もう離さないでね。
人生の転機には、ぬいぐるみを捨てることにしている。
たとえば、進学するタイミング。
大学生から社会人になるとき。
結婚して、一人暮らしが終わるとき。
離婚したとき。
生活が変わるタイミングには、絶対にさみしさと痛みが同居する。それを持っていかないために、私はぬいぐるみを捨てる。
離婚したとき、イケアで買った犬のぬいぐるみを捨てた。7年の結婚生活の中で、ずっとそばにいてくれた子だった。
あんなに辞めたかった会社を辞めたら、社会に取り残された気がして、さみしくてたまらない金曜日。
従姉の心臓が止まった日。
父のガン告知をきいた日。
離婚の不安で胸がつぶれそうだったとき。
犬のぬいぐるみを抱きしめて、布団の中にずっと
いた。そんな私の涙とヨダレを、吸いにすった犬のぬいぐるみは、人生の次のステージには連れていけなかったんだ。
それから5ヶ月後に出会った人と、同棲することになり、立川のIKEAに出かけた。
かつての相棒が、いたるところにいる。
抱きしめたら
「もう離さないでね」
って言われたから、思わず一匹連れて帰った。
そういえば、実家で初めて飼った犬も、私が弟と、捨て犬を連れて帰ったんだった。
ごめんね。もう離さないよ。
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