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『ダークサイド・スキル』

2019/12/15
vol.15
『ダークサイド・スキル』
木村尚敬 著

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~Topics~
1.はじめに
2.ダークサイド・スキルとは
3.7つのダークサイド・スキル
4.まとめ

1.はじめに

 21世紀に入ってから、世界中で同時多発的に大きな変化が起こっている。そのような時代に、日本の企業が勝ち抜いていくためには、会社側も非連続的な進化をしていかなければならない。
 しかし、多くの日本企業には何十年前から続く価値観が根底に残り続けている。このままでは、日本企業の将来は危うい。

 本書の目的は、日本企業のミドルリーダー達にエールを送ることである。ミドルリーダー達が古くて大きな会社を改革するために必要なスキルを提示することである。
(※会社のトップが一次情報で見えているのは現場の半分程度で、残りはミドルから上がってくる二次情報をもとに判断している。となると、現場ともトップともつながっているミドルの判断が経営判断に大きな影響を与えることになる。→本書はミドルに着目している。)
 以下に紹介するダークサイド・スキルは、ミドルリーダーが身に付け、この先5年10年を勝ち抜く会社を創っていくためのヒントとなるはずである。


2.ダークサイド・スキルとは

 ビジネスにおいて必要となるスキルは、以下のように大きく2つに分けることができる。

★Point
~ビジネスにおけるスキル~

◇「ブライトサイド・スキル」
Ex.
・ロジカルシンキング
・プレゼンスキル
・財務会計知識

◆「ダークサイド・スキル」
Ex.
・人や組織を思うまま動かす力
・空気を支配する力
・使える人を正しく使う力

※目立つ能力と比べると、日陰の存在というべき能力なので「ダークサイド」と名付けた次第。

 これからの日本企業に求められるのは、生ぬるい「改善」ではなく、思い切った「改革」である。きれいごとだけでは、生身の人間を説得し、古くて大きな組織を動かしていくことはできない。「改革」の実現のためには、もっと人間臭い「ダークサイド・スキル」が必要不可欠となる。

 以下に7つのダークサイド・スキルについて具体的に提示していく。

3.7つのダークサイド・スキル

 以下に7つのダークサイド・スキルを提示する。これらを習得し、組織の変革に活用してほしい。

★Point
~7つのダークサイド・スキル~

⑴思うように上司を操れ
⑵KYなやつを優先しろ
⑶「使えるやつ」を手なずけろ
⑷堂々と嫌われろ
⑸煩悩に溺れず、欲に溺れろ
⑹踏み絵から逃げるな
⑺部下に使われて、使いこなせ

⑴思うように上司を操れ

 日本企業(サラリーマン型)のトップの多くは、おそらく10年以内には代替わりしている。となると、トップは会社の長期的な経営にまで関心が及びにくい。一方で、ミドルリーダー達はトップよりも長く在籍することが多いので、長期的な展望を持たないと自分たちがしっぺ返しを食らうはめになる。

 おそらく多くのミドルは、自分の立場や事業を守るために、情報を丸めて報告している。その結果、トップが正しく経営判断をすることができず、最終的に玉砕してしまうことも起こりうる。
 しかし、自分の会社(&自分)が長期的に生き残っていくためには、ミドルは正しい情報を正しく上司やトップに挙げ、トップを正しい方向に動かしていかなければならない。たとえ自分たちにとって不利な情報でも、現状を正しく理解し、実情を伝えなければならない。「調整・根回し・段取り」を駆使しながら、上司を思いのままに操るくらいの心意気が必要だ。
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⑵KYなやつを優先しろ

 会社が生き残っていくためには、さまざまなアイデアが生まれるように「多様性」を持たせることが必要となる。しかし、組織というものは、放っておくと心地いい「同質性」の世界に留まろう/戻ろうとしてしまう。
 ここで、現場を預かるミドルリーダーが、いかに「多様性」を持たせられるか、がポイントとなってくる。

 そのためには、組織の中に、他とは違う意見を言える人をどれだけ増やせるか=KYな人間をどれだけ許容できるか、ということが重要になってくる。(良い意味での)KYな人間を増やすためには、ミドルリーダーが常に「改革」を目指す姿勢を示しつつ、実際に上がってきたKYな発言に耳を貸すことで、多様性を受け入れる文化を醸成していかなければならない。
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⑶「使えるやつ」を手なずけろ

