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『大穢』有明さんルート雑感
有明さんルートをプレイした際の有明さん、大崎さん、ストーリーに対する雑感です。
※ 以降、個人的解釈が多分に含まれています。
有明さんという人物に対する個人的解釈
全体的な印象としては、明朗快活で人好きのする好青年の印象がある一方で、本質的には自己肯定感が低く、平等に他人に優しさや愛情を分け与えられる側面もありますが、その実、愛情欠乏のために誰よりも愛情に枯渇している、という印象を受けました。
自己肯定感の低さ
基本的には善性に傾いており積極的に親切する質ですが、その一方で自分事ではないことでもまるで自分事のように傷つき、自身が非難されていると感じるような性格に見えます。人物情報の「加害者だと責められた時、強いストレスを感じてしまう。」という情報も踏まえ、彼自身の資質や言動に関わる事柄に関して否定されているように感じると反射的に拒否反応を起こしている場面が所々で見受けられました。
このように強い拒絶反応がでてしまうのは、自己肯定感の低さからきているものと感じました。自己肯定感の低いというのは、自分に対して自信がなく、ありのままを肯定できないということであり、自分を受け入れる存在が自分の中にないということです。そのような核がない状態では他人からの評価により自分の存在価値が揺らぐことになり、否定されたときに自身の存在価値も否定されているように感じるため、自分を上手く保てない精神状態に陥ります。自分をなんとか保とうと奮起する状態が拒絶反応として出ているのだと思います。同時に、自分を脅かすものは周囲の環境であったり人であったりするため、否定されるという言動に対して攻撃的な態度として表面上に出てくるのだと思います。
例えば、大崎さん、有明さん、新橋さんで寺に向かうシーンです。ここでは有明さんにとって好意的なイメージがある大江島に対し、新橋さんが否定的な意見を口にしています。否定的な意見を聞き、おそらく自分の価値観を否定されているように感じ、ストレスを感じているように思われます。ただし、新橋さんとはまだ関係性が浅く自己開示が躊躇われるため、強い拒絶を抑え込んでなんとか返答しているように見えました。
新橋「まぁ。 あれくらいの癒やしがなければ 島民もやっていられなかったでしょうね」
新橋「どこにいても潮風が纏わり付いて、 気持ち悪くてかないませんから」
有明「・・・・・・、」
新橋「濾過水の風呂でしたらお断りしていました。 安全な温水があって幸いです」
有明 「そうですね・・・・・・」
今度の有明さんは申し訳なさそうに頭をかいた。
・・・・・・自分も親族を大江島に持つ同じ立場であるが、島をどう言われようと何も感じない。
有明さんの場合は、自身が責められていると感じるようだ。
彼がお人好しな性格だからこそ、見ていて気の毒だった。
他には、大崎さんに新橋さんの食糧を皆に分配することを提案するシーンです。
この提案に対する大崎さんの「奪うことや脅すこと強要することはできない。罪を犯したくない。」という返答に「罪じゃない」という弁明をしています。「全員に平等に食料が行き渡る」という有明さんにとっては誰に対しても良心的な配慮であり解決策である提案を「罪」と称されたことにより、考えを否定されたと感じ、ひいては自己自身も否定されたと思い、癇癪を起しているように見えました。ちなみにですが、ここで強い物言いになっているのは、おそらくですが有明さんから大崎さんに対してある一定以上の信頼する感情があり、自己開示しても受け入れてくれるだろうという安心感を傷つけられたことに対して逆上しているのだと思います。また、有明さん自身は父親を見殺しにしたことにどこか罪悪感を感じているようなので、彼自身の中にある罪に見覚えがあるからこそ、「罪」という言葉そのものに対しても強い反発心が沸き起こったのだと思います。
有明 「新橋さんを問い詰めてください・・・!それで彼を汐留さんのように閉じ込めて、 彼の持ち物を調べましょうっ・・・・・・」
