表紙の金魚鉢に入った金魚が、ぱくぱくしている様とタイトルを見て、直感で「読んだら自分の中の何かが変わるかも」と思い、図書館で借りた一冊。
本書は、思想家(フランス文学者や武道家など他の肩書きもあるけど)である内田樹氏がさまざまな媒体に書いたエッセイのコンピレーション本の文庫版。
もとは2019年に出版されているので、内田氏が文庫版あとがきで「〜今読むとけっこうネタが「古い」と感じられたと思います。」と説明されている。
確かに、読み始めてから少しすると、令和の前の政権のトピックがちらちらと出てくるので、少しの古さは感じる。
けれど、タイトルにある「生きづらさ」を今の時代に感じたことがある日本に住んでいる人であるならば、その人の置かれた環境や状況などによってそれぞれ違いはあるかとは思うが、なにかしら「同感」や「共感」のような「自分も(少しまたは大いに)そう思ってたもしくは感じていた。」といった気持ちを抱くことができそうと思った。
読んでいて、気になったところをいくつか挙げてみたい。
このエッセイの本題は、国立大学の独立行政法人化による課題、主にデメリットについて内田氏が私見を述べているのだが、教育だけでなく、医療や行政にも同じ課題があり、それゆえに今の閉塞感があるのか?と感じた。
内田氏がはっきりきっぱり意見表明しているので、少しだけすっきりした感もあった。
それにしても「こんなざま」ってなんてインパクトのある表現…
このエッセイの出典は、ある大学の広報グループ編の文庫であるから、読者を大学生や今の若者を想定して綴られていると感じた。
けれど、狭い「金魚鉢」というのを、「社会」「世間」「組織」「会社」「学校」「グループ」などの言葉に置き換えても、なんとなく意味が通じると考えてしまった。
そして、できるなら自分は、狭い「金魚鉢」にひびが入っていることに気がついたら、割れて水ごと放り出される前に、自分の意思で「えーいっ!」と「金魚鉢」を飛び出して、自分が機嫌よくいられる場所を探しにいける勇気を持てたらと思う。
このエッセイの最後には、大学生へ「学ぶ」ということについて内田氏が考える心構えが綴られている。
もし、自分が学生の時にこの言葉を聞いたり、読んだりしていたら、「学ぶ」ということを再定義できていたかもしれない。
最後は、人生100年時代を生きるをテーマにしたエッセイから。
リカレントやリスキリングなんてワードが出てきた時に、正直言って「学ぶ人は一生学ぶし、学ばない人もそれはそれで自由なのではないか。そもそも、言われてやれなんてモチベーションあがらないし、いやいややりながら得た知識なんてあっという間に忘れそうだから、コスパ悪そう。あと、学びを経済活動に直結させることもなんとなくナンセンスだし、そこに個人の人生とか本当に考慮されてるのか疑問。」などと個人的に思っていた。
それを内田氏がスパッと「余計なお世話」と言ってくれていたので、思わずにやっとしてしまった。
内田氏が論じている「見え透いた意図」については、本音と建前といったかんじで、国民はその本音に気づいているけど、諦めムードであえて静観しているようにも思える。
もしかしたらいろいろなことを諦めているから、「生きづらさ」として感じてしまうのだろうか。
「生きづらい」っていつ頃からネットなどで見かけるようになったかなと考えると、ここ10年くらいかなというのが自分の体感であり、それは自分が「なんかこの社会とか組織ってマジョリティ(少数派)にとって息苦しい気がする。」と感じ始めた時と一致している。
子供が産まれるまでは、自分の時間は大抵はコントロールできるものだった。
だから、残業も対応できたし、急な仕事も自分が無理すればなんとかなった。
それが、子供が産まれて、家庭生活と子育てと仕事を両立することになったら、途端に世界が一変したように、いろいろなことが難しくなった。
最初は、「慣れてないから、自分も努力や工夫しないと。」と思って対応していたが、いつしかこう感じるようになった。
「あぁ、社会や組織のシステムって制約やら支障などがないことを前提に作られてるから、その枠組みから外れると途端に生きづらくなるのかもしれない。」
とりあえず、今の子供たちの世代やその先の新しい世代にはこの世で「生きづらさ」を感じることが少ない社会のシステムになることを願っているし、そのために少しでもできることがあるなら、コツコツし続けていきたいなと考えている。
本書は、本当にいろいろ思考したくなってくる一冊だった。
「生きづらさ」を感じた時に、この本を読んだら、俯瞰してものごとを見ることができ、いま感じている「生きづらさ」は、いま生きている社会の歪みやシステムが壊れてきていることに人間の本能としての気づきとも言えるのかもしれないと、少しの希望と新しい視点を得ることができると思う。
自分にとっては、ちょっとした栄養ドリンク的な一冊だった。効く人には効くし、効かない人もいると思う。
内田氏の他の著作も、気になるものから読んでみたい。