27.飴と鞭

A兄弟はとても『優しかった』のですが、
時間が流れると彼の『裏の顔』が少しずつ見えてくるようになります。

彼はある日は私と話すどころか、目すら合わせようとしません。

そんな日の彼は会衆の他の10代~20代の若い姉妹と2人でとても親しげに話しています。
まるで私を空気だと思っているようです。

ある時はひとりの姉妹の足元に片膝ついて、その姉妹のほどけた靴の紐を結んであげていました。

私にはその行為が彼がその姉妹の膝丈のスカートの中を覗いているように見えてしまい、とても気持ち悪いと思いました。

ある時はレクリエーションのあとに喫茶店でコーヒーを飲むことになり、たまたま男女5人ずつだったので『なんだか合コンみたいだね。』と彼が言って、
向かいに座る私には目もくれずにあの靴ひもを結んだ姉妹の隣に座り、とてもなかよく話していました。

長老の立場であるA兄弟の口から『合コン』なんて言葉を聞くなんて思わなかったとすごく驚きましたし、その日だけに限らず、

なんで私と目を合わせないの?なんで話しかけてくれないの?昨日はあんなになかよく話してくれたじゃない!
と私の心の中で醜い嫉妬心がめらめらと燃えてくるのを常に感じていました。

A兄弟に冷たく無視され空気扱いされるたび、
もういい、私を見てくれないのならもう苦しいから彼を好きになるのは止めようと何度も何度も決意をします。

けれど次に会った時はまたあの優しい彼に戻り、私に話しかけたり触れたりしてくるのです。

その度に私は胸が高鳴り、ますます彼を好きになってしまうのです。

彼は定期的にこの『飴と鞭』を私に対して繰り返し使ってくるようになりました。

今思えば彼は私の好意に気づいて、私をおもちゃのように弄んでいただけだったんだなと思います。

私だけじゃない、恋愛経験がなく純粋すぎる心を持った何人もの若い姉妹たちの心をおなじ手口で穢していることにこの時すでに私は勘づいていました。

誰と付き合うとか、愛する誰かを探していたのではなく、
あのG兄弟みたいに若い姉妹たちに優しく接して『モテる俺』としての優越感に浸りたかっただけだったのでしょう。

私はT兄弟夫妻主導のいじめに加えて、A兄弟からの『飴と鞭』攻撃に一喜一憂してすっかり心は疲れてしまったのだと思います。

それでも私は彼の、私だけに対する特別とも思える優しさに勘違いしてドキドキが止まらず、
彼の妻になるという無謀な目的に向かって一直線で、敷かれたレールの上を転がり走るブレーキの利かない機関車トーマスのように、正規開拓者への道のりをひた走っていきます。

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