有明 「その食糧をみんなで分配すれば――!」
大崎 「できません」
有明「!」
彼は愕然とした。
(中略)
大崎 「罪を犯して生きるくらいなら、自分は死んだほうがましだと思っています」
有明 「罪なんかじゃないです・・・・・・」
有明 「だって何も、全部奪うわけじゃなくて・・・・・・分けようって言ってるんですよ・・・」
大崎「・・・・・・」
有明 「大崎さん・・・・・・、」
(中略)
有明 「詭弁です」
大崎「・・・・・・、」
・・・冷え切った声だった。
有明 「あなたは僕を疑っている」
大崎 「有明さん――」
有明 「僕はあなたを信用して話したのに。あなたという人はっ・・・・・・」
自分は再び膝をつき、震える身体に手を当てた。
有明 「大崎さんの言っていることはよくわかるんです。全部正しいんです、いつも、いつも・・・・・・!」
自己肯定感の低さの要因
自己肯定感が低い要因は、おそらく有明さんと母親との関係にあり、幼少期に全面的な肯定を得られなかったことが原因になっているように思います。
彼と母親との間にある実情がどうであったかは彼からの発言からはすべてを知ることはできませんが、彼の発言が真実だとして、おそらく母親から愛されたという実感が持てない幼少期を過ごしていたように思います。
磨ぎ汁や牛乳で育てられたこと、「愛情不足」により身体が弱いと医者に診断されたことが、母親から愛されていなかったという感情を強めている可能性はあると思います。元々母親との間に違和感と居心地の悪さを感じていたように思います。
また、おそらく愛されなかった原因を突き詰めた結果だと思いますが、彼は「父親と似て生まれずに母親から嫌われた」と認識しており、本来は親から無条件に肯定されるためには何かしらの条件を満たす必要はないにも関わらず、母親にとって好都合な存在であるという条件を満たせなかったと思い、無償の愛を得られなかったと感じていると思いました。
結果的に、母親から全面的な肯定を得られなかったという実感により、「自分は自分のままで存在していても良い」という精神的支柱を持てないまま大人になり、それが自己肯定感の低さに繋がっているように見えます。
さらに、父親の死をきっかけにして彼らしい善性と価値観を真っ向から否定されることになり、彼からしたら、母親がどこまでも自分を見てくれない、理解してくれないという不信感に対する決定打になったと思いますし、その際に彼の核となる部分が大きく揺さぶられることになったでしょう。また、私宅監置されていたことから、母親から精神疾患を持っているものだと思われていたことも想像に難くないですし、それが余計に彼の心を追い詰めたのだと思います。
結果的に、精神的支柱を持たない彼が彼自身の心を守り抜くために、自殺幇助を繰り返し、父親を看取ったことや己が考える正義を正当化してきたのだと思います。
自己肯定感の低さに由来する人間関係持続の難しさ
彼が「友人がいない」と発言したのも自己肯定感の低さに由来するものだと思います。幼少期の生育環境より、身体的特徴や資質を肯定されていないという思い込みから自己肯定感が低くなり、また親からの愛情に対して信頼というものが構築されておらず、自ずと信頼関係を構築する経験に乏しくなったために、友人関係に関しても同様に信頼を置こうとすることが困難ではないかと思いました。また、信頼したとしても相手の一挙一動から自分の存在否定の意図を受け取ってしまいやすいため、すぐに自己防衛のフェーズに入ってしまい、なかなか良好な関係にまで漕ぎつけることが難しい性格だと思いました。
家族という幸福への希求
信頼関係を構築することの難儀さを持ち合わせてはいる一方で、母親といつか分かり合える日が来ることを切実に願っている一面も伺えます。
そして彼が家族にまつわる 「幸せ」を 求めていることもまた、 察せられた。
有明「・・・・・・家族だけど、 信じられないんです」
有明「あなたのように、 必ず迎えに来てくれるって ・・・・・・言い切れないんです」
有明「妹ともうずっと会えていません」
有明「僕と母には確執があって、18で家を追い出されてから、実家に帰れてないんです」
