伝達する

 営業活動における「適応」の重要性については、「意思決定者のロイヤルティ促進要因」に関する調査結果が物語っている。
 調査の結果、意思決定者が契約時に気に掛ける一番のポイントは「サプライヤーに対するわが社の広い支持(社内支持)」であった。
 
 従来の営業では、「意思決定者に支持してもらうこと」を最優先事項にしてきた。しかし、今回の調査結果によれば、そのようなアプローチでは成約には至らないことになる。
 これからの営業で必要なのは、むしろ「間接的なアプローチ」、つまり、顧客企業のキーパーソンをもれなく探してコンセンサスを獲得し、幅広い支持を調達して、意思決定者の承諾を後押しすること、となる。

 となると、販売員は顧客企業にいる様々な人物と対話をすることになる。
その中で、チャレンジャーは以下2点を理解したうえで、各人物に合わせてメッセージを適応させる。

⑴価値向上要因
└個々のステークホルダーの価値向上要因に関する理解

⑵業績促進要因
└その人の業績促進要因に対する理解

 顧客企業の各人物が持っている「意思決定基準」や「重視ポイント」、「関心事」といったポイントを押さえ、適切にメッセージングすることで、幅広くコンセンサスを獲得していく。そして、最終的には意思決定者にアプローチし、契約を勝ち取る。

5.営業プロセスの「③支配」

★Key
「支配」

堂々と(しかし強引にならずに)目標を目指し、顧客のリスク回避を克服する

 「支配」とは、顧客の抵抗にあっても一歩も引かないでいられるということである。
具体的には、以下のような行動を通して営業活動を「支配」する。


・お金の話について、主導権を握ることができる
└価格ではなく価値に関する合意を求め、時には「無理強い」もできる

・営業プロセスの初めから終わりまで勢いを持続できる
└顧客の考え方に異を唱え、顧客の意思決定サイクルに圧力をかけることができる

 上記を実践するために、チャレンジャーは、顧客から得るべき情報について事前に考え、それらの情報を得るためにすべき質問を具体的に準備しておく。また、顧客が知りたがるであろう情報を事前に準備しておく。同時に、想定される反論を考え、対応策を練る。最後に、顧客に提案できる譲歩策と、顧客に要求する譲歩策を分析する。

 「支配」を実践する際のポイントは「力強い要請」である。力強く要請すると、「この販売員は話を前進させるために来たのだな」と感じてもらうことができる。受動的に話をまとめるのではなく、方向性を明確にしたうえで、価値訴求をする。

6.まとめ

 現代の営業活動において顧客が望んでいるのは、「有益なインサイトを提供してもらうこと」である。 
 「チャレンジャー・セールス・モデル」は、従来の「御用聞き営業」を脱却し、信頼できるアドバイザーへと進化し、より大きな価値提供を実現するための方法である。「チャレンジャー」はどんな経済環境の中にあっても、継続的に成果を出し、顧客に価値を提供し続けることができる。
 是非本書で提唱された理論と実践法を、日々の営業活動に役立てて頂きたい。