「夏の名残りの薔薇」恩田陸 感想
あらすじ*
沢渡三姉妹が山奥のクラシック・ホテルで毎年秋に開催する、豪華なパーティ。
参加者は妹の甥の嫁で美貌の桜子や、次女の娘で女優の瑞穂など、華やかだが何かと噂のある人物ばかり。
不穏な雰囲気のなか、関係者の変死事件が起きる。これは真実なのか、それとも幻か?
*感想*
これはもう、1人1人のウソ(妄想)と少しの”本当”で作り上げられた物語です。
第一変奏~第六変奏まで、それぞれ時光、早紀、隆介、天知、桜子、辰吉の、少しのウソ(妄想)と本当の出来事で綴られています。
みんなの”望み”がわかっていく。
真実は嘘に混ぜるものだ。そのほうがもっともらしく見える。
「みんなが嘘だと思っていれば、ちょっと本当の話を混ぜても気づかない」
これらの言葉が全てだと言っても過言ではないと思います。
そしてキーとなる『映画化された原作』。
なかったはずの出来事を吹き込まれるうちに、自分にあったことだと信じるようになっていく…
ラストには辰吉(と桜子)の、ウソが本当に溶けていくシーンで静かに物語は終わります。
恩田陸にしては、本当にしこりなく綺麗に片づけて終わったな~という感じでした。とてもすっきりでしたね。
「人によって解釈が違う」小説ではないかもしれないけど、出来事の裏側が広くて、奥深くて面白かったです。
・・・・
それにしてもさ、人間関係について言うと、『黒と茶の幻想』かよ!って感じでした。
時光、蒔生の立ち位置かよ。
男にも女(兄弟)にも愛される男。
デジャヴ…。
*言葉*
・「真実に直面するのが怖いんじゃないかしら。もしくは逆に、真実があまりにもちっぽけでつまらないから、豪華に見せたいとおもっているのかも」(早紀)
・「イメージって大切なものね。望んでいることを想像するのって」(桜子)
・生きていると思っているうちに、死んでいるのではないか。まだ世界は存在すると思っているうちに、終わっているのではないか。
・「真実などつまらない。何の役にも立たない」(先代)
・真実は嘘に混ぜるものだ。そのほうがもっともらしく見える。
・誰もが終わらせたがっている。その先にある何かを始めたいのかもしれない。
・去年と今年が目の前に広がる灰色の世界に溶けて、一体となる。
ありがとうございました。
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