(中略)
有明「僕と母の最初の反目も、そんな反抗期と一緒です」
有明 「僕が思った正義を、・・・・・・許してくれないんです」
有明 「でもいつかわかり合えるって信じてきました。だからあんな窮屈な生活も耐えられたんです」
有明 「だけどここへ来てわかんなくなっちゃったんです」
有明「帰りたい場所や行きたいところは たくさんあるのに―――」
有明 「僕を待ってくれている人なんて、 いるのかなって・・・・・・――― 」
「家族が信じられない」と言いつつも、「自分が思った正義を許してくれない」「いつか分かり合えると信じてきた」という発言の根底には「母親と折り合いをつけたい」ということよりも「自分のことを理解して欲しかった」ということを切望しており、なによりも母親の愛情に枯渇しているように見えました。(この点においては、大崎さんと新木場さんの良好な家族関係への妬みが表出していることからも、家族、とくに母親との確執の解消に執着していると読み取れます。)
その他
寂しそうな子供にキャラメルを配ることについて
憶測が多めにはなりますが、寂しそうな子供にキャラメルを配るのは、寂しそうな子供を通して、かつての少年期の有明さん自身を見ているように思いました。キャラメルは有明さんと大崎さんとの関係を繋ぐものであり、大崎さんというのは罪に対して罰を与えてくれる存在だと有明さんは認識しているかと思います。罰するというと一見暴力的な印象を抱くかと思いますが、罪を罰せられることで罪悪感を軽くでき、心の安寧をもたらしてくれるものという認識を持っているのであれば、キャラメルの受け渡しという代替行為を行い、罪悪感を癒そうと無意識に行動しているように見えます。
Aルートでの過呼吸について
Aルートの終盤で過呼吸を引き起こすシーンがありました。
口づけを拒絶された過去がフラッシュバックして過呼吸を引き起こすということは、そのこと自体がトラウマ体験となっていることだと思います。トラウマになったのは、おそらく拒絶されたと思ったことで自分の存在を否定されたと感じ、自身の存在意義に対して強い衝撃をもたらした結果だと思います。有明さんの性格上、非難の槍玉に挙がった時点で精神的に限界だったように見えますし、その上で唯一縋れる存在の大崎さんにも拒絶されたことで精神的限界に達したように思えます。また、信頼をし、自己開示をし、自身の急所を見せつつあったにも関わらず、その相手に突然寝首を掻かれるような衝撃を与えられたとしたら、相当に強いストレスになったことは想像に難くありません。どこかで自分のことは誰も受け入れてくれないという無意識が存在しているかと思うので、精神的負荷が相当強いように見えました。
A・Bルートの個人的解釈・感想・その他
大崎さんが真実に固執する理由
真実が世間に明らかになり咎人が罰せられることよりも真実そのものを追求する言動が多く見受けられます。
おそらく、望まれて生まれてきたのか、自分の出生に対する疑問が払拭されないまま生き長らえてしまい、死に場所も生きていてもいい理由も見つからずに積もり続ける疎外感や孤独感を取り除きたいという欲求、また自身の出生に対する希求の代わりとして、真実を追求するという代償行為によって溝を埋めようとているのだと解釈しています。
自分が生まれた意義を知りたいのと思うのは、自分の生を祝福されたい欲求からくるものでありますし、真実を追求してその解が返ってくることで間接的に欲求を満たしているものだと思いました。
10年前の出会いについて
これはあまり関係ない話ではありますが、有明さん視点では、大崎さんのことを「高価な風呂敷を奪わずにキャラメルだけと奪った、悪行に手を染めながらも善性を持ち合わせている」人物のように見えますが、大崎さん視点の事実としては「有明さんを慮った良心から行った行動ではない」という、二人の認識のズレが読んでいて面白いなと思います。その他にも、それぞれが互いに自分に都合が良いように解釈し、会話の中にズレを感じるような場面が所々に存在し、人はどこまでも自己解釈というフィルターを通してでしか事実を見ることができない(そもそも事実というのは外部からの刺激を解釈した瞬間に初めて実在が始まるものだと思いますが)というもどかしさを感じられて面白かったです。
