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モノが少ないという贅沢
留学先のフランスで生活していると、日本での暮らしが懐かしく思いだされる。
僕たち日本人は今、歴史上類を見ないほどの「モノに囲まれた豊かな暮らし」を送っているのではないだろうか。
確かにあり得ないほど便利で、それはとても素晴らしいことだ。
つい150年前までは、刀を帯に差していた生活が現実に存在していたわけだから、当時の人が現代を見たら腰を抜かすだろう。
けれど、そうしてモノに囲まれた暮らしは本当に「豊か」なのだろうか? そんな疑問も頭をよぎる。
フランス人の生活はシンプルだ。余計なモノを買わない。
必要なものを必要なときに、必要なだけ手に入れる。
例えば、甘いものが食べたいな…と思ったら、僕ならスーパーに走って目に留まった美味しそうなお菓子をいくつかカゴに放り込んでしまうだろう。
でも一部のゆったりした時間を生きるフランス人は違う。
(フランス人に限らずではあるが…)
彼らがまず向かうのはスーパーではなく、冷蔵庫だ。
そこにあるものでどうにかするのが基本だ。
卵とバターと小麦と、そして砂糖とココアとくるみ…たいていキッチンの片隅にあるこんなものを使って、クッキーやケーキを簡単なレシピでチャチャっと作る。
それはもちろん高級菓子の味ではないが、手作りならではの素朴さと出来立てのあったかさがあり、甘いものが必要な心と体に十分効くのだ。
日本には24時間営業のコンビニが街のあちこちに輝いている。
ちょっと出かけたついでに立ち寄り、無意識に買ったスナック菓子の袋が積み上がっていく。
それが日常だ。でも本当に必要だったのだろうか?
気づけば、買った記憶さえあいまいなモノたちが僕らの暮らしを埋め尽くしている。
フランス人は簡単にはモノを捨てない、といわれている。
「フランス人」とひとくくりにするのはあまりにも雑な分類ではあるが、実際の所多くのフランス人は無駄なものを買わず、捨てるものもほとんどない暮らしをしている。
彼らが手に入れるのは、自分にとって本当に必要で、自分に合ったものだけ。
高級ブランドの服がなくても、しっかりとした質のものを選び、それを大切に長く使う。
一方で僕たち多くの日本人はどうだろう?
流行に流され、安いものに飛びつき、使いもしない100円ショップの商品で部屋を埋め尽くす。
安いから、とつい買ってしまい、結局はそれらの多くが無駄になってしまう。
だけど、僕はそんな100円玉一つで満たされる無駄な買い物がとても好きだったりもする。
フランス人の豊かさは、お金の有無に関係がない。
彼らはバゲットにハムを挟むだけでも十分幸せを感じる。
高価な食材や見栄を張るような事をしなくても美味しければ十分だと思っている。
求めるのは、心地よい時間とその場を共有する人々だけだ。
インテリアも気に入ったものが見つかるまで不便でも「足りない」暮らしをしながらじっくりと探す。 間違っても間に合わせで気に入らないものを使うようなことはしない。
もちろん、フランスと日本の文化は異なるから、全てを真似することはできない。
それでも、彼らのシンプルな生き方は、僕たちに「本当の豊かさとは何か」を問い直すきっかけをくれる。
高価なものや多くの使い捨ての物をたくさん持つことだけが幸せではない。
むしろ、精神的な豊かさが、幸せに近づく道なのかもしれない。
留学生活の中で、そんなことを考えながら、冷蔵庫にあるわずかな材料で夕食を作るフランス人の姿を思い浮かべる。
モノのない生活が教えてくれる幸せ。
少しずつ、僕もその価値観を自分の中に取り入れられたらと思う。
モノに囲まれた生活を少し離れて、本当に必要なもの、本当に大切なものを見つめ直してみるのはどうだろう。
もしかしたら、そこに僕たちの新しい幸せの形が見えてくるのかもしれない。
だけど僕は安くてつまらなくて、あってもなくても良いけど、持ってたらちょっと嬉しい、そんな無駄なものが大好きなんだ…ああ矛盾。
これは僕の9つ目の記事。
もしあなたがこんな僕を応援してくれるというのであれば、その旅路を少しだけ見守ってほしい。
どこかで、一杯のコーヒーと共に。
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