『灰色のアルカディア』プレイ感想
1億年ぶりぐらいに新作BLゲームが発売されたので早速購入。
以下ネタバレ
プレイ時間
25時間
攻略順
理央→芹→亨一先輩→真相
好きなキャラ
理央
総評
全体的に丁寧な作りで、各攻略キャラの掘り下げもされているから、最終的には全キャラに愛着が湧きました。真相もストーリーのところどころに布石が敷かれているので、一気に真相を長文説明される不快感やストレスがなく楽しめました。
悪い点を挙げるとすれば、用語が統一されていなかったりモブの名前が突然変わっていたことが気になりました。細かい部分の誤りは物語への没入感を地味に削いだりするので…。
あとはこうして欲しかった!という希望にはなるけど、各ルートで1つの謎が解明されて真相ルートで収束していくようなストーリー構成であったり、真相ルートで珠生が突然"正しいこと"という言葉にこだわりはじめていて真相ルートだけ浮いた印象を持ったので、珠生の"正しいこと"に対する執着心みたいなものをプレイヤーが若干違和感を持つ程度に描写されていたら、全ルートでのストーリー繋がりが強固になってもっと良作になっていた気がする。
各ルートで攻略キャラとの深い絆を結ぶという経験をした後の、真相ルートの大団円はプレイしていて気持ちよかったし、仲間たちと過ごした学園を無くしてしまう喪失感と過去との決別に対する解放感、学園の終焉と共に有限な学生時代の終わりが来たような、儚くも輝かしいの青春への別れの切なさで、プレイ後の余韻はすさまじかったです。
以下雑文
理央
珠生に対する独占欲が先走った結果、クラスメイトに珠生の極悪非道な印象を植えつけてクラスから孤立させるという、誰が見ても看過できないドクズっぷり。
その一方で、初回プレイ時と真相ルート攻略後の再プレイ時で大きく印象が変わったキャラだった。
自己愛や支配欲の塊のようにしか見えない部分もあり、虚言で塗り固めてきた実績も相まって、理央が最後まで釈明していた内容がどこまで事実でどこからが嘘なのか、プレイヤー自身に猜疑心を抱かせたまま終わるので、腑に落ちないままハッピーエンドを迎える人は多い気がする。
個人的には、珠生が好きなことも、運命を感じたという釈明も、嘘には感じられなかったかな。
嘘をつくことが悪いということを理解してはいても、それを建前のように思えたと言っていたのは、幼少期に教団に拉致されていたことが要因になっているんじゃないかと思った。
芹に対して体罰を行う時も、睡眠を禁止された時も、人を傷つけたくないという感情や眠りへの欲求を否定することで、自身に降りかかる命の危険に対する防衛反応だったように見えた。
自己暗示をかけることによって絶望的な状況を生き抜こうとした結果、拉致された当時の記憶がなくなったとしても一種の生存戦略として体に染みついてしまった、というのが嘘に罪悪感を感じないことに大きく影響しているじゃないかな。
自己暗示というのも結局は事実でないことを事実であると言い聞かせる嘘になりえるから、噓をついてはいけないという建前では生存できないという脅威に対する防衛手段が、拉致された記憶だけを無意識下に押し込めた状態で残っていたんじゃないかと思った。
運命と言っていたのも勘違いでも嘘でもなく、あの事件を忘れてもなお、あのとき珠生と出会ったことを忘れたくないという潜在意識を言葉で表現した結果なだけだと思う。
人を傷つける行為を止めてくれたのも、絶望的な状況の中で唯一希望を捨てなかったのも珠生だけであったし、そういう珠生の姿勢に救われたことが慕情としてずっと残り続けていたのかなという印象だった。
珠生が外部に助けを呼びに抜け出したことが、理央からしたら珠生を見失ってまま再会できなかった心残りにもなっていたと思うので、余計に珠生に執着していたのかなと。
珠生に選んでもらえないことは運命の否定になり、それが頭の中にいた珠生の存在(過去出会った事実)すらもないものにされる恐怖が騒動の引き起こした主な要因だと思った。
理央が起こした虚言騒動は褒められるものではないけど、それでも助けてくれてありがとうという言葉自体が、数年越しで届けられたもののように思えてそこは思わず感動してしまった。エピローグでも過去から逃げげないで向き合う決意をして終わるので、ようやくスタートラインに立ったような前向きなエンディングで読後感がよかった。
芹
自責思考で卑下するときと好意を持たれることに対する嫌悪感で拒絶するときで落差が激しすぎて最後までビビりながらプレイしてた。
珠生を受け入れることで、過去を受け入れてあるがままの自分を愛せるようになる過程が面白かった。
自分が襲われることに対して恐怖を感じるのは、おそらく拉致監禁されたときに強姦されたトラウマが要因であるし、幸せな生活が一転して両親の不仲や喧嘩が絶えない状況になってしまったことの責任が自分にあるという、自責が生み出した極端な自己肯定感の低さも相まって、好意に対して嫌悪と恐怖が綯い交ぜになっているのかなと思った。
どれだけ酷いことをしても、ありのままを受け入れてくれようとしていた珠生から混乱して逃げたくなったのは、ずっと不幸に浸っていたこそ、幸せになることにも恐怖を感じていたんじゃないかなと思う。
ある意味でショック療法ではあるけれど、珠生の自己犠牲を経てはじめて、人との関わりが引き起こす恐怖よりも大事な人がいなくなることの恐怖の方がずっと恐ろしいことだと気付けたんだろうと思います。
顔色をうかがうことも侮蔑の目を向けることもなく、ただ純粋で対等な、
子供のように無邪気に戯れ合う2人の姿がとても印象的だった。
亨一先輩
エンディングの2人の新婚生活の糖度は致死量を超えてる。
珠生の直向きさに絆されて二人の距離が徐々に縮まっていく過程に萌えました。理央や芹のルートでは真に心が通い合うまで長くシリアスな場面が多かった分、亨一先輩のルートは和むようなシーンが多くて癒された。
他2人のストーリーとは違い、こちらの話では亨一先輩というよりも、珠生の家庭環境や学園に対する不信感や謎の掘り下げがメインとなっているという印象だった。
ただ、1週目をプレイしていた際は特に不満もなく楽しくプレイできていたけど、再度読み直していると学園に対する謎は放置されたまま学園を去る流れになっていたので、掘り下げたら掘り下げた分、謎に対峙するような展開があればよかったなと思います。ルート単体で見ると消化不良な印象を受けてしまった。
バッドエンドは亨一先輩の父親の視点を疑似体験できるような見せ方だったので、なぜ母親がDVに合うのかという疑問の解消されたというのと、珠生にありのままの自分を受け入れて欲しいという期待を裏切られたショックや怒りから、恨んでいた父親と同じように自分の正当性を振りかざすような描写がよく考えられているなと思いました。