Aルート
運命を断ち切って、今現在の有明さんを1人の人として愛するルートだと思います。
こちらのエンディングでは、自身の命が祝福されたものと信じることで出生への疑問を解消し、有明さんにキャラメルを返すことを生きる理由とすることで、過去の呪縛からの解放と生きる理由を自己で定義して他人に委ねない決意をしたことで自己確立を果たし、生きることに前向きになるエンディングだと思います。
個人的には、忘れようと必死に抑圧してきた10年前の記憶と向き合い、生きる理由を自分に課したこちらのルートが好みです。あと、有明さんにはトラウマが残るものの、大崎さんの接吻拒絶事件はある意味でショック療法だなと思っていますし、こちらの方が母親との確執を解消する手立てと可能性を見出せるので好きでした。
Bルート
運命に縛られ、自信の命が呪われたものと思い続け、過去の有明さんを引きずり続けるルートだと思います。
こちらは、祝福された命ではなく暴力から生まれた命であると断定し、新木場さんの血を輸血してもらうことで普通の人間と同じように生きてよいという安寧を得られたエンディングだと思います。
作中で「全部嘘にして壊して大事なものを失ってしまった」と明示されているように、三回忌での有明さんとの出会いや深めた絆を嘘としてなかったものにし、「10年前の夜に再び引き戻された」とあるように、自身の罪を認識していなかった過去へ逆戻りし、現実から目を背けているように感じました。また、新橋さん、市場前さん、青海さんの死を自分の加害によるものではなく、三人の不和が引き起こしたものであったとし、有明さんへの加害に関しては有明さんの被虐心が搔き立てたものとし、有明さん自身は自信の罪に対する自己正当化が強まり、二人とも他責思考に陥っています。
全てを曝け出して、一見さっぱりする終わり方に見えますが、二人の根本的な問題は解消されていないのでモヤモヤが残りました。
まとめ
Aルートでは有明さんは大崎さんを避けているわけで、避けているのは拒絶されたからではあるし、これ以上拒絶されることに耐えられないからでもあるので、大崎さんから有明さんへの想いが上手く伝わっていないな~と思うし、Bルートでは大崎さんから有明さんへの想いも有明さんから大崎さんへの想いも呪いと言い表していて恋愛ゲームとしてはモヤモヤとくる終わり方ではあるしで、どちらに行ったとしても完璧なエンディングがないという何とも言えない気持ちです。でもやっぱりAルートの方が気分的にはスッキリするな~と思いました。
新橋さん、青海さんルートもいつか書きたいです。
【2024/12/3追記】
誤解を招きそうな書き方をしていたので追記しました。
Aルートが私にとってより好ましく感じているのは、有明さんと大崎さん、両方について、心理療法という観点において、深層に根付いている傷を癒せる方向に進んでほしいという願望が主な理由になります。
Bルートで自己正当化が悪いように記載していますが、自己正当化そのものが悪いわけではなく、自己正当化により深層心理に眠る傷を抑圧してより深い無意識へ押し込んでしまい、克服のきっかけを見逃すことを懸念しているためです。あと、個人的には、有明さんの聖母的役割を放棄して欲しいという願望と、大崎さんには個人に依存しない独立を進んでほしいという願望があるためです。(どちらの場合も現状の立場を放棄することで蟠りになっている場所に立ち返ることができ、立ち返ることで客体的に自身を見つめ直すきっかけとなると思っているからです。)
また、有明さんと母親との関係を全面的に引きずっていることが全ての言動に影響を及ぼしているような書き方をしていますが、有明さんの元から持ち合わせている善性を否定しているわけではありません。どのような言動においても複合的に影響しあっていると思っており、その中の一要素として母親との関係性というのを取り上げました。私自身も有明さんの善性を信用している一人です。