 ミドルリーダーには経験豊富な方が多いはずだが、それでも全知全能の神にはなれない。そこで、ミドルが取るべき戦略は「借り物競争」である。役に立つ人を全て使って総合力で勝負するのである。

 効果的に人を集めるためには、会社の中に自分なりの「神経回路」を持っておく必要がある。この情報がどこの誰から取ってくればいいのか、自分の情報網が組織の中にどれだけ太く張り巡らされているか。この神経回路が太い人は戦いに勝利できる可能性が高い。
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⑷堂々と嫌われろ

 ミドルリーダーと現場とでは、時間軸が異なっている(ミドルの方が先を見ている)。ミドルリーダーが少し先を見据えて正しい意思決定をした場合でも、一時的に現場から嫌われることはどうしても起こりうる。しかし、現場を預かるミドルリーダーが、嫌われることをいとわず、まだ問題が小さい段階で、こまめに新賃代謝をしておくことが、中長期的には極めて重要となる。

 リーダーは時に嫌われることを覚悟の上で意思決定をしなければならない。そのためには、部下との適度な距離を保つことも必要である。「親近感」を求めすぎず、適度な「畏敬の念」や「緊張感」を保たなければならない。
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⑸煩悩に溺れず、欲に溺れろ

 物事について意思決定をする際、最後の最後にものを言うのは自分の価値観である。限られた情報をもとにブレない意思決定をするためには、自分がよって立つ価値観を自分が理解していなければならない。

 なお、自分の根底にある価値観は、恥ずかしがらずに日頃からチームメンバーと共有しておくべきである。そうすると、いざというときにメンバーは自分と同じベクトルを向いてくれるからである。

 価値観に基づく前向きの願望を「欲」とし、もっと心の闇の部分にある下世話な欲望を「煩悩」とする。この煩悩についても、自分でしっかり自覚しておく必要がある。人を率いる立場にあるからには、どうすれば煩悩が暴れないか、コントロールする方法を持っておく。
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⑹踏み絵から逃げるな

 「踏み絵」は、自分の信念が試される瞬間を指す。いざというときに、自分の価値観と違わぬ選択をし続けられるか、リーダーの覚悟が問われる瞬間というのは必ずやってくるものである。そして、そのときに自分の信念を貫けるかどうかが、部下の信頼を勝ち取れるかどうかの境目である。

 ビジネスには、きれいごとで商売できる表の世界と、殺るか殺られるかの真剣勝負で手段を選ばない裏の世界がある。表の世界では頭脳明晰なブライト・スキルが活躍する。一方で、裏の世界では、人間関係のドロドロをさばく能力や、トラブルに巻き込まれたときの腹の座った対応力といったダークサイド・スキルがものを言う。

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⑺部下に使われて、使いこなせ

 古くて大きな会社において、ミドルリーダーが「改革」を実行するのは非常に難しい。しかし、風向きが変わって改革を実行するチャンスは必ず訪れる。ただ、このチャンスは本当に一瞬であることが多いので、その時に改革を進める「瞬発力」が重要となる。

 瞬発的に動くために必要となるのが、日頃形成しておいた「自分なりの神経回路」である。いざという時に即座に大胆な行動を起こすためには、平時から社内に張り巡らせたシナプスに自分の考え方をささやき続け、一人でも多くの仲間を持っておくことが大事なのである。

 と同時に、ミドルは、部下に情報を取りに行って状況を正確に把握しておく必要もある。部下から自然と上がってくる情報は、一定加工されたものや一部分にすぎないものであることが多いので、ミドルリーダーから積極的に取りに行かなければならない。

4.まとめ

 以上にまとめてきたようなダークサイド・スキルを駆使して、ミドルリーダーが会社のあちこちに最強のチームを作ることが、古くて大きな会社全体を強くするためのカギである。多くのミドルリーダーが、空気を読まず、多様性を受け入れ、小さな問題に正面からぶつかり続けていけば、きっと会社は正しい方向に向かっていく。会社の未来はミドルリーダーたちにかかっているのである。