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風の中の音
風の中を龍が通っていった。
大きな雲があちこちに光を孕ませ、低い音が鳴る。
あの雲を集める風は、どこに向かうのか。
風の行方はわからない。
勝手にそう感じているだけのことだ。
僕は鳥のように羽を震わせ、空中に立ち止まりたかった。
どうしてこの身体は風を感じることができるのか。
実は何もしないままで、ただ、ありのままに見えるものを感じていただけで、ただ感じているものをありのままに見ていたわけではなかった。
風の中を通る龍は、一瞬で消えた。
大きな雲はそこにはなかったが、聴こえないはずの音が鳴っていた。
光はこの風の中の穴になり、僕はいつの間にか感じたことのない風が運ぶ音を奏でていた。
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